零、そして、僕に世界は救えない。

文字数 1,323文字

 
 僕に世界は救えない。
 あらたまってわざわざ言うことでも無いけど、君には知っておいてほしい。

 世の中、イヤなことツライことが本当に多い。例えばまず朝起きるのがイヤだ。外に出れば張り切りすぎている真夏の太陽の日差しもツライ。学校がイヤだ、正確には勉強がイヤだ。あと試験もイヤだ。みんな出来ていることが自分だけ出来ないのがツライ。
 世界を救うどころか、そんな現実から──イヤなことツライことのレベルが大概低いのに、自分自身すら救えない。
 ところでこの国は比較的平和なんだと思う。僕の感情面の程度からも分かる。もちろん少し範囲を広げれば、無差別な暴力、悲惨な交通事故、自殺、その他目を覆いたくなる痛ましい事件がたくさんあって、それらを救う力を僕が持っているはずもないんだし、広く世界に目を向ければ、宗教的な紛争は止まらず、貧困問題は是正されず、不足する医療なんて、どうしていいか見当もつかない。
 ただの高校生が何かできるわけないじゃん当たり前だよ、君はそう言ってくれると思うけど、たとえ必死に受験勉強して良い大学に入って良い成績を修めて、将来この国の中枢に入り込んだとして──ただの高校生じゃなくなったとしても、僕に世界は救えない。言いたいことが、上手く伝わっているといいけど。

 最近よく同じ夢を見る。夜眠っているときだけじゃなくて、ぼーっとしているときにも見る。白昼夢かもしれない。学校があって、僕は正門の前にいる。他に誰もいない。駅にいるときもあって、やっぱり誰もいない。何度も見ているけど、誰もいないのはいつも同じ。そこでずっと立っている。
 さあ?なぜかは僕も分からない。何かを待っているのかもしれない。それか、罰かな……。
 何にせよ、それだけ。現実と同じ景色で、だけど誰もいない場所で、突っ立って過ごして、いつの間にか目が覚めている。そんな夢をここのところ続けて見ている。ああまたこの夢かって意識はある──明晰夢って言うの?だけど、散策するとか学校に入るとか、何か動こうって気にならないんだよね。何もできない僕自身の内面性が顕在化しているってことなのかな。
 いや予知夢ってことはないよ。単純に人間がいないだけじゃないんだ。何の音もしないし、たぶん風すら吹いていない。それに、僕以外誰もいない、僕だけが残れてしまう未来なんかあり得ないよ。仮に人類が滅ぶんだとしたら僕は割と序盤で退場するだろうね。

 人生でいちばん大切なものは何か、特に、愛か金かみたいな不毛な論争はずっとあって──どっちも大事だって結論に至るに決まっているんだけど、対象が人であれ物であれ愛があるから求めて、求められて、それを金で具象化する構造の上で、愛と金を並列で比較するのは本当に無意味(ナンセンス)だと言うしかないね。愛が先、お金が後、それだけのこと。
 日常的に頻繁に使用するものの中にも、どこかで失くしても、まあいいかって諦めがつくものがある。安かったり、古かったり、理由はいろいろだけど共通して、愛着が──言い換えれば執着が、無くなったあるいは最初から無かったってことだと思うんだ。生きづらい今を、現実を、愛せているだろうか。生に執着しているかな。

 どうしても、僕に世界は救えない。
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