第6話

文字数 1,445文字

 映画館につくと永嗣は童心に帰ったかのようにはしゃぎ、ポップコーンやジュースを抱えて先に席についている楓花に渡した

 そして椅子に座り周りを見た後

 「何だか感じ変わったけど…久しぶりだな」

 と、やはり幼い子供のような無邪気な顔で話した

 「母さんとアニメとか特撮とか見に来たんだ」

 「お母さんと?」

 「ああ、よくいろんな場所に連れてってもらった」

 「優しい人なんだね」

 すると永嗣は少し寂し気な表情になった

 「いや、おれにとっては唯一逆らえなかった人だよ」

 「…なかった?」

 過去形に疑問を持った楓花。それに対し永嗣は

 「死んだんだ、おれがまだ小学ん時。母さんも体弱かったから」

 「ごめんなさい…」

 楓花は咄嗟の判断が出来ず、永嗣に辛い思いをさせたのではと後悔した

 永嗣はそれを察し、笑顔で

 「大丈夫だよ、もう何年も経ってるし、母さんがおれを強く育ててくれたからそんなに引きずらなかった。もしおれが悲しんでたら逆に怒られたと思うし…ただ…」

 「何?」

 「楓花に何かあったら困る、だから守るし楓花も自分を大事にしてくれ」

 永嗣が話している最中に照明が暗くなった。お互い顔が見えない状態なので、照れくさくて言えないこともスッということが出来た

 「うん、ありがとう」

 映画は3Dアニメのハートフルコメディで、観客と一緒に笑ったりしていたが、エンディングの感動的なシーンで楓花が泣きそうになった時、永嗣は映画を見ながらハンドタオルを横から差し出した

 映画にすっかりハマった楓花はパンフレットなどを買おうとカバンから財布を出そうとした時

 「おれが払うよ」

 と永嗣も財布を取りだした

 「いいよ、悪いもん」

 「デートに誘ったのはおれだからいいの!」

 「でも…」

 「これくらい大丈夫だよ。これでも一応働いてるし」

 「…ありがとう、気持ちだけ受け取っとく」

 二人は小競り合いを始めて

 「…頑固だなぁ、母さんみたいだ」

 永嗣は苦笑いをしつつ、楓花がお金を出す前に札を店員に渡した

 「早い者勝ち」

 勝ち誇った顔をした永嗣を見て思わず笑う楓花、それを見ている店員は心の中でやれやれと思っていた


 次に食事の場所へ向かった

 こじんまりした、お世辞にも綺麗とは言えない昔ながらのラーメン屋だった

 「うわぁ、ラーメン!たまにしか食べれないから楽しみ!」

 目を輝かせているのを見て、期待以上に喜んでくれているのが永嗣には嬉しかった

 「見た目こんなだけど、味は保証するから」

 と、ガラガラと扉を開けた

 「らっしゃいっ…おおっ永ちゃんかい!」

 「久しぶりねぇ」

 「ご無沙汰、女将さん変わんないね。オヤジは更に毛が薄くなったんじゃね?」

 「やかましいわっ」

 永嗣たちのやり取りに微笑む楓花。すると女将さんが

 「随分と可愛い子を連れてきたんじゃない?彼女?」

 「ああ、可愛いだろ?楓花っていうんだ」

 永嗣の自慢げな顔は見てなかったが、楓花は慌ててお辞儀をした

 「立花 楓花ですっ」

 「名前も可愛らしいわ~いいわね、女の子って」

 と女将さんは楓花に優しい笑顔を見せた

 永嗣はあえてカウンター席に座り、隣に座るよう椅子を指さした

 もちろんカウンター席に座ったことのない楓花は、直接厨房が見える状態に興奮を抑えるのに必死だった
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