エピローグ

文字数 776文字

「もう!だめでしょう。こんなにしては」
「だって。俺は」
「言い訳はだめです!表で反省していなさい!」

文子に叱られた彼。とぼとぼと境内を歩いていた。

「あ。父ちゃん。いい加減にしてくれよ」
「ん?どうしてだ」

息子の一矢(かずや)は境内にいた父に怒った。

「父ちゃんがいつまでも謝らないから。母ちゃんがあんなに怒っているんだよ」
「だって。怖いぞ」
「当たり前だろう?蛙をあんなに家に入れるなんて」

悪戯をして叱られた源之丞。息子にまで怒られた。そこに娘までもがやってきた。

「あ。いた。早く謝ってよ。私も限界よ」
「すまなんだ。お前達にそんなに迷惑をかけているとは」
「それはいいから!とにかく謝って」

子供達に即された源之丞。清水にて洗濯している妻の背後に立った。その背は怒りに満ちていた。

「あのな。お文」
「何ですか」
「これ」

森で採ってきた彼女の好きな花を差し出した。

「……許してたもれ」
「こんな花で誤魔化せられません!」
「あのな。好きだぞ。お前のこと」
「……」
「最近、元気がないのでな。笑わそうと思ってやったのだ。まあ、やりすぎであったな」

彼女はスッと立ち上がった。

「本当に反省している?」
「ああ。蛙の数は確かに多かった。あんなに集めなくてもよかったな」

反省するところがずれている源之丞。文子は彼をじっと見た。

「何じゃ」

彼女は彼に耳打ちした。

「……あのね。また名前を考えなくちゃね」

そう言って笑顔で彼の頬にキスをし、そっと抱き付いた。

「ん?もしかして。赤子か?お文」
「そうです。ごめんね。体の調子が悪いのはそのせいだったの」
「これは大変じゃ!?早速、今から精の付くものを山から獲って」
「いいの!こうして、一緒にいて」

目を瞑り胸の中にいる妻。彼はやれやれで抱きしめた。

「お文……まあ、いいか」

夕暮れの大森神社。カラスが鳴く山の上。そこには愛が満ち溢れていた。




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