終章 逢いに来た

文字数 8,310文字

終章 逢いに来た

「ただいまあ、帰ってきたぜ!無事に契約ができたよ。あとは庵主様に見てもらうだけだ!」

ガチャンとドアが開いて、杉三が入ってきたが、答えはなかった。

「あれえ、お返事がないぞ。トイレかな?」

しかしトイレなら、水を流す音がするはずだが、それもない。

「なんだ、エアコンつけっぱなし。電気代もったいないじゃないか。それにドアが開きっぱなしで、これじゃあエアコンの意味がないぜ。」

「杉ちゃん、もっと大事なこと忘れてない?」

蘭が口をはさんだ。

「ふたりとも、姿が見えないんだよ。しかも、切りかけのスイカと、中途半端に雑巾が置いてあって。」

「坊ちゃん、よく気が付きましたな。これは偉いことになりましたよ。床に血が落ちてます。たぶんきっと、破水したというか、破水どころか、、、。」

「あ、わかったわかった!つまるところ産気づいたということか。そして蘭の母ちゃんが産婦人科に連れて行ったのか。」

「しかし杉ちゃん、あの人、予定日までまだ時間があるんじゃないの?」

「なんだ、それなのに産気づいたんか。ちょっと早すぎるんじゃないのか。」

「早すぎたらどうなるか、想像つかない?」

「そう、、、だね。そうか!よし、すぐ追いかけて直行しようぜ!」

「しかし、スマートフォンはここにある。よほど慌てて行ったんだな。これじゃあ、連絡しようにも連絡が取れないよ。」

確かに、晴のスマートフォンは、テーブルの下に落ちていた。財布こそないが、化粧品の一部が落ちたりしているので、電話をかけたあと、カバンを落とし、急いで拾い上げて出て行ったとみられる。電話がなければ、どこの病院に行ったのかも聞けない。

「坊ちゃん、このあたりで産婦人科と言えば、一軒しかないですよ。多分、このあたりに住んでいる妊婦さんであれば、一度や二度は世話になるのではないでしょうか。社長のことですから、あまりたくさんの病院を知っているとは思えません。とりあえずそこへ行って聞いてみましょうか。もしかしたら、情報が聞けるかもしれませんよ。」

「沼袋さんさすが!長年運転手をしてた実力あるね!よし、僕も行くよ。よろしく頼む!」

蘭に向けて発言したのに応答したのは杉三だったが、このときばかりは蘭も不謹慎だと言って止めることはなかった。

「わかりました。すぐに車を出します。」

玄関に向かって突進していく沼袋さん。

「よし、僕らも行く支度しよう。」

蘭は床に落ちていたスマートフォンを拾い上げた。

急いで沼袋さんに車に乗せてもらって、産婦人科へ直行した。

沼袋さんが連れて行ってくれたのは、この辺りでは老舗と言われている産婦人科。最新の医療設備を備えていて、かなり有名なところであるのだが、逆を言えばライバルが不在ということである。

受付に聞いてみると、やっぱり晴たちはここにやってきたという。さすが沼袋さん、長年使えてきた主人ゆえに、彼女の行動をよく知っている。どこにいるんだと聞くと、手術室に行ったというのでまたびっくり。とにかく受付に案内してもらって、手術室に連れて行ってもらうと、晴が設置された長椅子にカバンをひっくり返して何か探していた。

