第25話 罪の告白
文字数 1,687文字
兄の妻だった由美子と会うのは、九年ぶりだ。
秀一 は由美子を見て、こっそり思った。
(由美子さん、ちょっと太ったな)
ふくよかだった由美子の体型は、さらにボリュームを増していた。
今、秀一は由美子と二人で人気 のないベンチに座っている。
話があるからと、由美子に連れ出されたのだ。

「秀ちゃん、ごめんなさい」と由美子が急に謝ってきた。
何も言わずに出て行った事だなと、秀一は勝手に想像する。
悲しかったけど、由美子にも事情があったのだろう。もう気にしていないよと言う代わりに、笑ってうなずいた。
「一輝 さんが亡くなったのは、私のせいなの」
いきなり何を言い出すのかと、秀一はポカンとした。
「これから警察に行ってくる」
「警察?」
由美子が顔を手で覆う。
ただ事ではないと、やっと秀一は慌てた。
「去年、一輝さんが亡くなった時にすぐ行けばよかったのに……ホント、バカなことしちゃった……」
「……何、したの?」聞くのが怖かったが口にした途端、秀一はピンときた。
「……本家に、刑事さんが来てるみたいなんだけど、関係あるの?」
「刑事が来てるの⁈」と由美子は顔を上げた。「今? 本家に?」
「兄さんのスマホが神社で見つかった件を調べてるんだって」
秀一は凛 から聞いた話をそのまま伝えた。
「私じゃない! 神社になんか置いてない! 私は一輝さんのスマホを持ち出して、近くの畑の中に投げ入れただけよ!」
悔しくってと、由美子は唇を噛んだ。
「一輝さんからやり直そうって言われて、あの日、みずほに来たんだけど……一輝さん、温室の前であの女と抱き合ってたのよ!」
秀一は顔が赤くなった。「……真理子さん、と?」
由美子は何度もうなずいた。ひどいと思うでしょと、目で訴えてくる。
「腹が立って、近くにあった一輝さんのスマホを持ち出したの!」
由美子はまた、顔を覆った。
「でもまさか、こんな事になるなんて……あの人が死んじゃうなんて、思わなかった……」
「……大丈夫だよ……」秀一は弱々しい声を出した。「自首したら、罪って、軽くなるんでしょ?」
「……どうしよう、全部、私のせいにされちゃう……私がいなくなったら、賢人 が一人になっちゃう……」
秀一の脳裏に幼かった賢人の姿が浮かんだ。
母親と離れる寂しさを、あの子も味わうのかと思うと胸が痛くなる。
突然、由美子に両手を掴まれた。
「秀ちゃん! 賢人のこと、お願いできる!」
由美子の勢いに押された。
「わかった!」と即答する。涙声だ。
「賢人の面倒は、オレが見るよ!」
由美子は「ありがとう」と、手に力を込めてきた。
「野々花 さんから、秀ちゃんを味方につけた方がいいって言われたの。野々花さんね、今日は秀ちゃんが町に来るから、みんなで一緒に今後のことを話し合おうって言ってくれたの」
秀一の手を放すと、由美子は勢いよく立ち上がった。
「刑事に捕まる前に、野々花さんと話し合わないと! 秀ちゃん、お昼になったら、私たちと一緒に野々花さんのお店に行こうね」
秀一は承知した。
こうなったら午後に東京に戻ることなど出来ない。
待ち合わせに行けなくなったと、すぐ正語に連絡しなければ。
「オレ、公民館行って、メールしてくる」と、秀一も立ち上がった。
「私たちが来てることは誰にも言わないでね」と由美子は再びサングラスとマスクをつけ始める。
「私って、評判良くないみたい。一輝さんを置いて、ここから逃げ出したし……町の人と顔合わせたくないの……野々花さんぐらいよ、親身になって、気にかけてくれるの……」
わかったと、秀一はうなずき、走り出した。
「野々花さんがもうすぐ車で迎えに来てくれるから、賢人と二人で駐車場で待ってるね!」
背後から、由美子が声をかけてくる。
秀一は振り返り手を振ると、また駆け出した。
走りながら、秀一は思う。
(由美子さん、正語 に相談した方が、いいんじゃないかな?)
