蟲の勇者は地底に眠る。

文字数 2,645文字

河本 師走(ふーみん) 様作

【あらすじ引用】
──この世界には地球と異なる進化を遂げた存在がいる。

 それは『虫』と呼ばれる存在。
 彼らは甲殻類としての装甲を武器として用い、戦う手段を得る。
 やがて地上の支配権を手にして、人の姿をとるようになった。
 それらの存在は殻人族(かくじんぞく)と呼ばれ、地上にある『森』という楽園で暮らしている。


 しかし、全ての殻人族が森の秩序に従うわけではない。
 地底に生きる者もいれば、同胞を殺める者もいる。

 何者かの手によって、過去の災厄──『幻影魔蟲』コーカスが復活を遂げた今、森は獄炎の悪夢に包まれてしまうだろう。

 コーカスの暴走を止めるために。
 コーカスは何を求め、何を探しているのか。
 陽炎のベールに隠された素顔とは──。


 何度もコーカスに殺された殻人族の少女、ヒメカ。
 お調子者で明るいトンボの少年、ギンヤ。
 寡黙で冷静なカマキリの少女、キマリ。


 彼らと協力して、コーカスを暴き倒せ!



 地底に生きる若き少年、アトラスは地上の楽園へ──今飛び立つ!



 ……これから語られるのは、地球とは違う世界の昆虫物語。

 そして進化を巡る、神秘の物語。

【物語は】
混沌とした場面から始まる。ある少女が命を狙われていた。追手から逃げようとするものの、立ち向かう力もなく追い詰められ、命を奪われてしまう。
果たして、これは夢なのか現実なのか?
それとも未来を予見しているのだろうか?

【世界観・舞台の魅力】
冒頭から始まる場面で、”黄緑色の血”というキーワードが出てくる。
あるショッキングな場面を通し、この物語の世界観や重要な人物の容姿なども伝わってくる。この場面で分かること、少なくともここに出てくる人物たちは自分たち人間とはどこか違っているという事。そう、彼らはあらすじにもあるように、”地球と異なる進化を遂げた存在”なのである。この部分で出てくる”ホンモノ”は一体何を指しているのだろうか。気になる伏線である。

用語補足:(web調べ)
自然選択とは個体間の適応度(生存や繁殖)の差によって生じる過程。その差がたまたまランダムに生じたものではない場合。
自然選択による進化のためには、 淘汰(選択)、変異、遺伝の3つが必要。


物語の流れがとても巧い為、自然に登場人物が紹介されていく。この場面で出てくる少女は、主人公の一人なのだろうか。それとも主人公と共に戦う仲間の一人なのだろうか。あらすじに書かれている”彼らと協力して、コーカスを暴き倒せ!”という一文から考えると、”彼ら”以外に誰かがいるのではないかと考えてしまう。しかし現時点では(この部分の文を書いている時点の拝読ページ)プロローグの段階の為、答えが出るのはまだ先のように感じた。

本編に入ると、世界観について明かされていく。
作品オリジナルの設定であり、最も重要である殻人族についても、ある少年の危機を通し、どのような生体を持つ生き物なのかが丁寧に説明されている。
どんな進化を遂げたのか。どんな部分が人間と違うのか。とても不思議で面白い設定だと感じた。
(設定についてのネタバレに関しては作家さまから、個人的に許可をいただいております)

【登場人物・物語の魅力】
舞台の設定がしっかりしてるため、分かりやすい物語である。作品のはじめのの方に世界観や設定について詳しく描かれているが、オリジナル要素が多い為、とても好奇心を刺激される。しかもつらつらと説明が入るわけではなく、要所要所で説明されるため、覚えやすく納得もしやすい。

彼らの敵となる存在はどうやって産まれたのか。
その経緯について語られているが、これは現実の世界でも十分に起こりうる”勘違い”によるものだと思われる。
その為、この物語で描かれている登場人物たちが”人間ではない”にも関わらず、共感しやすかったり、想像しやすかったりするのではないかと感じた。

武器が体の一部。
これは己の身体自体が鞘と考えると、とても面白い発想だと思う。手に持って歩く必要もないし、身体につけておく必要もない。必要な時に自分の意志で取り出せばいいのだ。しかも全ての殻人族に、備わっている、祖先から受け継がれたもの。この武器についての設定も、とても面白い。独創的である。

冒頭の少女と少し変わった能力をもつ主人公との出会い。どのように出逢うのだろうかと思っていたが、出逢う場所がとても自然な形である。出逢い方は少し変わってはいるが。ここで思うのは、主人公は田舎者で世間知らず。冒頭の少女は都会育ちもしくは現代っ子というイメージが近いのかも知れない。二人はある場所で出逢い、話をすることで地中で生活していた者と森で生活していたものの文化や生活の違いが明らかになっていく、ナチュラルな話の展開。虫からの進化であるという事も随所に活かされており、作者の拘りが詰まった作品であることが伝わってくる。

【物語の見どころ】
全体的に世界観や舞台の設定について、とても凝っており、良く練られていると感じた。子供と大人の違いや、武器について。進化の仕方や、生活や食事に至るまで”虫”からの進化であることが分かりやすい。
好きでなければここまでモチーフとして扱えないと思う。
それくらい活かされている。

そして、作品の下記にある作品の設定補足。用語など。図も入れたりし分かりやすく補足されている。虫についてよく知らない人でも分かりやすく、納得のできる世界観だと思われる。

主人公と冒頭の少女について。
どちらも個性的。主人公は天然で世間知らずであり、屈託がなく素直な印象。それに対し少女の方は、言いたいことをはっきり言う、少し気の強い子という印象である。一見性格が合わなそうにも感じるが、物語が進むにつれ少女の性格に好奇心旺盛な部分も垣間見え、案外うまく行くのではないか?と思ってしまう。読了部分はまだ序盤の為、これから二人の仲がどのように変わっていくのか想像するには早計かもしれない。

あなたも是非、お手に取られてみませんか?
オリジナル設定の部分がとても良くできていて、伏線に感じる部分も多々あります。少女との会話の中で主人公は、父に教わった鍛える方法が”根拠のない話”だと知る。しかしそう方法により、強さを実感している彼はどうにも納得いかない様子。これはなにか有るのではないかと、ワクワクします。

この物語の先はどうなっていくのか。
果たして彼らにとっての脅威を、倒すことことが出来るのか。
その目で是非、確かめてみてくださいね。お奨めです。
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