「お母さん、探し物はこれじゃないか?」

目の前に、探し物であるスマートフォンが見える。

「どうしてここに、今、連絡しようと思ったんだけど、スマートフォンがなくて。」

「よほど慌ててたんだね。テーブルの下に落ちていたよ。」

「だけど、なんでこの病院がわかったの?」

「沼袋さんが教えてくれたの。このあたりで産婦人科と言ったらここだけだって。」

「そう、、、。」

思わず、ため息が出てしまう。

「お母さん、すぐにご主人に電話しなきゃ。」

「そうね。かけようにも、この病院、公衆電話を設置していないので、困っていたところよ。」

息子からスマートフォンを受け取って、急いで電話をかけ始めた。

「あれれ、坊ちゃんが社長に指示を出したの、沼袋、初めて見ました!」

「感激している暇はないぞ。」

沼袋さんと杉三がそんなことをつぶやいている。確かにその通りなんだけど、蘭たちはおそらくそれには気が付いていないと思われる。

数分後、晴から連絡を受けて、懍がやってきた。まだ、体調の回復していない水穂も来てくれた。一体何があったのか懍が聞くと、タクシーに乗ったときから急に出血が増えて、病院についたときはあれよあれよと手術室へ運ばれてしまった。専門的に言うと、胎盤早期剥離ということになるのだが、聞いただけではよくわからない名前である。赤ちゃんが育つのに必要不可欠な胎盤というものがとれてしまうということらしいが、とにかく杉三たちがわかったことは、とにかく一歩間違うと危なかったということである。

「そんなことより、いつまでたってもしないんだな。」

「何がです?」

ぼそぼそつぶやいている杉三と沼袋さん。蘭は何のことだと言いたかったが、そこへ赤ちゃんのお父さんである、塚田栄一が駆け込んでくる。

「すみません、今どうしているんでしょう!」

こういうときは、挨拶は抜きでも許される。それは誰でもそうなる。ただ、危ないことを説明するのは、ちょっと技術がいるのは確かである。こういうときは年長者のほうが的確に言えるようで、懍がかいつまんで説明をした。でも、相手が受け取るのもこれまた技術が必要。若いお父さんは、一生懸命落ち着いて聞こうとしているようだけど、不安にまけてしまうんだろう。聞こうとするより、取り乱してしまう。まあそれはしょうがないといえばしょうがないのであるけれど、もうちょっとしっかりしてもらいたいなあと思わずにはいられない。結局、ここにいると、よけいに不安になってしまうのではないかと思って、懍は看護師に頼み、お父さんと二人で別室で待たせてもらうようにお願いした。優しい看護師さんが、今のお父さんはそういう人も多いから大丈夫ですよ、なんて言って部屋へつれていってくれた。この時に、情けないとかだらしないとか、批判をするものは誰もいなかった。

看護師さんに連れられて、別室にやってきた。まず、栄一が先に部屋に入って中にある椅子に座る。懍が看護師さんに礼を言って、へやのドアを閉めようとすると、

「ドアだけは、開けておいてくれませんか。」

と、突発的に言う栄一。看護師さんは、エアコンが効かなくなって暑くないですかと聞いてくれたが、懍は、この人が成長した証拠であるから、開けてあげてくれと言った。この時あんまり経験のない若い看護師さんだったら、これがどういう意味なのか分かってくれなかったかもしれないが、そこはベテランの中年看護師さん。はいわかりましたとにこやかに言った。もし、また何かあったら言ってくださいね、と優しく言い、ドアを開けておいてくれたまま、そっと出て行った。

そのまま二人はその部屋の中で待っていることになったが、ドアが開いているわけだから、当然外の音も聞こえてくるわけだけど、杉三と沼袋さんがしゃべっている声と、時折体調のすぐれない水穂が咳をする音しか聞こえてこない。も、もうだめかと栄一が思っていると、突然重い扉ががーっと開く音がして、

「今のは何だったんだろう。もしかしたら、棺桶とかそういうもの?」

「違うよ杉ちゃん。その逆。」

という言葉も聞こえてきた。がっくりと落ち込んでしまう栄一だったが、懍はその必要はないなと確信した。勝手にもうだめだと思い込んでしまっている栄一に、懍は自分が障害をもって生まれたときに母がやってくれた「勇気ある脱出」を語って聞かせた。女である母でさえ、いざとなればそういうことができるのだから、もっと強くならなきゃなんて言い聞かせたのだけれど、果たして伝わったかどうか。たぶん、何も反応がないので、素通りしてしまったんだろうな。

