20 ロック『統治二論』(5)
文字数 2,131文字
ロックの主張もよく似ているが、ただ、より積極的なものとなっている。
権力の暴走により、各人の固有権が不当に侵害されるならば、それはもう、統治する側と人民とが戦争状態に陥ったも同然であり、【各人は、自分自身を防衛し、攻撃者に抵抗する権利をもつ】[『統治二論』:P573]という
さきに見てきたとおり、ロックにとって人間とは神の作品だ。
人間は、神の意志に沿った自己実現を成し遂げていくべきであり、そのために不可欠なもの、護られるべきものが固有権だったよね。
その固有権を、本来は護ってくれるはずの政治権力が、反対にね、不当に侵害してくるならば、人々はもはや訴えるべきところがないんだから、神(天)に訴えるしかない。
訴えるべき相手が、逆に、敵にまわってんだからね。
しかもそれは、訴えること、抵抗することは、神の下で生きる人間にとって当然の権利ともいえるんだ。
つまり抵抗権の源泉は、神とつながっている、といえる
ちなみに、抵抗することの結末としては、一つには、暴走する統治権力の廃棄と、新しい政治的共同体の樹立がね、当然あり得る。
となると、抵抗権を軽々しく認めることはね、政治的共同体を不安定にするんじゃないか、という批判がでてくるものと、ロックは考えた
たとえば、ホッブズが何より政治的共同体の安定性を重視していたのはすでに見た。
17世紀イングランドの政治情勢が不安定であったからこそ、いかに安定させるか、といったところに関心が向かったんだ。
そういう意味では、抵抗権が政治的不安定を煽るのでは? という危惧が指摘されたとて、不思議じゃないだろう
これについてロックは、かなりリアリスティックな回答をしている。
人民というのは、基本的には、耐える。よほどのことがない限り、耐える。
ゆえに抵抗権を認めたところで、バッタバッタと革命のオンパレードになるわけじゃなし、と言う。
リアルだね。
まぁ、そのとおりだろう
さて、以上が、ロック『統治二論』の概要だ。
まとめると、要するに、
(1)神の作品である人間は、神の意志に沿った自己実現をしていくべきだ。
(2)そのために固有権は絶対死守されなければならない。
(3)また、そのために政治的共同体の樹立、つまり法&執行権力による保護が必要である。
(4)法&執行権力が暴走するなら、神の意志に沿った自己実現ができなくなってしまうのであるから、もはや従う理由などなく、天に訴え(抵抗権を行使し)、場合によっては他の統治権力を求めてもよい。
といったところだ
ちなみに、ロックは、他国を征服したとき、それが正当性(大義)のある戦争だったとしても、敵兵の財産を分捕ってはいけない、とする。
というのも、その財産は敵兵の子孫のものだからだ。
もちろん、損害を受けた分の補償を求めることはできる。
しかし、必要以上に分捕っていけないとする。
なぜか?
簡単に言うと、子孫に責任はなく、かつ、子孫が神の意志に沿った自己実現をしていくこと、それを阻害しちゃいかんだろう、ということだと思う
ロックは言う。
【私が、政治的共同体という言葉によって意味しているのは、民主制その他の統治の形態のことではなく、ラテン人がキヴィタスという言葉で表現した独立の共同体のことであると理解していただかなければならない。われわれの言葉で、これにもっともよく当てはまる用語はコモンウェルスであって、これは、コミュニティとかシティとかいった言葉では表現しえない人間の社会を表すのに最適のものである。なぜなら、一つの統治のなかに従属的なコミュニティが存在することもありうるし、また、われわれの間で言うシティは、コモンウェルスとはまったく異なった概念に他ならないからである】[『統治二論』:P449]
[引用文献・参考文献]
・ジョン・ロック『完訳 統治二論』加藤節訳、岩波文庫、2010
[引用文献]
・ジョン・ロック『完訳 統治二論』加藤節訳、岩波文庫、2010