とある二日目

文字数 2,657文字


「うぅ……ぐすっ……」

「なの……」


「どうしたんだ……? 二人とも」

 真琴が晩御飯を作るためにリビングに入ると、そこにはテレビを見ながらポロポロと泣いているココとサンドラの姿があった。

「この映画が泣けるんですよ……」

「ふーん――って、これホームアローンだろ? 泣くような映画だったっけ?」

 感動の涙を流すココとサンドラが見ていたテレビには、かなりの有名作品であるホームアローンが映っていた。
 二人に影響されて真琴も見てみるが、そのシーンは丁度ハリーとマーヴがペンキ缶攻撃をされている最中だ。
 普段からあまり映画を見ることがない真琴は、イマイチ泣き所が分からない状況である。

「やっぱ二人の感性が分からないや」

「お姉ちゃん、このトラップ面白そうなの」

「おぉ、リエルにでも仕掛けてあげましょうか」

 それからは、二人の感性によるところの感動シーンが終わったらしく、涙もスッと消えて明るい顔になった。
 新しいオモチャを買ってもらった子供のような瞳であり、純粋な感情が読み取れる。

「いや、現実でやったら大怪我だと思うぞ……」

「リエルなら大丈夫じゃないですか?」

「なんだその信頼感は……」

 真琴は、テレビに映っていたシーンがとても危険なシーンであることを確認すると、諭すようにココを止めた。
 ココやサンドラは本当にやってしまう凄みがあるため、こうして止めておかないと、どんな事になるか分からない。

 リエルに対しての謎の信頼感で解決出来るような、コメディーチックな展開にはならないだろう。

「まことも面白いリアクションをしてくれそうなの」

「おい、怖いこと言うな。良い子も悪い子も真似しちゃ駄目だぞ」

「そうですよ、サンドラ。真琴さんは攻めるのがお好きな方ですから」

「ちょっと何言ってるか分からないし、ココに言われたくない」

 サンドラの気まぐれで矛先が真琴に向くかと思われたが、そこはココのフォローによって事なきを得る。

 フォローの仕方があまり適していないココであったが、ペンキ缶攻撃をされるよりかはマシだ。

 これからは、真琴が自分自身をフォローしなくてはならない。
 根も葉もない噂で勘違いされてしまう事だけは避けたかった。

「お姉ちゃん、攻めってどういう意味なの?」

「あぁ、それは――」

「ストップストップ! ドラちゃん、そろそろ晩御飯の準備をしないか!? 今日は好きな物を食べていいよ!」

「おぉ! なの!」

 真琴は、首を傾げるサンドラに知識を与えようとするココを止め、サンドラの興味の対象を晩御飯に移らせる。

 サンドラは、真琴の予想通りに冷蔵庫へと向かった。
 ぴょんぴょんとジャンプをしながら冷蔵庫の中身を確認して、晩御飯のメニューを吟味しているらしい。
 ひとまずはこれで時間を稼ぐ事ができる。

「ココ、あまりドラちゃんに変なこと教えるなよ。あと僕はそんな趣味は持っていない」

「ありゃ、受けの方がお好きでしたか? それなら私と同じですね!」

「そうじゃないし、お前のカミングアウトなんて聞きたくなかったよ!」

 サンドラが離れたのを確認すると、真琴はしっかりとココに注意しておいた。
 しかし、そんな真琴の健闘虚しく、ココには伝わらなかったようだ。
 何故かココの趣味まで暴露される。

「でも確かにサンドラには早いかもしれませんね」

「ココも手本として頑張らないと、唯川にドラちゃんを取られちまうぞ」

「なるほど……情操教育は唯川さんに任せて、私はサバイバル教育というのでどうでしょう」

「お前はドラちゃんを何だと思ってるんだ……」

 かなり不安の残るカリキュラムだったが、文武両道ということで真琴は納得しておいた。
 やはり信頼できるのは唯川だけだ。

「まことー! 牛さんのお肉があるなの!」

「じゃあ作り始めますので、真琴さんはゆっくりしててくださいね!」

「あぁ、ありがとう……」

 サンドラは、ココが奮発して買っていた牛肉を発見したらしく、両手で高く天に掲げている。
 ココはやれやれといった感じで立ち上がり、その牛肉を調理するために台所へと向かった。

「ほら、サンドラは真琴さんの所で遊んでてくださいねー」

 ココが台所に着いて真っ先にした事は、サンドラを台所から移動させる事だ。
 脇に手を入れ、すくい上げるようにしてから真琴の元へ連れていく。
 これならわざわざ縄で縛らなくても大丈夫である。

「まことー、遊んでなのー」

「分かったから服を噛まないで」

 サンドラは着地すると、アメリカンフットボールのようなタックルで真琴に突進した。
 やられすぎて痛みには慣れてしまったタックルだが、毎回サンドラは頭からではなく顔から突っ込んでくるため、それだけが逆に心配だ。

 そこそこの勢いの突進のため、ノーダメージというわけではなさそうだが、サンドラも楽しそうなので心配無用ということだろう。

「唯川のモノマネをしてほしいなの」

『真琴くん駄目だよー。ゲームばっかりしてると、目が悪くなっちゃうからー』


「……次はリエルのモノマネなの」

『少年、シーフードカレーのシーフーってどういう意味なのですか?』


「七十点なの」

「おう……難しいな」

 サンドラからの無茶ぶりに、全身全霊で応える真琴だった。
 褒められたクオリティではないが、やり切った事だけは確かだ。


「まことー、お馬さんごっこしたいなの」

「お馬さんごっこ? ドラちゃんが僕の上に乗るのか?」

「違うなの。真琴を調教してマイルチャンピオンシップを目指すなの」

「まさかの競馬!? しかもドラちゃんが騎手じゃないのかよ!」

 サンドラが次に提案したのは、かなり地味なごっこ遊びである。
 しかも、調教師視点からという、かなりマニアックなゲーム内容だ。
 調教師免許と騎手免許を同時に取得する事が出来ないという、調騎分離の制度まで忠実に再現されていた。

「マイルチャンピオンシップが嫌ならチャンピオンズリーグでもいいなの」

「いきなり競技を変えるな。サッカーでもドラちゃんは監督をやるんだろ?」

「ホペイロをやりたいなの」

「さっきから役職の癖が強すぎる!」


 ココの料理が出来るまでの十分間、延々とサンドラのマニアックな遊びに付き合わされた真琴だった。



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