暫くして、もう一回重たい扉が開いて、ストレッチャーが通っていく音。そして、数人の人がしゃべっている声。注意深く聞いていると、危機一髪のところで母子ともに助かったとわかった。

「でもさ、やっぱりとんがり耳は免除してもらえないのかい?」

「あ、赤ちゃんの奇形のことで。」

杉三の質問に、晴が訂正した。

「残念ながらそれは免れることはできませんでした。これから詳しい検査をしてみないとわかりませんが、思ったほど重症というわけではなさそうです。」

「そうかあ、やっぱりとんがり耳か。」

「はい。そこははっきりしています。しかし、自発呼吸もちゃんとしていますので、予想していた以上障害が重くなる可能性は低いと思いますよ。何とも生命力の強いお子さんですね。」

「と、いうことは、助かるの?」

「ええ。暫く保育器に入ることになりますが、比較的早く出られると思いますよ。」

「やった!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」

「杉ちゃん、選挙と出産は違うんだぞ。」

でかい声で万歳をする杉三に、蘭はそう注意したが、

「いいじゃないの。もしかしたら、選挙以上にすごいことかもしれないわよ。」

晴が静かに言った。

「万歳が聞こえてくるんですから、もう大丈夫ですよ。マルファン症候群にかかったことは取り消しできないですけど、ちゃんと逢いに来てくれましたから、もう落ち込むのはやめなさい。でないと、産んでくれたお母さんにも失礼です。」

懍は栄一に言ったが、放心状態になっている。

「ほら!やることがあるでしょう。早く立って!」

と、思わず若いお父さんの肩をたたいた。たたかれてはっと気が付く栄一。

「へ、あ、ええと、どうしたら?」

「しっかりしてください!情けないにもほどがあります!」

こう叱責されて何が起きたのか、やっと理解した栄一。急いで立ち上がり、弾丸のように部屋を飛び出していった。懍は大きなため息をつきながら、車いすを動かし、部屋を出てそのドアを閉めた。

とりあえず、帝王切開という特殊な出産だったため、通常の分娩よりも長く入院しなければならなかったが、傷も縫合されて抜糸もでき、しのぶの回復も順調であった。そのまま夫の栄一と、生まれた赤ちゃんと暮らすことが決定したため、彼女は製鉄所を後にし、自宅へ帰ることになった。やれやれ、これでめでたしめでたしか、と、製鉄所の利用者たちは口をそろえて言った。

ところが、しのぶの退院が決定した日、栄一が一人で製鉄所を訪ねてきた。家財道具でも取りに来たのかと思ったが、そうではないらしい。なんだか真剣な顔をして、青柳先生にお会いしたいという。応対した水穂は、何のことだと思いながら、とりあえず応接室に彼を通す。

「今日はお願いがあってきたんですが。」

「は、はい。何でしょう。」

思わず驚いてしまうほど、真剣そのものである。

「実は、あまりにも早かったものですから、名前を考えていなかったんです。まだまだ先だと思っていたので。早くしないと出生届の締め切りも来てしまうものですから、一生懸命考えていますけど、どうしても思いつかないので、先生、何かヒントをお願いできませんか。」

「つまり、僕が名付け親ということですか。」

はい、まさしく!という顔をする栄一。

だらしないというか、情けないというか、そこまで他人に頼るなと言いたかったが、栄一の顔を見ると、これは望みをかなえてやったほうがいいのかなと懍は迷った。しかし、自分自身も、決して子育てという意味からでは成功していない。そうなると、名付け親という栄典にはふさわしくないと思うのだが、栄一はそんなことは関係ないらしい。

「先生、お願いしますよ。先生が病院でしてくれた話、感動したんですよ。だから、僕も強い男になろうとしっかり思いました。」

だったら、他人を頼らないで、自分でやってよ、なんて考えるのだが、今の人が持つ考えはまた違うようである。

「だから、記念として残しておきたいんですよ。先生が、僕たちに、カツを入れてくれたことを忘れないためにです。これからきっと、紆余曲折あるでしょうから、忘れちゃうかもしれないじゃないですか。具体的に何かの形で残しておきたいんです。」

