第10話 プロローグ・オブ・鉄研大冒険

文字数 4,232文字

発注しておいたものが届きつつあるぞよ。
なにがとどいたのー?
都庁の建築模型ペーパーキットなのである。
こんなのがあるんですねー。ヒドイっ。
ツバメさん、それはひどくないですよ!
でもこれどういうものなんだろう―。
うむ、ワタクシもAmazonで発見して、さっぱりどういうものかわからなかったのだ。

それ故とりあえず買ってみようと思ったのである。

これ、本みたいに綴じられてるんですね。
中見てみたーい。
このようになっておる。
このように説明があるわけですね。でもこのとおり組み立てられるのでしょうか。
うわー、これ切り抜いてくださいってこと? 切り目も何もついてないから自分でカッターで切り出すんですか? しかもパーツ数200超えとか! ひいい、ヒドイっ!
まあ、これを切って組み立てれば出来上がるであろうからのう。なんとか組み立てられそうだが、なかなか手強そうである……。
「作業しづらい部分もあります」とか「丁寧に組み立ててください」とか……ひいい。
ほんとに手強そうですね。
さすがのワタクシも少しビビり始めておるのだ……。
でもJAM出展のテーマ「東京」にはぴったりだよねー。がんばるしかないんじゃないかなー。
うまく組み立てられたら、の話であるがのう……。
でもこれ、小さくありませんか!
うっ、センパイ痛いところを。

たしかにこの模型、1/1000なので出来上がっても高さ20センチちょっと。イマイチかも知れぬ…。

コピーとって拡大したらいいんじゃないかな!
確かに……このブックスタイルのシートはA4サイズ。A3までは拡大できそうであるのだ。

しかしそれをコピーして厚紙に貼り付けて……なかなか手間がかかりそうであるのだ。

だが……。

だが、って?
いきなり原本をぶった切るのもなかなか恐ろしいのだ。何しろ1冊3000円、しかもAmazonの在庫はこれでなくなったっぽいのだ。バックアップは必須……。
……ということは、選択肢はないですわね。
スーパーに行ってコピーを取り、百均で工作用紙を買うしかないであろう。

うぬぬ、ちょっちめんどいのである……。

というわけで本をバラしてコピーを取れるようにしたのである。うう、めんどい……。
でも仕方ないですよ。ヒドイっ。
出来上がったらきっと東京の感じが出ますよ!
そうであればよいのだが……。
その間に私もこんなの見てました。
前に総裁と一緒に行ったスカイツリーのお土産模型です。
あ、あのオリエント急行用の満鉄パシナを走らせに行った時のですね。覚えてる私もヒドイっ。
ひどくないですよー。
立てるとこんな感じです。
まあ、なかなか立派にみえますわ。下に置いたパイク(小型レイアウト)もぴったりで、まるで遊園地のライドのようでコミカルな面白さがありますわ。
これ、こんな感じに光るんですよ!

出展の会場のビッグサイトは明るいからこんなに目立つかどうかわからないけども。

ステキですわ!
さらにこの東京タワーに、配線済みLEDをじゃじゃっとして。
「ケムリクサ」終盤のあのちょっと微笑ましいシーンですわね。
こうなりました!
まあっ。
パイクとこれも合わせてみました。

これ、「ケムリクサ」最終盤のイメージっぽくありませんか?

すっごーい! 赤い木みたいで禍々しくていいですね。ヒドイっ。
まさかの土産物ストラクチャー攻勢ですね。でも、これはまさか……。
ワタクシも呼応してこんなものを作っておった。
まあ! 「東京鉄研でいず!パーク」って。
なにげにJR東日本の駅名標のスタイルになってる―。
そのうえ昭和・平成から令和って時代を移動する感じになっててヒドイっ。
その下に新宿都庁舎ってある。ってことは?
さふなり。展示全体でテーマパーク仕立てを狙うのである。
ロゴがすでにあるものはこんな感じに入れ込むのである。
「けものフレンズ」のタイトルロゴは以前からジェネレーターで使ってましたね。
「けものフレンズ」パレード! これにからめていっぱい「けものフレンズ」のジャパリバス模型や1/150フィギュアを並べるんですね!
これをこのように展示モジュールの前に置いて展示アトラクションのゲートとしたいのである。USJなどにもあるパターンであるな。

しかし試作のこのゲートの柱はいまいちなのである……。仮の試作であるからのう。

でもこれ、「アレ」を使ったらどうでしょう?
うっ、「アレ」か……。
KATO製の鉄骨ラーメン架線柱をゲートの枠にしたのですね。

なるほど情報量も多くて細密感が出るし、何よりも同じものを多く用意することができますわね。いいアイディアですわ。

見上げた感じとかいかにもそれっぽくてヒドイっ。
植え込みも作ったんだねー。すごくテーマパークっぽい―。人もいると面白い―。
こうなるとまさに何でもありですね。ある意味反則というかヒドイというか……。
カオルちゃんにツバメちゃんが感染った―!
ちーがーいーまーす! もうっ。
うむ、なかなかこれは使えそうであるのう。


