教会があくのは、きょう、かい?

文字数 4,008文字

「いってきまーす・・」
教会を閉めて、学校にむかう。あれから、約一年半。
俺は、17歳になっていた。
 “とりあえず”“まにあわせ”の牧師はいまだ継続中で、
信徒のみなさんにとっては忍耐と寛容を試される時期がいまだ継続中だった。
 『とりあえず』牧師の俺は、『とりあえず』地元の高校にそのまま通っている。
 県立やまのべ高校はやまのべ駅から徒歩15分。
 俺たち田舎の人間からすると駅から近いな、と感じるけど、電車で隣の市からきてる都会人からはすごく遠いといわれる。
そう、たとえば目の前をかったるそうにだらだら歩いているこいつに、とか、、
「おー、おはよー、よしゅあ、、今日もあっちぃな」
「朝からへばってるなよ、見てるだけで暑い。」
「だってさー、この町、おかしくね?なんで、駅前にコンビニないのよ。
 朝早くから電車できてさー、、
ちょっと一息、できるマックもコンビニもなくて
 あるのはでっかい教会だけ、とかおかしくね?」
そういって、にやっと笑った。
こいつの名前は 丹波 葉一。 
こいつだけは、俺がやまのべ教会の牧師だってことを知っている。
高一のときから同じクラスで、なんとなくウマがあって、気が付いたら親友になっていた。
背が高くて、顔も性格もまぁ、いいやつ、なのにモテない。
告ってはお断りされたのが、俺が知ってるだけで8回・・9回?
高校の目標は“彼女をつくって青春を謳歌すること”と公言してはばからないが、未だに、彼女はできたことがない。
うん、俺たち、親友だな。
「そうだ、俺いいこと考えた、この教会にコンビニくっつけようぜ! 
んで、教会まんじゅうとか、名物もつくって売るの。
すごくね?俺、天才じゃね?」
「そんな場所ないし、駅使う人も少ないのにまんじゅうとか売れないだろ・・・」
「よしゅあ君、夢がないー!
じゃあ、アイスとジュースだけのミニコンビニでいいよ!」
・・・人はそれを自動販売機という。
葉一と、そんなバカなはなしをしながら歩いていると、隣の家を通り過ぎるところだった。
隣の家、といっても教会の礼拝堂部分、教会の庭部分、隣の家の畑をはさんで隣の住宅だから、測ったことはないけど結構はなれている。
 その、家のドアが勢いよく開いた。
「よしゅあ、おそーい!
 もう少し早い時間にお弁当とりに来て、っていつも言ってるでしょー!」
玄関からあらわれたのは、おれの幼馴染だった。
  大野 さくら。
長いポニーテールに、きりっとした目の形、はきはきとした話し方。
同い年で、学校も、クラスも同じだし、親同士が仲良かったこともあって、
小さい頃から兄弟のように過ごしてきた。
見た目はかわいい方にはいるとおもうし、
成績優秀、スポーツ万能とあって学校ではかなりモテているらしい・・・
けど、彼氏とかは見たことがない。
  葉一は、
「南ちゃんだ、、、南ちゃんがいるよ・・・!
そしてお前はボクシングも野球もしない、双子もいない、いいとこのなしの出涸らし、最低の上杉達也だ・・・・」
と失礼なことをいってくるが、そのネタ古くない?
それに、俺だって、南ちゃんが幼馴染なら、甲子園だっていける・・・ハズ。
さくらは、南ちゃんと違うところがかなりあるんだぞ、、、
例えば、
「もー、きいてるの? 
よしゅあが早く、お弁当とりに来ないから、私までギリギリで学校に行くことになっちゃうじゃない!」
と、青い巾着袋に包まれた弁当を、放り投げてきた。
「あっぶな!お前なぁ、上手くキャッチできたからよかったものの・・・
 食べ物を粗末に扱うなよ!」
「この私が、受け取れないような投げ方すると思う?」
「お前じゃなくて、受け取る側がヘマしたら同じだろ!」
「あー、ごめんねーよしゅあ君にはキャッチ、むずかしかったかー」
「そういう問題じゃないっつーの!」
「ひゅー、ひゅー、朝っぱらから愛妻弁当に痴話喧嘩でおあついねー」
葉一が、ニヤニヤしながら、からかってくる。
「ち、痴話喧嘩なんかしてないからね!丹波君、おかしなこといわないで!」
「それに愛妻弁当とか、、これはさくらの手作りじゃな、」
「あー!ゆり、おっはよー!今日は遅い電車にのってきたんだねー!」
さくらがとってつけたように大声をだして、通りがかった友達に声をかけた。
「あー、木村さん、おはよー」
葉一はそっちに気がむいて・・ごまかされた、のか?
一応、いっとくけど、この弁当は愛妻弁当じゃないぞ!
ありがたいことに!
・・さくらが、あの国民的ヒロイン、南ちゃんと壊滅的に違うのは、
か、・・・壊滅的に料理ができないことだから・・・!
さくらの料理は調理じゃなくて錬成だし、
できあがったものは料理じゃなくてクリーチャーに等しい・・!
さくら自身もコンプレックスなのか、料理ができないことはひた隠しにしている。
家庭科の調理実習でも皿洗いを率先してやってるし・・
・・さくらの料理のせいで、二回入院したことがある俺としては、
ずつとひた隠しにして、永遠に料理の練習はしないでおいてもらいたい。
なぜなら絶対に『つくりすぎちゃったー、』のおすそわけがくるから・・!

