過去・真相02

文字数 3,207文字

──一通りの話をリアナは終え、



「私が分かるの……思い出せる全ての話は以上です」



「そうか……。そうだったのか……」



エウは、それ以上何も言う事が出来なかった。昨日の涙に通じるであろう事件。今も囚われているのか。それとも、死んでしまったのか。

安否を訪ねたい気持ちはあったが、それでも聞くのは辛い事だろ。と、思いとどまる。



──しかし、化け物とは一体……。ティティータは死んだのだろうか?



小一時間、話を聞いて分かったベッラの顛末。



だが、どれも詳しい内容とまではいかなかった。



と言うのも、リアナが二人に話した内容と言うのは、襲撃され、気を失い。目が覚めたら捕まっていた為に、飛び飛びに曖昧に話されただけ。



ティティータと言うのも、小さい頃のリアナからすれば力が強いお兄ちゃん。みたいな“ザックリ”とした存在だったらしい。その彼の安否すらリアナが捕まった後に他の人から聞いた話を思い出しながら。と言う信用に足らないものだった。



──もしかしたら、まだ小さい頃のリアナはホムンクルスが化け物に見えたのかもしれないな。ティティータの事は気になるが……。





だが、その疑問は今の助けには関係ないはず。と、投げ捨て、淡然たる態度で、



「とりあえず……だ。その話と、助けはどう繋がってるんだ?」



「──えっと、ですから……。囚われている皆を助けて欲しいんです……」



「ん?  そんな事か。全然構わないよ」



「かま……えっ!?  あの、私が何を言っているのか……。と言うか、どんな危険があるか分かっている──んですよね??」





リアナは、自分から言っておきながら、まるっきり状況が把握出来ていないのか。エウの発言に思考が追いついていないのか、困惑した様な焦りを見せていた。



そんな、目の前に居るリアナにレカはそっと近寄り、頭の上に手を乗せる。



その行為すら疑問に思っているのか、次はレカを見つめ、首を傾げた。

──なんとも、まあ忙しい子だな。



「だから、良いんだよ。それが俺達の役目だから」



「──役目??  エウさん達も、新帝都の反勢力なんですか??」



「……うーん、反勢力と言うか……なんと言うか……」



純粋な瞳でエウを見つめ、その目線にエウは困っていた。と言うのも仕方が無い。先程、エウはシッカリと自分達の立場を教えた……つもりだったのだから。故に、今の疑問は確実に自分達が死神だと言うのを信じていない事、となってしまう。