確かに、形のないものを頭の中にとどめておくのは、ちょっと難しいことであるのは理解できるけど、誰かに頼るというのは、まずいのではないか。それなら、忘れないように努力をするべきだろう。昔の人は、日記をつけるとか、写真を撮るとかして何かしら努力した。いわゆる赤ちゃんが主役の行事も、ある意味それを忘れないためにあるのかもしれないが、それをめんどくさいとか、諸経費の無駄とか、古臭いとか言って軽視するから、より忘れやすくなったのではないかと思うことがある。ものがない時代は、心で覚えるしかないから、こういう行事を大切にしていたと思うのだが。貧しい生活を強いられた少数民族のほうが、子供の成長をしっかり覚えているような気がしたが、彼等はちゃんと、忘れない努力もしている。

「きっと先生は長く生きていらっしゃるから、僕たちみたいな若い人は能がないと思っていらっしゃるでしょう。事実そうです。僕も、この間病院であのような態度しかできなかったので、まさしくそうだなと思いました。だから、先生に名前を付けてもらえば、いつもカツを入れてくれているような気持になることもできますよ。僕も、頭が悪いので、日本の歴史のことはあまり詳しくないけど、先生くらいの年の人に比べて、僕たちは人種が違うくらい劣化してしまったと思います。僕も間違いなく劣化している。それではいけません。これ以上劣化してしまわないためにも、先生、お願いできませんか!」

さらに続けて懇願する栄一。この言葉の本心は不詳だが、確かに劣化したなと思わざるを得なかったことはよくあった。若い人がそれに気が付かないほうが問題だが、少なくとも、栄一はそれを自覚してくれているようだし、そうならないように努力しようとしているようである。そのための道具として、お願いしているのであれば、望みをかなえてやるべきだろうな、と懍はそう思った。

「わかりました。考えておきます。」

静かにそういうと、栄一は、これ以上ないという喜びの顔になった。それをみて、懍もちょっと安心した。こういう顔であれば、日本社会の劣化も、自身が心配しているほど、進まないかなと思った。

「じゃあ、お願いできますか!」

「はい。出生届の提出期限はいつでしょうか?」

「あと三日以内に提出するのですが。」

そうなるとまた、だらしないなと思ったが、それを口にするのはやめにした。

「決まったら連絡します。」

「ありがとうございます、先生!この御恩は絶対に忘れませんから!本当に、何から何までお世話になりました!」

改めて最敬礼する若いお父さんを見て、懍は、若い人がもう少し事物を真剣に考えることを学んでほしいなと思った。

「すみません、今日はこれから、妻のところへ様子を見に行く予定がありますので、もう帰ってもよろしいでしょうか。そのあと、粉ミルクも買っていかないといけませんので。」

ああそうか、お母さんは飲ませる乳が不足していると聞いた。自分の時は、お母さんの乳が当たり前で、それが無理ならめのとをつけるとかして対処していたが、今は粉ミルクという道具はあるが、めのとという便利なシステムはない。そうなれば、お父さんが粉ミルクを買ってくるというのは当たり前のことである。

「いいですよ。早くいかないと、粉ミルクを売っているドラッグストアも閉まってしまいますよ。」

「は、はい!すみません!長居をしてはいられないですね!」

急いで椅子から立ち上がって、玄関に突進していくお父さんを、懍は、やれやれというか、ほほえましい気持ちで見送った。そして、車の音が遠くなると、机の引き出しを開けて、分厚い漢和辞典を引っ張り出し、初めての大役に取り掛かる。

翌日、しのぶは無事に退院した。ただ、生まれた赤ちゃんが遠方の小児病院に収容されてしまい、しのぶ自身も安静にしなければならない期間が長かったから、退院するまで赤ちゃんには会いに行けなかった。車で迎えにきた栄一は、先にお礼を言ってから会いに行こうと言った。すぐに会いたい気持ちを抑えて、とりあえず、杉三の家に行く。

