前世譚3 ❀ 悪い魔法使いになりかけて

文字数 1,089文字

本屋の秘密の部屋に通されてから、数日後。


裏庭を訪れると、アリエッタはいつものように本を読んでいた。

おはようございます、魔法使いさん

おはようございます。

今日は何の本を……読んでいるんですか?

怪談です
(今日はいつもと様子が違うような……。考え過ぎだろうか)

そうそう。あなたに話そうと思っていたことが。

私も魔法を使えたんですよ

へぇ。どんな魔法ですか?

あなたが帰ったあと、天へ祈ったら雨が止んだんです。

それに今日は予感がしたの、魔法使いさんが来るって

あの、やはり「魔法使い」というのは恥ずかしいので「リカルド」で良いですよ

あなたが、御本に出てきた魔法使いのようだったから、そうお呼びしていたの。


それで……リカルドさん。


一つお訊ねしてもよろしいかしら?

はい、なんでもどうぞ
呪いって、本当にあるのかしら
え!?

呪いの善悪について、少々考える機会があって……。


例えばこの本。


少年は呪われるだけの酷いことをしたのに、お化けになった少女が祓われてしまうなんておかしいわ

なるほど。

勧善懲悪ではない怪談、多いですよね

この本は悪役の方が好きよ
彼女は本を胸に抱き寄せる。

悪役の気持ちが分かるわ。

「優しくありたい」と思うけれど歪んでしまうの。


私の影に、山羊のツノがついていないかしらと時々思うことがあるんです

なにか、つらいことがあったんですか?
それは……
アリエッタはしばし沈黙した。

僕で良ければ、話を聞きます

実は……お客さんが、商品について理不尽な言い分をされてきて……


両親が責められ、平謝りしているのを見たら、とても許せない気持ちになったのです

そうだったのですか……


それは、とてもお辛いでしょうね

どうしても許せなくて、私はこの本の悪役のように、あのお客さんを呪っているのかしらと考えたんです。


魔法使いさん、呪いって本当にあると思います?

ありますね
即答!?

呪われたことも、本意ではなかったけれど無意識に呪ってしまったこともあります。


がっかりしましたか?

僕が悪い魔法使いだと知って。

いいえ、がっかりなんてしません。

本意でないとあなたは言ったわ。

私と同じね。

アリエッタは胸の前で両手を組み合わせた。

私は無意識にお客様を呪ったのね。

神様、どうかお許しください。

(アリエッタは、家族を責めた人間を恨んだ。それなのに僕は、実の家族を心の底では憎んでいる……)

リカルドさん、どうしたの?

顔色が悪いけれど

アリエッタは、リカルドの頬に触れた。

頬も、手も冷たい…。

あなたもなにかありました?

(不思議だな、彼女に触れられると、リンデンの香りのように安らぐ……)

彼女の温かい手を握り返した。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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