第1話

文字数 1,022文字

「おいっ!髪の毛入ってるぞ!今すぐ取り替えろ!」 


「はい!申し訳ありません!」


ラーメン屋の店員が汗を吹き出しながら、頭を下げてラーメンを下げる。


ラーメンに髪の毛なんて信じられん。
せっかく忙しい合間を見て、やっとこさ辿り着いた昼飯だったのに……。
気分を害した。


「大変申し訳ありませんでした!」


さっきのスキンヘッドの店員がドンッ!とラーメンを置いた。
おい、おい、親指入ってんぞ。
お腹が警笛を鳴らしそうだったので、その言葉は飲み込み、ラーメンへと齧り付いた。


箸を持ち上げ、口へ運ぼうとすると……


チラッ


少し栗色がかった細い縮れ髪が、箸へと絡みついていた。
俺はカッチーン!ときた。


「おいっ!何やってんだ?!また髪の毛入ってんぞ!真面目に作ってんのか!ボケハゲ!」



「あの、申し訳ありません。店長が作ってまして……どうしてもそれを差し出せと。お客様知りませんか?自分の髪の毛を入れたラーメンを想い人に食べさせると、両思いになれるって話……」


スキンヘッドが頭から滝の様な汗を流しながら、そう話す。


は?想い人?キモい。キモすぎる。


「知らん!ちょっと店長を出せ!!」


俺は腹減りすぎて、腹の虫が収まらないんだ!



「お客様、ワタクシが店長です」


目の前にやってきた店長と思われる女は、栗色の髪だった。


そして、五年程前に別れた元妻だった。



「お、お前!!」



開いた口が塞がらなかった。



「ごめんなさい。あなたがいきなり来るものだから、ついそんな事してしまって」


「そんな事……」


さっきのスキンヘッドの言葉を思い出す。
〝自分の髪の毛を入れたラーメンを想い人に食べさせると、両思いになれるって話〟



そう言えば、昔からこいつは黒魔術やらそんな類が好きだったな。



顔がボッ!と赤くなる。 
こいつはまだ俺の事……



「あなたの事ずっと忘れられなかった。まだ大好きなの!やり直せないかしら?」



その必死な顔を見て、昔みたいに脈動が早くなる。彼女の一途な愛に胸が熱くなる。



「俺もお前の事……」



その時、スキンヘッドが俺らの前に立ちはだかる。


「店長!俺、貴方が好きです!ずっと好きでした!付き合って下さい!!」


スキンヘッドが元妻に右手を差し出して、頭を下げている。


負けずに俺も同じ行動に出る。


「俺もお前がずっと好きだった!寄りを戻して下さい!」



ラーメン店の空気が止まる。
お客全員が三人に夢中になる。




さぁ、どうする?靖子!





「やっぱり、あなたの方が好き!」





靖子が握った手のひらは俺では無かった。





「そっちかーい!」






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