……しかし先程から全く黙っておるのは。

御波さんですわ。どうしたのですか? 青白い顔をなさって。心配ですわ。
「けものフレンズ2」を叩いている意見が多くて……つらいんです。


そんなことしてもいいことないのに。

なんでそんなに「けものフレンズ」の世界を間接的に痛めつけてるのか。

これじゃ「けものフレンズ」全体がさらにめんどくさい、関わりたくないものになって、コンテンツとして死んでいくのに。

なんでそんなことに無頓着に叩いているのか。私には理解できなくて。

うむ、御波くんはイマジネーションとともに繊細な感性をもっておるから、昨今の事情はなおさら辛いものであるようだ。ワタクシも気がかりであった。
理解できない中で、自分の意見を保つって、すごく辛い……。
さふであろうのう……。大勢に流されてそれと一緒に礫を投げている方がずっと安心安全であるからのう。
でも、それじゃ「けものフレンズ」がかわいそうすぎるよ!
御波は血を吐くようにさけんだ。


みんなそれに目を伏せている。

そう思ってやる人間は少ないからのう。我が身可愛さのほうが優先なのだ。

そんなことで本当に優しいものが守れるわけがないのに、みな目先のことで目が曇りまくっておる。

なんで……なんであんなに人を悪しざまに罵れるの?
人々は今、非常に苛立っておるからの。カタルシスのためになんでも消費したくなっておるのだ。

その結果自分そのものすらも消費してしまうとしても、辛さにそれを自覚できないのだ。


そこまで追い詰められておるのだ。

わかる……それはわかるけど……それでここから抜け出せるわけじゃないのに。


どうしてこうなっちゃったの!? ひどすぎるわ!!

うむ。
総裁は間をおいた。
ワタクシも大いに思うところがあるのだ。この世界がこんなに苛烈に、酷薄になってしまった理由について。しかし、今ワタクシができることは。
総裁は御波の両肩にその両手を添えて、いたわる仕草をした。
世界がどうとかよりも、ワタクシは同じ鉄研水雷戦隊の僚艦諸君を守ることのほうが優先なり。
総裁……。
御波の目には涙が溢れている。
もう世界は制御不能なのだ。わかったところで解決もできない。もう破局に向けて進んでいくしかないし、その破局のあとでしか回復はできぬのだ。それゆえ、キミタチ僚艦を心配することしかワタクシにはできぬ。

あともうすこしで破局がおき、そしてその跡の荒野から再び積み上げていくことを待つしかないのだ。

そんな……。
万人の万人に対する闘争と化したこの現代は、そういう酷薄な世界なのだ。そしてそれでも生き延びるには、身を寄せ合って互いを守り合う小さな集いを再び作るしかない。我が身可愛さに閉じこもるのでもなく、かといって原理原則を振り回しあうむき出しの自由主義の荒野でもない間で、互いを守り合うしかない。

そのためには柔軟で強固な、この新時代にふさわしい知性を持つしかない。そしてそれは自分でデザインしていくほかに方法がないものなのだ。

新時代にふさわしい知性、ですか。確かに多くの素晴らしい知性はすでに鬼籍に入られてしまいました。わたくしたちの著者の世代がその任につこうとしていますわ。でもそれがなおさら不安ですわ。
その不安につけ込んでさまざまな悪事が働かれておる。そもそも100%の安心安全など欺瞞であろう。

世の中は不条理に満ちておるのにそんなものが手に入るわけもない。

それこそ嘘なのだ。しかし嘘を付くことの倫理的敷居が下がりすぎておる。ワタクシはそれを憂うのだ。

優しい嘘は優しくともなんともない。どうやってもそれはただの嘘に過ぎないのだ。

不条理に満ちすぎてて、辛いです……。
だからそういうときは、原点を思い出し、そこに立ち返るのだ。そしてそこから不条理を解決するバランスを取り戻すのだ。
御波ちゃん! こういうときは!!
えっ!
充電!!
そういうと華子は御波を詩音の大きな胸に押し付けた。
辛かったのですわね……御波さんはほんとうの意味で優しいですから。
御波は詩音の胸で泣いている。
どうしてこうなっちゃったんだろう……。
それを詩音は抱きとめてその髪をなでている。
うむ。
御波ちゃん、どう?
御波は黙っている。
御波さん。
御波は目を上げた。
充☆電☆完☆了!!
その打って変わって明るい声に、みんな胸をなでおろした。
詩音くんはさすがの我が鉄研艦隊の癒し系正規空母なり。
よかったー。御波ちゃんはこの鉄研の背骨みたいなもんだから心配したよ―。
え、そうなの? 自覚なかったけど!
自覚なく充電したりしてヒドイっ!
え、奈々センパイ……もしや、こんなぼくたちにドン引きしてませんか?
え? そんなことないです! むしろ充電オッケー、電波でオッケー、みんみんミンミングルコサミンです!
奈々センパイ。
御波は真顔になった。
え、なんですか?
……それはわからない……。
うむ、奈々センパイはこれで地下アイドルをやっておるのだが、地下でも飽きられつつあるからのう。
飽きられる言わないで! 私この人生にじゅ……うっ。
奈々センパイ、歳をごまかしておりますな。
に、にじゅういっせいきの十七歳です!!
奈々パイセンの苦しい言い訳ヒドイっ!
パイセン言わないでください!!
うむ、これでこそ我が鉄研水雷戦隊の日常であるのだ。

そして次の冒険へ進むぞ。すでに4000字を超えておるからの。

ひいい、字数オーバーしちゃってるの?!
もう喋っちゃだめ! 字数消費しちゃう!
ああ、わけがわからないー!!
このまま次の話へ続くぞよ!!
ひいい。つづきますー!!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。


葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。

中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。


田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

小谷奈々 おたりなな


総裁の友人。凄腕のBトレ自動運転の模型鉄。地下アイドルをしているらしい。ウサミン星がどうとか言っていたが詳細不明。

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