正語なら、正しい自首のやり方を知っていそうだ。
(持ち物とか、用意する書類とか、色々あるんだろうなあ……)
それにしても。
秀一は首を傾げる。
(……スマホを盗ると、どのくらいの罪になるんだろ?)
(由美子さん、ちょっと太ったな)
ふくよかだった由美子の体型は、さらにボリュームを増していた。
今、秀一は由美子と二人で
話があるからと、由美子に連れ出されたのだ。

「秀ちゃん、ごめんなさい」と由美子が急に謝ってきた。
何も言わずに出て行った事だなと、秀一は勝手に想像する。
悲しかったけど、由美子にも事情があったのだろう。もう気にしていないよと言う代わりに、笑ってうなずいた。
「
いきなり何を言い出すのかと、秀一はポカンとした。
「これから警察に行ってくる」
「警察?」
由美子が顔を手で覆う。
ただ事ではないと、やっと秀一は慌てた。
「去年、一輝さんが亡くなった時にすぐ行けばよかったのに……ホント、バカなことしちゃった……」
「……何、したの?」聞くのが怖かったが口にした途端、秀一はピンときた。
「……本家に、刑事さんが来てるみたいなんだけど、関係あるの?」
「刑事が来てるの⁈」と由美子は顔を上げた。「今? 本家に?」
「兄さんのスマホが神社で見つかった件を調べてるんだって」
秀一は
「私じゃない! 神社になんか置いてない! 私は一輝さんのスマホを持ち出して、近くの畑の中に投げ入れただけよ!」
悔しくってと、由美子は唇を噛んだ。
「一輝さんからやり直そうって言われて、あの日、みずほに来たんだけど……一輝さん、温室の前であの女と抱き合ってたのよ!」
秀一は顔が赤くなった。「……真理子さん、と?」
由美子は何度もうなずいた。ひどいと思うでしょと、目で訴えてくる。
「腹が立って、近くにあった一輝さんのスマホを持ち出したの!」
由美子はまた、顔を覆った。
「でもまさか、こんな事になるなんて……あの人が死んじゃうなんて、思わなかった……」
「……大丈夫だよ……」秀一は弱々しい声を出した。「自首したら、罪って、軽くなるんでしょ?」
「……どうしよう、全部、私のせいにされちゃう……私がいなくなったら、
秀一の脳裏に幼かった賢人の姿が浮かんだ。
母親と離れる寂しさを、あの子も味わうのかと思うと胸が痛くなる。
突然、由美子に両手を掴まれた。
「秀ちゃん! 賢人のこと、お願いできる!」
由美子の勢いに押された。
「わかった!」と即答する。涙声だ。
「賢人の面倒は、オレが見るよ!」
由美子は「ありがとう」と、手に力を込めてきた。
「
秀一の手を放すと、由美子は勢いよく立ち上がった。
「刑事に捕まる前に、野々花さんと話し合わないと! 秀ちゃん、お昼になったら、私たちと一緒に野々花さんのお店に行こうね」
秀一は承知した。
こうなったら午後に東京に戻ることなど出来ない。
待ち合わせに行けなくなったと、すぐ正語に連絡しなければ。
「オレ、公民館行って、メールしてくる」と、秀一も立ち上がった。
「私たちが来てることは誰にも言わないでね」と由美子は再びサングラスとマスクをつけ始める。
「私って、評判良くないみたい。一輝さんを置いて、ここから逃げ出したし……町の人と顔合わせたくないの……野々花さんぐらいよ、親身になって、気にかけてくれるの……」
わかったと、秀一はうなずき、走り出した。
「野々花さんがもうすぐ車で迎えに来てくれるから、賢人と二人で駐車場で待ってるね!」
背後から、由美子が声をかけてくる。
秀一は振り返り手を振ると、また駆け出した。
走りながら、秀一は思う。
(由美子さん、
正語なら、正しい自首のやり方を知っていそうだ。
(持ち物とか、用意する書類とか、色々あるんだろうなあ……)
それにしても。
秀一は首を傾げる。
(……スマホを盗ると、どのくらいの罪になるんだろ?)