──いやあ、困った。だとしても……嘘を伝える、と言うのも神として……。うーん……。



そんな藁にもすがる様な弱々しい視線は自然と横に座るレカへと移る。



勝気な瞳が兄であるエウを捉え、

「はぁ、まったく……。ウチらは反勢力とは異なるのじゃが……。ある御方の命で動いておる。故に、新帝都とは敵対している、と、捉えてもらって構わぬよ」



「そ、そうなんですかっ?  だから、あんな強いのですね……。反勢力の中には、そう言った異業の技を用いる方々が居るとは聞いていましたが……」



視点を天井に逸らしつつ、人から聞いた話を思い出すかのように途切れ途切れ口にしたリアナ。



しかし、その表情には頼み込む時、前、のような緊張感は感じられない。それどころか、多少なりとも安心したようは穏やかな表情。



話がいい方向に進んでゆく中、肌寒さが残っていた、日も登らぬ早朝は暖かい陽を迎えていた。



建物の隙間から射し込む、薄い陽の光は三人を照らし、包み込む。





「そうなのか?  まあ……、いいか。それでティティータの屋敷とはどこら辺にあるんだ?  と言うか、皆は無事なのか?」

──しかし、異業の技を使うとは一体……。ここには俺が知らない、知らなきゃならない事があり過ぎる。



「はい、無事と言えば無事です……。昔の面影はありませんが……。えっと、場所はー、ですね、二時間程歩いた場所にあるんです」



昔の面影が無い、それはエウの胸を締め付ける。リアナ、痩せてしまっているリアナを見れば想像できてしまった。



不当な扱いをされ、慈悲もなく無慈悲に弄ばれているのだと。



その赦す事の出来ない仕打ちに、エウの怒りは“フツフツ”と沸き上がる。



その雰囲気に恐れてしまったのだろうか、リアナは言葉を詰まらせる。

そしてボロい洋服を皺を寄せながら“ギュッ”と掴み、目を逸らした。



しかし、エウは既にその殺気を抑え込む事すら考えてはいない。



頭の中は既にホムンクルスの事でいっぱいだった。そんなエウに対してレカは何食わぬ顔で正面に座り込み、柔らかい笑顔を見せると、

「──エイッ!」



「──ッ!!  バッ!!  おまっ!  こんな時に、鼻に指を入れんなよッ!  痛いじゃねーか!」



「こんな時だからこそ落ち着かねばなるまいて。相手の人数も分からぬ、何処から襲ってくるかもわからぬ。それに加え、あ奴らは人を殺す狂人の沙汰じゃろーが。ウチらも死ぬわけにはいかぬ」



その文言に、エウは深い息を吐く。

自分の気持ちを宥めながら、

「そう、だな……。俺が悪かった。ごめんな?  リアナ」



「いえ、私は別に何もッ!!  ──そんな事より……鼻、血が凄いんですが……」

「あははは、気にしないでく」

「気にしますよ!!  凄い量ですよ!?」



必死なリアナをみて、面白そうに顔を歪め、

「──あにじゃは血の気が多い。少しは抜いた方が良いのじゃよ」



「それと、これとはまた話が違いますよッ!!」



“ビリビリ”と自分の服の袖を破いた。

そして心配そうに、目を濡らし、見つめながらエウの鼻に入れる。

『なんともまぁ間抜けな顔だ』と言わんばかりに笑いこけるレカに若干、嫌悪を抱きつつ。それでも、リアナには感謝をしていた。



初めて触れて感じた人の優しさに、エウは満更でもないのだ。



「リアナはお人好しじゃの。──って、あにじゃは何、赧然たる表情をしとるのじゃ!!」



「──ッえ!?  ばっ!  してねぇから!!」



「ふふっ……ごめんなさい。なんか良いなって思っちゃったものでッ」



遠慮気味な細い笑い声がエウの鼓膜を通り過ぎた。それは彼女が見せた笑。二人からしたら変わらないやり取りがリアナからすれば、微笑ましいものだったのだろうか。



二人は、目を合わせ首を傾げながら、

「良いってなんだよ!」

「良い訳ないじゃろ!」



「──あはははっ。ほら、息ぴったりじゃないですかぁっ。本当に仲良しなんですねっ!」



涙を、拭いながらリアナは口にした。

その涙は、笑いから生まれたものなのか。それとも、家族に思いを馳せて流れた涙なのか。

暖かくもあり、何処か寂しげな表情をする。



そんな彼女を瞳に写し、瞼を一度強く閉じ。

今回の件を全て終わらせるイメージを頭で浮かべ。その涙が本当の喜びで流れる事を願いつつ、己に喝をいれた。



──よしっ



エウは、再び瞼を開き。レカ、リアナを視野にいれ。髪を一度掻き上げ、



「──行こう。終わらせに……ッ!」



その言葉に賛同するかのように、レカは一番に立ち上がり、

「じゃなっ!!」



「──あのっ!!  本当……ほんっ……とうにありがとうございます……この御礼はいつか──」

「んー、御礼はいいから。人として精一杯生きてくれ。そして自分の本来あるべき運命を辿って欲しい。こんな世知辛い世の中だけれど、それでも、君は人としてシッカリ余生を送ってくれれば俺達はそれでいい」



エウは思いの丈を伝えた。いやこの場合は、きっと思いは二人共一緒だろう。その言葉を聞き、まるでそれは、神頼みをしているかのように再び頭を下げた。



「まあ、行くとするかのッ!!」



リアナの手を取り、三人は歩き出した。



人が囚われた屋敷、ティティータ邸目指して。


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