ごまめの歯ぎしりはちっぽけ
文字数 4,174文字
それから、スイミングのない日は必ずラッキーと散歩をするようにしたんだけど。
残念ながら、この間みたいなことは二度となかった。
帰る時間を教えてもらったから、モエギおねえさんの姿を見かけるようにはなったんだ。
でも、おねえさんはいつだってほかの誰かと一緒にいる。
この間なんかは、当然みたいな顔をしたアイツが後ろにいて、僕に気がつくと凶悪な目でにらんできた。
「あ、羊介 くん、ラッキー!お散歩中?」
「うん!モエギおねえさんは今から帰るの?」
「……予備校、遅れんじゃねぇの」
手を振った僕から隠すみたいに、アイツがおねえさんの肩をぐぃっと押す。
「あなたに関係ないでしょう。羊介 くん、またね」
「……うん」
こんな感じで、いつも挨拶だけで終わっちゃうんだ。
予備校があるんじゃしかたないよね。
……本当に忙しいんだな、高校生。
今日はこないだ会えたのと同じ火曜日だけど、学校から帰ってすぐにラッキーを連れ出しちゃったから、おねえさんには会えないかもしれない。
そうわかってるんだけど、お母さんと顔を合わせるのはとっても気まずいから、ちょっと遠くまで行こうって思ってるんだ。
それで、おねえさんが帰るころにもう一度校門の前を通ってみたら……。
またこないだみたいな幸運 があるかもしれない。
「でもなあ……」
ラッキーの隣をとぼとぼ歩きながら、僕は思わず「ふぅ」とため息をついた。
おねえさんに会えたら嬉しいけど、お母さんに怒られる原因はなくならない。
重たい気持ちのまま高校の塀の曲がったところで、ラッキーが熱心に電柱の根元を嗅ぎだした。
「ラッキー、そこになんかあるの?」
聞いてみたけれど、ラッキーはこっちも見ないで草むらに鼻先を突っ込んでいる。
まあ、時間はたっぷりあるから、いくらでも付き合うけどさ。
ラッキーを待つ間に、僕はハーフパンツのポケットに手を突っ込んだ。
そこから出てきたのはクシャクシャに丸めた紙で、それをカサカサ広げると、それは悲惨な算数のテストが顔を出す。
「……25点……。どうしよ、これ」
お母さんが見たら、白目をむいちゃうレベルの×の大行進。
「25点かあ」
「ひぃっ」
気配なんか全然なかったのに!
突然、耳元で聞こえた声に恐る恐る振り返ると。
「も、モエギおねえさん……」
僕の後ろには、スイミングのときに高校生だと黙っていた、あの悪い顔をしたおねえさんがいた。
「おやおやだねぇ」
僕からしわくちゃのテストを取り上げたおねえさんは、じっくりと×の大行進に目を通している。
「あ、あの……。部活はいいの?」
「3年生は、合同練習以外は基本、自由参加なのよ。今日は3年の人数が少なくて、行くのやめちゃった」
「そう、なんだ。あのぉ……」
極悪テストをどう思われたかが心配で、お尻のあたりがモゾモゾしてきた。
「羊介 くんさ」
「う、うん」
「算数、苦手なの?」
「うん。えと、勉強が苦手、なんだ。……算数はとくに」
「このテスト、解き直しとかしないの?」
「する。それが宿題。算数ノートに間違えた問題を写して、もう一回解いて出さなきゃいけないんだ」
「これは結構な分量だね。できそう?」
黙り込んでうつむくと、ラッキーがおねえさんに向かって振っているしっぽが目に入る。
ラッキーはいいなぁなんて思うのは、現実逃避ってやつ。
「できそう?」と聞かれたけど、答えは「無理そう」。
そして、涙が出そう。
「ふふ」
柔らかくてあったかい笑い声に顔を上げると、おねえさんがコテンと首を傾けた。
「羊介 くん、このあと何か用事ある?スイミングはない日でしょう?」
「うん。用事はとくにないけど」
「教えてあげようか」
「え?」
「算数。この間、助けてくれたお礼」
「でも、モエギおねえさん、予備校は大丈夫なの?」
「今日は始まりが遅いんだ。だから、時間まで図書室で勉強してたんだけど、羊介 くんが見えたから」
上を指したおねえさんの指につられて首を向けると、本棚が並んだ教室が目に入る。
そこには机に向かって勉強している高校生たちがたくさんいて、おねえさんがどうして僕を見つけられたかがわかった。