玄関の前に立って、呼び鈴を押すと、はあいと言って、美千恵が若夫婦を出迎えた。ドアを開けると、カレーのにおいが充満していた。杉三がお祝いのつもりでカレーを作ったので、食べて行ってと言われて、二人は食堂に通された。

食堂には、蘭と晴、そして沼袋さんと水穂も来ている。本当は懍も一緒に来るはずであったが、急遽学会に出席する日が前倒しになったため来られなかったと水穂に言われた。とりあえず、テーブルに座ると、その目の前にカレーがどんと置かれる。蘭がささやかな出産祝いですがと言って、小さなゆりかごを栄一に手渡し、杉三からしのぶに、大急ぎで作ったという、一つ身の男児用長着を渡された。そして元通りの体格に戻ったしのぶが、美千恵と晴という偉大なる先輩たちと出産の思い出話を語ったりしていると、

「あ、そうだ、これ、教授がお渡ししてくれって言っていました。たぶん、出生届の提出期限には間に合うと思うと言っていましたが。」

水穂が、急に風呂敷包みを開けて、細長い桐製の箱を一つ、栄一に手渡した。

「何だい、これは。」

杉三が、代わりに質問すると、

「あければわかるとのことです。」

栄一は、迷いもなく開けてしまった。中に入っているのは、一本の掛け軸である。急いで紐をほどき、広げてみると、見事な行書体で、漢字が三文字書いてある。

「なるほど。先生らしい名前の付け方ね。」

晴が、思わず笑いだしてしまう。

「本当に個性的な名前ですね。」

ため息をつく沼袋さん。

「感動を忘れるなという意味で、こういう漢字を使うんですかね。やっぱり、学識がないと、こういう字は出てこないですね。」

「水穂さん、これ、なんて読むんだ。」

水穂の発言に、文字を読めない杉三が、すかさず言った。

「つかだれつ、だよ。」

蘭が言った通り、掛け軸には「塚田烈」の三文字。

「なるほどね!確かに、一度聴いたらなかなか忘れられない名前なんじゃないのか。じゃあ、名前に負けないくらい、強くて強烈な男にしてね。」

「はい、わかりました。頼りない親ですけど、頑張って一人前にします。」

「それじゃだめだい。父ちゃんは、石塔みたいにでーんと立っていて、いざという時ごちんと一発お見舞いするくらいの度胸がないと。」

「杉ちゃん、お父さんがないのに、そんなこと言うなよ。」

蘭はあきれてしまったが、

「わかりました!そうなれるようにしますよ!」

と、でかい声で栄一は言った。

「じゃなくて、ならなきゃだめだ。」

「はい!誓います!」

全員大爆笑だ。またカレーを食べながら出産の話を再開した。晴から、もし何か悩むことがあったら、お寺でやっている観音講に参加したりして、ヒントをもらってね、と聞かされる。お寺の近隣にある空き店舗で、檀家さんの一人が茶店をオープンするそうだ。ここで、講座も行われるし、庵主様や檀家さんの有力な人が、相談に乗ってくれるような場所になると言っていた。

「さて、そろそろ行きますか。あんまり長居をしてはいられませんから。」

カレーを食べ終わると、栄一が言った。

「おう、それがいい。早く烈君に会いに行きな。」

杉三がそういうと、ほかの人たちもそうだねと言った。

「何かあったら、また製鉄所にも来てくださいね。」

「はい、わかりました。本当にありがとうございます。」

しのぶも改めて、一礼する。

「じゃあ、これで、失礼しますので。」

祝い品をもって、栄一が椅子から立ち上がった。

「またね!ばいばーい!」

「はい、また会いましょう。」

若夫婦は最敬礼し、振り向きもせずに家を出て、車に乗り込んでいった。祝いの品も例の掛け軸もしっかり持って、忘れて行ったものはなかった。

「あんたがどうやって、日本に帰る気になったかは知らないけど。」

不意に、晴が蘭に言った。

「いい友達という者はもったわね。」
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