第32話 昔々の異世界ファンタジー?

文字数 909文字

 昔々、ある国の王妃が、六牙の白象の夢を見た。彼女は、その象牙を手に入れたいと思い、王に申し出た。
 王妃を愛する王は、国におふれを出した。
「このような象の、六牙を獲った者には賞金を与える」

 ヒマラヤの山中に、この六牙の白象がいた。だが、この象は、生まれ変わって仏になるための修行をしていた。
 ある時、この六牙の象は、ひとりの猟師を危機から救ってやった。だが、この猟師、国に帰ると、このおふれを見て、よからぬ気を起こした。
 助けられた恩を忘れ、この象を殺し、六牙をモノにして王に差し出そうと考えたのである。

 猟師は、この象をだますために袈裟をまとい、心を許している隙を狙い、毒矢を放った。
 毒がまわり、死期の近いことを悟った象は、この猟師を怨む代わりに、その煩悩、賞金に目のくらんだあわれな彼の心へ、慈悲の目を向けた。

 仲間の象たちが、報復しようとするのを、六牙の白象はその四つ足の間に猟師を入れて、彼を守った。
「なぜこんなことをしたのか?」白象が猟師に聞くと、彼は「その六牙が欲しかったのだ」と答えた。
 すると白象は、自ら、自分の牙を大木に打ちすえて、折ってしまった。そして猟師に与えたのだった。
 白象は思った、(これで私は、布施の行をひとつ、した。私は死んだら、仏の国に生まれるだろう。やがて仏になったら、まず、あなたの心にある貪り、愚かな欲望を取り除くだろう。)

 …このような話を、泊まったホテルにあった「仏教聖典」で読んだ。
 ふかい、話である。
 涙ぐんでしまった。
 このようなことを、もしされたら、私は賞金など、どうでもよくなってしまうだろう。
 もし象が、あの世で生まれ変われなくても、きっと、穏やかな、素晴らしい最期だったように思う。
 王妃のわがままから始まった話だが、その夢は、もしかしたら、象の望みを叶えさせる夢だったのかもしれない。

 毒のまわった象の、苦しみを思う。さぞ、つらかったろう。しかし、猟師を憎まず、怒り狂う他の象たちから、猟師を守りさえした。
「いよいよ我が身は死に行く身」と知った時でなく…今も、生まれたからには常にゆっくり死に行く身である…この象のような態度で、人生に対したいと思うのだが。
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