「ノートと教科書、あと筆記用具を持っておいで」
「どこで勉強教えてくれるの?高校って、小学生が入ってもいいの?」
「んふふふふ」
おねえさんが、あの悪くてカワイイ顔になる。
「羊介 くんは恩人だから、特別に秘密基地を教えてあげよう」
「えっ、秘密基地?高校生なのに?」
「高校生は秘密基地作っちゃいけない?」
「そんなこと、ないけど。女の子って、そういうことしないと思ってた」
「楽しいことに、男も女も関係なくない?」
「そう、なの?……僕ね、音楽は好きなんだけど、兄ちゃんは”男のクセに”って言うよ?あと、運動苦手なのも、”男のクセに”って」
「苦手なことって、それこそ男も女も関係なくない?ていうかさ!羊介 くん、音楽好きなの?」
「うん。リコーダーとかハーモニカは上手って、お母さんが。兄ちゃんは、そんなの何の役にも立たないって、」
「そんなことないよ!」
おねえさんが、テストごと僕の手をぎゅっと握った。
「だって、スイブに入りたいんでしょ?今から楽器が得意なら有望じゃない!」
「ゆう、ぼう?」
「うん、見込みがあるよ」
……そっか。おねえさんはそう思ってくれるんだ。
音楽好きをほめられたのは初めてで、ほわほわした気持ちになっていたんだけど。
「でも、この点数だと、うちの高校は厳しいかも」
おねえさんから落とされた特大の爆弾が、僕を直撃する。
「……うぐぅ」
そうだった。
忘れてたけど、おねえさんの高校は「県下有数の進学校」なんだよ。
しょぼんとした僕の頬っぺたをテストの端っこでつっついて、おねえさんがニィっと笑った。
「ラッキーのお散歩は、あとどのくらいかかりそう?」
「も、もう帰るところだから!」
見上げるラッキーの顔が不満そうなのは気のせい気のせい。
「そう?羊介 くんのおうちからなら、正門まで戻ってくるのに……、20分くらい?」
「10分!」
おねえさんの言葉の途中で、僕はラッキーを引きずりながら走り出した。
玄関の雑巾でラッキーの足を拭いてリビングに放り込んで(もちろんおわびのジャーキー付き)、サブバッグにノートと筆箱を詰め込んで、スニーカーに足を突っ込む。
それから人生でここ一番、最大限の力を振り絞って走って戻ると、校門前でおねえさんが待っていてくれた。
「ずっと走って来たの?」
「だって、友だちと待ち合わせなんて、初めて、だから」
さすがにちょっと切れていた息を整えて、僕はおねえさんを見上げる。
「帰っちゃったら、イヤだったから」
「約束は守るよ、私は。ほら、おいで」
「!」
つないだおねえさんの手があったかくて柔らかくて、心臓がドクドク鳴り始めた。
「秘密だぞ?」
「だ、誰にも、言わない」
「んふふふふ、約束ね」
手を離さないまま、高校の裏手に回っていくおねえさんの隣を歩く。
「ここは運動部の部室棟でね」
「う、うん」
「あの奥はアーチェリー場」
「へ、へぇ」
ちょっとした学校案内をしてくれてるみたいだけど、つないだ手に気を取られている僕の耳には、あんまり入ってこない。
だって、お母さん以外の女の人と手をつないで歩くのなんて、初めてなんだから。
しばらくすると、校庭を囲むフェンスが途切れた向こうに、土がむき出しの斜面が見えてきた。
「みんな同じ場所を上がるから、えぐれてるんだよね」
そう言って先に行くおねえさんをマネして、僕もくぼんでいるところに足を引っかけてよじ登る。
「うわぁ。……こんなとこあるの、知らなかった」
登った先にはだだっ広い原っぱがあって、もう夏は終わりだけど、まだ足のスネ辺りまで草が伸びていた。
「どこまで行くの?」
「もうちょっと」
足をくすぐる草をかき分けて、おねえさんは原っぱを進む。
「はい、どうぞ上がって」
案内された場所には、青いビニールシートが敷かれていた。
その上に折り畳み式のレジャーローテーブルが置かれていて、青空教室って感じ。
こんなの、どこから出したんだろうってキョロキョロしていたら、見えてしまった。
原っぱを囲む雑木林の影にある、丸められたパラソルと簡易テントが。
高校生の秘密基地ってすごい!
