タヌキとキツネ

文字数 804文字

 キツネがストリップ劇場の前を通りかかると、客引きのタヌキが声をかけた。
「若いピチピチの娘がやってますよ」
 キツネは足を止めて尋ねた。
「本当かい?」
「オッパイもお尻も大きくて、最高の娘ですよ」
「料金は?」
「入場料は、栗三個です」
 キツネは懐の栗の数を確かめた。
 キツネの様子を見たタヌキが言った。
「栗五個いただければ、最前列の席をご案内します」
「そうか、せっかくなら、最前列がいいな」
「栗十個だと、ステージに上がって踊り子にタッチできますよ」
「十個か……」
「絶対お勧めです。見て帰るだけなんてもったいない」
「じゃあ、それにするかな」
「実は……」
 キツネは急に小声になって話し始めた。
「栗二十個だしていただければ、その後のお楽しみもついてきますよ」
「その後のお楽しみって?」
「そりゃ、言うのは野暮ってものですが、ご想像通りのことで」
「そうか……」

「栗二十個のお客様です」
 キツネはタヌキを連れて、店の案内係に言った。
 前払いの栗を渡したキツネは、最前列の席でステージが始まるのを待った。

 スポットライトが点灯し、幕が開いた。
 ステージに立っていたのは、推定年齢二百歳になろうかという老タヌキであった。
「うわっ!」
 キツネは思わず大声を上げた。
 スポットライトを浴びながらよろよろと踊る老タヌキの姿を、キツネは茫然と見つめていた。
「最前列のお客様、どうぞステージの上へ」
 老タヌキが手招きしながら、キツネに声をかけた。

 ステージが終わって劇場の外に出たキツネは、客引きのタヌキを見つけて詰め寄った。
「お前、よくも騙したな!」
「何のことです?」
「何が若い娘だ。どうみたって、二百歳は超えている」
「そうでしたか?」
「これは詐欺だ」
「詐欺だなんて、人聞きの悪いこと言わないでください」
「栗二十個も出したんだぞ。これが詐欺以外の何だって言うんだ!」
「そうですね……栗をいただいたわけですから、詐欺ではなく、ぼったくりで」

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