このお弁当はありがたいことに、毎朝、さくらのお母さんがつくってくれる。
高校に入学してからずっとで、申し訳なくて何度か断ったんだけど、
「いーの、いーの、さくらの分も作るんだから、手間は同じよ。」
と、お金も受け取らないで用意してくれている。
「よしゅあ君、本当に気にしないで。おばさんも、おじさんも、
 よしゅあ君のお父さんとお母さんに、どれだけ、助けられたか・・・
 おばさんはね、千春さん(母の名前)と、お互いに何かあったら残された子どもは自分の子どものように守りましょうね、って約束してたのよ。」
そして、ちゃめっけたっぷりに、言った。
「-それにね、千春さん、天から見ているんでしょ?
 おばさんはクリスチャンじゃないけれど、千春さんが昔から言ってた、
 永遠のいのち、で天国からこちらを見ているのは何故か信じているの。
 だから、おばさんがきちんと約束を守っている所、ちゃんとアピールしておかないとね?」
そういって、食事の差し入れとか、一人で暮らしている俺のことを気にかけて助けてくれる、俺なんかよりよっぽどクリスチャンっぽい、いい人たちだ。

「へぇー、そうなんだ、じゃあ、よしゅあ、今日の午後でいい?」
「へ?」
急に、葉一が話をふってきた。
なにが?
「あー、お前、今の話聞いてなかったなー!お前、あれだろ。
ラノベとかのハーレム系主人公が、ヒロインの告白とか、
『好き・・』とか、絶対聞こえてるだろ!って距離の声を
『え?なんか、言った?』とか、聞こえてないタイプだろ!」
「なんだそれ・・・で、なんの話?」
「ゆりがね、教会に入ってみたいんだって!」
ゆりさんが、おずおずと口を開いた。
木村 ゆりさんは、葉一と同じで隣の市から電車通学している。
さくらの友達らしく、一緒にいるところはよく見るけどあまり話したことはなかった。
小柄で、肩までの髪の毛をひとつにしばってて、眼鏡をかけている、
文学少女っぽい雰囲気だ。
体育の時だけは眼鏡を外しているんだけど、その時の美少女っぷりと
見えてない為の危なっかしさが萌えると男子生徒に密かなFANも
多い、とのことだ。(葉一情報)
「あ、あのね、・・・よしゅあ君て、あの教会の人?」
・・・そうです。
「・・じゃあ、よしゅあ君って、クリスチャン?」
・・・・・・・えーと。
この質問を受けるときはいつも頭の中で大会議がおこなわれる。
えっと、俺、ゆりさんの前で、きちんとしてたっけ?
すんごい罪っぽいこととかしてないよな?
うん、してない!してない!
「そ、そう、クリスチャン・・・」
クリスチャンです、と言うのにこんなに緊張するのはなんでだろう・・
「えー、よしゅあはさー、それだけじゃないじゃん?」
葉一が、こちらの葛藤もしらないでニヤニヤしていう。
「でも、あれは『とりあえずのまにあわせ』なんだから、
 よしゅあがずっとそう、で、いられるとは限らないじゃない?」
さくらがなんとなく失礼なことをいう。
「え?どういう、こと?」
「いや、よしゅあはさぁ、なんとあの教会の・・」
「ちょっと丹波くん、適当なこといわないでよ」
適当いうな。
なので、誤解が生まれる前に、ゆりさんに、説明した。

「そ、そうなんだ。高校生で牧師先生とか、すごいね・・!」
「ぜんぜーん、よしゅあは、お飾りの牧師だから、教会のことなんて、
 ほとんどやってないもんねー?」
「まぁ牧師って普段なにやってるかサッパリだけどな!
 日曜以外は暇してるんじゃないの?牧師って。」
・・・失礼な。

そろそろ、ほんとに遅刻しそうなので、四人で学校にむかった。
ケド、コノヒトたち、なんで、『教会』とか、『牧師』とか、
そういう話、人の目を気にしないでできるんだろう、、、、
通学路には自分たち以外いないとはいえ、はらはらするぞ・・・
「それじゃあ、教会に入れてほしかったら、よしゅあ君の許可をとったらいいのかな・・?」
「いや、許可なんていらないけど・・いつでも案内するよ・・」
「いいの?
・・あ、あのね、私、演劇部の大道具で教会の絵を描かないといけなくて・・
教会の中って、どうなってるのかな、と思って・・・」
「いいの?俺もさー、教会の中ってどうなってんのか興味があってさー」
「それなら、私も一緒にいくからね!
ゆりだけ、女の子とか心細いだろうしー!」
え、キミたちも来るの?
まぁいいけど。
      
ということで、急きょ、本日の午後、
“やまのべ教会ツアー”なるものが開催されることになったのだった・・・
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