「ここねえ、県営の施設があったらしいんだけど、立地の関係で取り壊されて、それっきりなんだって」
「へぇ~。おじゃま、しまーす」
おねえさんのマネをして、僕は靴を脱いでシートに上がる。
「モエギおねえさんたちは、ここで何してるの?」
「トランプとか」
「教室でじゃなくて?」
「あとお弁当食べたり、つまんない授業があると、ちょっとここでね。たまによ?たまに」
それは「サボり」ということだろうか。
真面目そうなおねえさんの意外な一面に、なんだかワクワクする。
「テントとかは、何に使うの?」
「若干の雨にも対応できるように!」
サムズアップするおねえさんとシートの上に座ると、少し涼しくなってきた風が僕たちに吹きつけてきた。
「最初は原っぱに直接座ってたんだけど、虫は出るし、雨上がりは濡れてるし。おうちが植木屋さんの子がね、去年の文化祭のときに、使わないレジャーシートとテーブルを、荷物搬入のついでに持ってきたら快適でさ。そっから各家庭、不用品を持ち寄るようになって、結果”アウトドア用品の墓場”ができあがりました。先生にチクらないことが条件で、誰でも自由に使用可。ただし男子は不可。さて」
おねえさんがトントンとテーブルを叩く。
「テスト出して」
「どうして男子はダメなの?」
僕は首を傾 げながら、テーブルの上に悲惨テスト、ノートと筆箱を並べた。
「うちの学年の男子は、勝手な人が多いからね」
「僕はいいの?」
特別ご招待っぽくて、ちょっといい気分だったんだだけど。
「羊介 くんは男子じゃないもの」
「はいぃ?」
なんということだ。
スイミングで一緒だったというのに、女子と間違えられていたのか!
いや、いっそ女子と間違えられていたほうがましだったと思う。
「違うよ」と言えばいいんだから。
「羊介 くんは
「小さい子」って……。
ひどいよ、モエギおねえさんのバカ!
残念ながら、この間みたいなことは二度となかった。
帰る時間を教えてもらったから、モエギおねえさんの姿を見かけるようにはなったんだ。
でも、おねえさんはいつだってほかの誰かと一緒にいる。
この間なんかは、当然みたいな顔をしたアイツが後ろにいて、僕に気がつくと凶悪な目でにらんできた。
「あ、
「うん!モエギおねえさんは今から帰るの?」
「……予備校、遅れんじゃねぇの」
手を振った僕から隠すみたいに、アイツがおねえさんの肩をぐぃっと押す。
「あなたに関係ないでしょう。
「……うん」
こんな感じで、いつも挨拶だけで終わっちゃうんだ。
予備校があるんじゃしかたないよね。
……本当に忙しいんだな、高校生。
今日はこないだ会えたのと同じ火曜日だけど、学校から帰ってすぐにラッキーを連れ出しちゃったから、おねえさんには会えないかもしれない。
そうわかってるんだけど、お母さんと顔を合わせるのはとっても気まずいから、ちょっと遠くまで行こうって思ってるんだ。
それで、おねえさんが帰るころにもう一度校門の前を通ってみたら……。
またこないだみたいな
「でもなあ……」
ラッキーの隣をとぼとぼ歩きながら、僕は思わず「ふぅ」とため息をついた。
おねえさんに会えたら嬉しいけど、お母さんに怒られる原因はなくならない。
重たい気持ちのまま高校の塀の曲がったところで、ラッキーが熱心に電柱の根元を嗅ぎだした。
「ラッキー、そこになんかあるの?」
聞いてみたけれど、ラッキーはこっちも見ないで草むらに鼻先を突っ込んでいる。
まあ、時間はたっぷりあるから、いくらでも付き合うけどさ。
ラッキーを待つ間に、僕はハーフパンツのポケットに手を突っ込んだ。
そこから出てきたのはクシャクシャに丸めた紙で、それをカサカサ広げると、それは悲惨な算数のテストが顔を出す。
「……25点……。どうしよ、これ」
お母さんが見たら、白目をむいちゃうレベルの×の大行進。
「25点かあ」
「ひぃっ」
気配なんか全然なかったのに!
