前世譚4 ❀ クッキー泥棒の後輩

文字数 1,356文字

(生来、私は隠遁の道に入ることが決められていたのかもしれない)
アリエッタは幼い頃から人見知りで、口下手だった。
アリエッタ、馬車が来たよ

アリエッタ。

無理をしないで、いつでも帰ってきて良いのよ。

ありがとうございます、お父さん、お母さん。
小さなカバンをかかえ、玄関先に出ると。
くるっ、くるっぽぅ
まぁ、あなたは……
店先にいた鳩に、身をかがめる。
(リカルドの友だちの鳩かしら? とても似ているわ)

そっと鳩の頭をなでる。


鳩は逃げずに、その場にとどまった。

私ね、これから遠いところに行くの
くるっぽぅ……ぽぅ
それじゃぁ……またね
……。

このときアリエッタは、その鳩の秘密を知る由もなかった。

冬の終わりに修道会へ入ったアリエッタ。


春になる頃には、修道院の生活にも慣れ、平穏な日々を送っていた。

(春の陽気で、ついつい眠くなってしまうわね……)

カラン、カラーンと鐘の音が響く。

(お祈りの時間ね。聖堂に向かわなくちゃ)

鐘の音は、学校と同じく、おつとめや祈りの時間を知らせるものだ。


聖堂へつづく廊下を歩いていると、中庭の光景にふと目がとまった。

アリエッタは近づくと、彼女の肩をそっと揺らした。

こほんっ! シスター・マリアンヌ

また遅刻ですか? 何度目です!?

ふぇ!? あ、ああ、ごめんなさい!

院長、これにはワケが……っと、あれ?

お祈りの時間よ、シスター・マリアンヌ。

いいえ、エレナ

なーんだ、アリエッタじゃない。

びっくりしたぁ

二人は仲良しで、こっそりと本当の名前で呼び合うのだ。
行きましょう、遅れると本当に怒られちゃうわ
そうね。起こしてくれてありがとう
少し急ぎ足で、聖堂へ向かう。
げ。聖堂の前に院長が……
怖い顔。少し遅れてしまったみたい……

そこのお二人、なにをこそこそと?

必要以上の会話は禁じているでしょう

二人が身をすくませていると。
お待ちください、院長

シスター・ガブリエラ。

あなたまで遅れてくるなんて!

シスター・ガブリエラ。


先輩のシスターだ。

申し訳ありません。

この二人は、わたくしの仕事の引き継ぎを手伝ってくれたのです

……。急に決まった「退会」ですからね。

忙しいのは分かりますが、時間は守りなさい。


さぁ、お祈りはもう始まっていますよ

院長は三人を聖堂に通してくれた。


静謐な聖堂では私語が響くので、お祈りが終わったあと、二人はシスター・ガブリエラのもとへ行った。

先程はありがとうございます、シスター・ガブリエラ
いや~、助かりました

ん。どういたしまして

あの……「退会」されてしまうって、本当ですか?

そうなの。

ま、いろいろと事情があってね

寂しくなります……。どうかお元気で。

ありがとう、二人も元気でね

ぐぅぅうぅ~

お腹も、二人に「さよなら」を言いたかったみたい。


あら、キッチンから良い匂いがするわね……

確か、クッキーを焼く時間……
ぐぅぅうぅ~
私のお腹も、シスターとの別れを惜しんでいるみたいです

キッチンでなにか手伝えることがあるかもしれないわね。

ご一緒に行かない?

ぜひ! アリエッタも行きましょう。

きっとキッチンは大忙しだわ

ええ。子どもたちの分も作るから、大変だものね

この修道院では、孤児の子どもたちを預かっているのだ。


3人のシスターは、キッチンへ急いだのだった。

私の登場する物語

 シスター泥棒

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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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