争いの煙(3)

文字数 1,318文字

 その小鳥が、突然、何かを察知して、ぴぴっと鳴いた。

その声に、焦燥感が含まれる。

小鳥は緊迫感の余韻を空に残して、木々の中へと潜り込んだ。

エシアとノキルは突然の小鳥の動きが気にかける。

その時、どこからともなく声がした。

「エシア様! エシア様」

ミーアの声だ。

激しい恐れにまみれた声だった。

ミーアは、血相を変えて、空から駆けつけた。

ペガサスは、ミーアを乗せて、決死の表情で王宮の庭へ向かってくる。

そして、ミーアのペガサスは、地上へ着地すると同時に崩れ倒れる。

その拍子に、ミーアは放り出されて、地上へ体を打ちつける。

ミーアのペガサスには、複数の矢が刺さっている。

ノキルはその矢の刺さる部位を見て、目を細める。

全ての矢がペガサスの急所を射抜かれていた。

翼の付け根や、神経の多く通る翼の芯。

ただのゴロツキの仕業ではない事は明らかだった。

ミーアのペガサスは、息も散り散りで意識も危ない。

やっとの思いで翼を広げて、ミーアを守るように覆い隠す。

エシアは駆け寄った。

勢いのまま、両膝を曲げて、地面につける。

横たわるミーアを抱きかかえた。

ミーアのペガサスは、それを見て、僅かに微笑み、目を閉じた。

「ミーア! ミーア、しっかりして!」

エシアの呼び声にミーアは虚ろに目を開く。

ノキルは指笛で救援を呼ぶ。

間もなくして、衛兵が駆けつける。

ノキルは救護班を呼び、王宮の警備を厚くした。

「村が、ジョフィル将軍が」

ミーアの震える唇が言葉を作る。

「ジョフィル将軍に会いに行ったら、黒煙が。物陰から矢が放たれ、避ける事もできず、すみません」

ミーアは報告する責任を終え、気を失った。

「ノキル。至急、小隊を率いて、ジョフィルの居る村へ向かってください。作業中に何か問題が起きたのかもしれません」

エシアは言う。

「しかし、王宮の警備が手薄になります。この矢の射抜きかた。ただのゴロツキではありません。相当の経験を積んだ射手です」

「ええ。私にもわかるわ。だからこそ、ノキルの小隊にお願いしたいの」

ノキルは考えた。

もしこれが陽動だったら、エシアが危ない。

しかし、ジョフィルが太刀打ちできない相手に迎え撃つ事ができるのは、この国では小隊のみ。

村を占拠されれば、村が人質になる。

そうなれば、劣勢になるのは目に見えていた。

ノキルは重い口を開いた。

「わかりました。早速、出発します」

「よろしく頼みます」

ノキルは、衛兵に指示を出し、エシアの護衛を手厚くした。

救護班が到着し、ミーアのペガサスはその場で治療が始まり、ミーアは治療室に運ばれた。

エシアは、治療を受けるペガサスを見た。

ミーアのペガサスは瀕死の状態だった。

命が助かるかもわからない。

全力でミーアを守ってくれたのだろう。

ミーアには、矢が刺さっていなかった。

エシアは、ありがとうと心の中で感謝し、王宮内へ颯爽とした歩みで戻った。

玉座に座り、伝令を待った。

エシアは、平常心の表情を保たせる。

感情をそのまま見せていては士気が下がるからだ。

しかし、村の安否、ジョフィルやノキルの安全を願う気持ちが込み上がる。

目が険しくなるのを自ら感じた。

それを振り払うかのように、奥歯を噛み締め、一つ、うなずいた。

ノキルが向かったから大丈夫だと、自らに言い聞かせて。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み