突然、耳元で聞こえた声に恐る恐る振り返ると。
「も、モエギおねえさん……」
僕の後ろには、スイミングのときに高校生だと黙っていた、あの悪い顔をしたおねえさんがいた。
「おやおやだねぇ」
僕からしわくちゃのテストを取り上げたおねえさんは、じっくりと×の大行進に目を通している。
「あ、あの……。部活はいいの?」
「3年生は、合同練習以外は基本、自由参加なのよ。今日は3年の人数が少なくて、行くのやめちゃった」
「そう、なんだ。あのぉ……」
極悪テストをどう思われたかが心配で、お尻のあたりがモゾモゾしてきた。
「
「う、うん」
「算数、苦手なの?」
「うん。えと、勉強が苦手、なんだ。……算数はとくに」
「このテスト、解き直しとかしないの?」
「する。それが宿題。算数ノートに間違えた問題を写して、もう一回解いて出さなきゃいけないんだ」
「これは結構な分量だね。できそう?」
黙り込んでうつむくと、ラッキーがおねえさんに向かって振っているしっぽが目に入る。
ラッキーはいいなぁなんて思うのは、現実逃避ってやつ。
「できそう?」と聞かれたけど、答えは「無理そう」。
そして、涙が出そう。
「ふふ」
柔らかくてあったかい笑い声に顔を上げると、おねえさんがコテンと首を傾けた。
「
「うん。用事はとくにないけど」
「教えてあげようか」
「え?」
「算数。この間、助けてくれたお礼」
「でも、モエギおねえさん、予備校は大丈夫なの?」
「今日は始まりが遅いんだ。だから、時間まで図書室で勉強してたんだけど、
上を指したおねえさんの指につられて首を向けると、本棚が並んだ教室が目に入る。
そこには机に向かって勉強している高校生たちがたくさんいて、おねえさんがどうして僕を見つけられたかがわかった。
「ノートと教科書、あと筆記用具を持っておいで」
「どこで勉強教えてくれるの?高校って、小学生が入ってもいいの?」
「んふふふふ」
おねえさんが、あの悪くてカワイイ顔になる。
「
「えっ、秘密基地?高校生なのに?」
「高校生は秘密基地作っちゃいけない?」
「そんなこと、ないけど。女の子って、そういうことしないと思ってた」
「楽しいことに、男も女も関係なくない?」
「そう、なの?……僕ね、音楽は好きなんだけど、兄ちゃんは”男のクセに”って言うよ?あと、運動苦手なのも、”男のクセに”って」
「苦手なことって、それこそ男も女も関係なくない?ていうかさ!
「うん。リコーダーとかハーモニカは上手って、お母さんが。兄ちゃんは、そんなの何の役にも立たないって、」
「そんなことないよ!」
おねえさんが、テストごと僕の手をぎゅっと握った。
「だって、スイブに入りたいんでしょ?今から楽器が得意なら有望じゃない!」
「ゆう、ぼう?」
「うん、見込みがあるよ」
……そっか。おねえさんはそう思ってくれるんだ。
音楽好きをほめられたのは初めてで、ほわほわした気持ちになっていたんだけど。
「でも、この点数だと、うちの高校は厳しいかも」
おねえさんから落とされた特大の爆弾が、僕を直撃する。
「……うぐぅ」
そうだった。
忘れてたけど、おねえさんの高校は「県下有数の進学校」なんだよ。
しょぼんとした僕の頬っぺたをテストの端っこでつっついて、おねえさんがニィっと笑った。
「ラッキーのお散歩は、あとどのくらいかかりそう?」
「も、もう帰るところだから!」
見上げるラッキーの顔が不満そうなのは気のせい気のせい。
「そう?
