プロローグ

文字数 1,113文字

2021年10月某日
3週間前東京から新しい職場のシドニー大学付属ウイルス学研究所に赴任するため、シドニーへやってきた。
 ホテルでの隔離期間を終えやっと解放された、微生物研究者の浜田はシドニーのリゾートビーチ、ボンダイビーチの一角にあるオープンカフェでアイスティーを飲みながら浜辺の景色を眺めている。
 じゃまにならない音量でボサノバの軽快な音楽がカフェ全体を包み、眼下には今月に入り日差しの強くなりはじめたビーチに大勢のカップルや家族が日光浴を楽しんでいるのが見える。ビーチ沿いに設置された遊歩道では数名の若者がスケボーやローラースケートを楽しんでいる。パンデミックを克服し日常を取り戻したことに人々の顔は穏やかで喜びに満ち溢れているように見える。

 cobid 19のせいで遅れがちだった博士論文も3週間のホテル隔離期間のおかげで今日教授会宛てに投函することができた、後は教授会の審査結果を待つだけだがおそらく問題ないだろう。
 明日は引っ越し先に届いたマンションの荷物を整理し明後日の朝は新しい職場のシドニー病原菌研究所に挨拶に行く予定になっている。
 今日一日はのんびり過ごそうとレンタカーを借りてここまで来て、一人で初夏のシドニーでくつろいでいる。

 日本のニュースが気になり、カバンの中からタブレットを取り出しSWを入れた。
論文執筆中は殆どニュースを見ていない。

7時のニュースです
今日の午後3時すぎ韓国に不法入国を試みた長崎今田漁港所属の漁船1隻が韓国海洋警察から威嚇射撃を受け、現在長崎今田漁港に向け航行中との無線連絡が入りました。家族5人の漁師家族が乗船していて、無線による医師の問診によると3人が東京変異型コロナに感染している可能性があるとのことです。現在海上保安庁の巡視船が救助に向かっていますが、3歳の女児は大量の吐血があり重体とのことです。
・・・いま臨時ニュースが入りました、北海道に本社のある北天食品の重役8人および操縦士2名が乗ったビジネスジェットJ2035便がグアム国際航空管制棟から着陸を拒否され、グアム沖南西20kmの海上に不時着するとの無線連絡があり、同海域を航行中のパナマ船籍所属、貨物船パシフィック・オーシャン号に海上保安本部から救助依頼を行ったが拒否された模様です。現在国交省にて対策を協議中とのことですが八人の乗客はビザを取得していない事が確認されています。
 外務省はビザなし渡航は行わないよう再度報道機関に対し国民への周知を徹底するようにと要請がありました。
 繰り返します、日本国民は日本から出ないでください、また海外在住の日本人は日本へ帰国しないでください。

 浜田はタブレットの電源を切った

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登場人物紹介

浜田

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