エピローグ 桟橋から手を振るル=グウィンさん
文字数 1,569文字
(その後に付録がついていたりしますけど。)
天国のル=グウィンさんからの贈り物として、ここに載せさせてくださいね。
芸術を、何かを自在に使いこなすことだと考えている人たちがいます。つまりコントロールの問題だと。
私は、芸術はおもに、自分をどううまく制御するかにかかっていると思います。つまりセルフ・コントロールの問題だと。
こんな感じです――
私の中に、語られたがっている物語があります。
それを語るのが私の仕事です。私は、物語に使われる立場なのです。
私が、物語の焦点を見さだめ、
物語から私自身を、私のエゴを、私の願望や意見、つまらない考えや感情(メンタル・ジャンク)を遠ざけておくことができるなら、
物語の軌道にそって、物語の流れに乗っていくことができるなら、
物語は自然に書かれていきます。
Some people see art as a matter of control. I see it mostly as a matter of self-control. It's like this: in me there's a story that wants to be told. It is my end; I am its means. If I can keep myself, my ego, my wishes and opinions, my mental junk, out of the way and find the focus of the story, and follow the movement of the story, the story will tell itself.
この本の中で私がお話したことはすべて、
「物語にみずから語ってもらえるようにするには、どう自分をととのえたらいいか」
という話でした。
技(スキル)を持ち、技術(クラフト)を身につける。
そうすれば、魔法の船がやってきたときに、あなたはそれに乗りこみ、
船の行きたい所へ、行くべき所へ、
Everything I've talked about in this book has to do with being ready to let a story tell itself: having the skills, knowing the craft, so that when the magic boat comes by, you can step into it and guide it where it wants to go, where it ought to go.
(『ル=グウィンの小説教室』第10章より)
もうこの世にいない人なのに、外国の人なのに、
こんなにそばにいて、語りかけてくれるんです。
直訳すると「桟橋から『さよなら』と手を振る」です。
でもね、私たちから天国のル=グウィンさんに教えてあげたいと思いませんか。
日本語には、英語にない、素敵な言葉があるんですよって。
「いってらっしゃい」
「桟橋から、いってらっしゃい」
そう言って手を振ってくださると思いませんか。
だから私たちも、こう言って手を振り返せばいいと思うんです。