「10分!」
おねえさんの言葉の途中で、僕はラッキーを引きずりながら走り出した。
玄関の雑巾でラッキーの足を拭いてリビングに放り込んで(もちろんおわびのジャーキー付き)、サブバッグにノートと筆箱を詰め込んで、スニーカーに足を突っ込む。
それから人生でここ一番、最大限の力を振り絞って走って戻ると、校門前でおねえさんが待っていてくれた。
「ずっと走って来たの?」
「だって、友だちと待ち合わせなんて、初めて、だから」
さすがにちょっと切れていた息を整えて、僕はおねえさんを見上げる。
「帰っちゃったら、イヤだったから」
「約束は守るよ、私は。ほら、おいで」
「!」
つないだおねえさんの手があったかくて柔らかくて、心臓がドクドク鳴り始めた。
「秘密だぞ?」
「だ、誰にも、言わない」
「んふふふふ、約束ね」
手を離さないまま、高校の裏手に回っていくおねえさんの隣を歩く。
「ここは運動部の部室棟でね」
「う、うん」
「あの奥はアーチェリー場」
「へ、へぇ」
ちょっとした学校案内をしてくれてるみたいだけど、つないだ手に気を取られている僕の耳には、あんまり入ってこない。
だって、お母さん以外の女の人と手をつないで歩くのなんて、初めてなんだから。
しばらくすると、校庭を囲むフェンスが途切れた向こうに、土がむき出しの斜面が見えてきた。
「みんな同じ場所を上がるから、えぐれてるんだよね」
そう言って先に行くおねえさんをマネして、僕もくぼんでいるところに足を引っかけてよじ登る。
「うわぁ。……こんなとこあるの、知らなかった」
登った先にはだだっ広い原っぱがあって、もう夏は終わりだけど、まだ足のスネ辺りまで草が伸びていた。
「どこまで行くの?」
「もうちょっと」
足をくすぐる草をかき分けて、おねえさんは原っぱを進む。
「はい、どうぞ上がって」
案内された場所には、青いビニールシートが敷かれていた。
その上に折り畳み式のレジャーローテーブルが置かれていて、青空教室って感じ。
こんなの、どこから出したんだろうってキョロキョロしていたら、見えてしまった。
原っぱを囲む雑木林の影にある、丸められたパラソルと簡易テントが。
高校生の秘密基地ってすごい!
「ここねえ、県営の施設があったらしいんだけど、立地の関係で取り壊されて、それっきりなんだって」
「へぇ~。おじゃま、しまーす」
おねえさんのマネをして、僕は靴を脱いでシートに上がる。
「モエギおねえさんたちは、ここで何してるの?」
「トランプとか」
「教室でじゃなくて?」
「あとお弁当食べたり、つまんない授業があると、ちょっとここでね。たまによ?たまに」
それは「サボり」ということだろうか。
真面目そうなおねえさんの意外な一面に、なんだかワクワクする。
「テントとかは、何に使うの?」
「若干の雨にも対応できるように!」
サムズアップするおねえさんとシートの上に座ると、少し涼しくなってきた風が僕たちに吹きつけてきた。
「最初は原っぱに直接座ってたんだけど、虫は出るし、雨上がりは濡れてるし。おうちが植木屋さんの子がね、去年の文化祭のときに、使わないレジャーシートとテーブルを、荷物搬入のついでに持ってきたら快適でさ。そっから各家庭、不用品を持ち寄るようになって、結果”アウトドア用品の墓場”ができあがりました。先生にチクらないことが条件で、誰でも自由に使用可。ただし男子は不可。さて」
おねえさんがトントンとテーブルを叩く。
「テスト出して」
「どうして男子はダメなの?」
僕は首を
「うちの学年の男子は、勝手な人が多いからね」
「僕はいいの?」
特別ご招待っぽくて、ちょっといい気分だったんだだけど。
「
「はいぃ?」
なんということだ。
スイミングで一緒だったというのに、女子と間違えられていたのか!
いや、いっそ女子と間違えられていたほうがましだったと思う。
「違うよ」と言えばいいんだから。
「
男の子
でしょ。高校生同士ならコーヒーショップとかに誘うけど、小さい子
連れて入ると、誘拐と間違えられてもいけないし。ごめんね?外で」「小さい子」って……。
ひどいよ、モエギおねえさんのバカ!