第16話 第三章 『シャルウィダンス』② 配達
文字数 1,114文字
ところがその翌々日の午後、お得意先の別荘の住人から電話があった。
一昨日、配達してくれたシャンパンが注文したものと違うと言うのだ。コテッジに届けるものと似ていたため取り違えたらしい。どちらも在庫はない。
が、コテッジからは何のクレームもなく、電話をしても誰も出ない。
「おいサトシ、行ってこい・・」
サトシ君はまず別荘に向かい、間違って届けたシャンパンを受け取った。
「飲んじゃおうかと思ったんだけど・・何だかとってもお高いもののようなので・・」
と言って、いつも穏やかな顧客は鷹揚に笑った。
「すみません・・」
それからコテッジに向かう途中、前々日と同じように親友の克也を誘うため保養所村に立ち寄った。
克也は夏休みの間もスキー部の合宿等で忙しかった。が、その合間に高原での自主トレーニングを兼ねて家の保養所に時々帰省していた。
保養所村から続く林道をしばらく行って更に森に続く脇道に入ると木の柵の門が見え、その先に車がやっと一台通れるようなコテッジに続く道がある。かなり急だ。
ゲレンデ側から森を抜けるとそういう印象はないが、コテッジはちょっとした山の上にある。
「・・音楽、聞こえね」
「聞こえる・・やべえ、始まってんのかな・・パーチィ」
車で上まで乗り上げた時、二人はそこに広がる景観に目を見張った。
二日前の様子とはうって変わっている。周りを森の木々で取り巻かれた空間に幾つかのレトロな遊具やベンチが置かれ、そんな遊園地の夜を演出するためか、これまたオシャレなランタンが点在している。
「スゲエ・・」
「いつの間に・・」
一昨日、配達に来た時には何もなかった。
「大掛かりだな・・あれ、メリーゴーランドだろ」
小ぶりだが、極めておしゃれな作りだ。
「ああ・・ブランコもある」
「入場料取れよ・・こんなところで遊べたら、おれ、毎日来るぜ」
「オレも・・有紀ちゃんと乗りてえ」
が、なぜか先程まで耳にした楽の音は聞こえない。
その時、尻尾をだらんと下げて淋しそうな様子の犬が一匹、裏庭の方から出て来てウロウロとしている。克也が呼び寄せるように口笛を鳴らすと、顔を向け近寄って来た。
「ここの犬か・・」
「・・川久保さんが連れてんの見たことある」
それにしては痩せこけている。暫く慰められるように背中や首を撫ぜられていたが、急に辺りに注意を払うように耳をピンと立てた。つられて二人も周りを見回した。
すると急に駆け出した犬が、コテッジの玄関口のドアをガリガリやり始めた。
「中に入りたいのかな・・」
二人はドアの前で声を張り上げた。
「こんにちは・・!」
「・・川久保さん・・!」
暫く待っても返事がない。
「聞こえねえのかな・・」
一昨日、配達してくれたシャンパンが注文したものと違うと言うのだ。コテッジに届けるものと似ていたため取り違えたらしい。どちらも在庫はない。
が、コテッジからは何のクレームもなく、電話をしても誰も出ない。
「おいサトシ、行ってこい・・」
サトシ君はまず別荘に向かい、間違って届けたシャンパンを受け取った。
「飲んじゃおうかと思ったんだけど・・何だかとってもお高いもののようなので・・」
と言って、いつも穏やかな顧客は鷹揚に笑った。
「すみません・・」
それからコテッジに向かう途中、前々日と同じように親友の克也を誘うため保養所村に立ち寄った。
克也は夏休みの間もスキー部の合宿等で忙しかった。が、その合間に高原での自主トレーニングを兼ねて家の保養所に時々帰省していた。
保養所村から続く林道をしばらく行って更に森に続く脇道に入ると木の柵の門が見え、その先に車がやっと一台通れるようなコテッジに続く道がある。かなり急だ。
ゲレンデ側から森を抜けるとそういう印象はないが、コテッジはちょっとした山の上にある。
「・・音楽、聞こえね」
「聞こえる・・やべえ、始まってんのかな・・パーチィ」
車で上まで乗り上げた時、二人はそこに広がる景観に目を見張った。
二日前の様子とはうって変わっている。周りを森の木々で取り巻かれた空間に幾つかのレトロな遊具やベンチが置かれ、そんな遊園地の夜を演出するためか、これまたオシャレなランタンが点在している。
「スゲエ・・」
「いつの間に・・」
一昨日、配達に来た時には何もなかった。
「大掛かりだな・・あれ、メリーゴーランドだろ」
小ぶりだが、極めておしゃれな作りだ。
「ああ・・ブランコもある」
「入場料取れよ・・こんなところで遊べたら、おれ、毎日来るぜ」
「オレも・・有紀ちゃんと乗りてえ」
が、なぜか先程まで耳にした楽の音は聞こえない。
その時、尻尾をだらんと下げて淋しそうな様子の犬が一匹、裏庭の方から出て来てウロウロとしている。克也が呼び寄せるように口笛を鳴らすと、顔を向け近寄って来た。
「ここの犬か・・」
「・・川久保さんが連れてんの見たことある」
それにしては痩せこけている。暫く慰められるように背中や首を撫ぜられていたが、急に辺りに注意を払うように耳をピンと立てた。つられて二人も周りを見回した。
すると急に駆け出した犬が、コテッジの玄関口のドアをガリガリやり始めた。
「中に入りたいのかな・・」
二人はドアの前で声を張り上げた。
「こんにちは・・!」
「・・川久保さん・・!」
暫く待っても返事がない。
「聞こえねえのかな・・」