第116話 3ヶ月と22日目 9月16日(水)

文字数 1,766文字

 冒頭で告白しておくと、今日も銀座には行けなかった。
 実は銀座に出向く前にせめて鞄の中だけでも整理しておこうと手を突っんだ瞬間、電気・ガス代の払込票が出て来たのだ。
 無論未納である。
 しかもコロナ禍での支払期限を延長して貰っている分なので、これは支払わない訳にはいかない。
 重ねて告白するが、貧乏な私は電気ガス代を引き落としにはしていない。
 何故なら前述のように期限延長のお願いなど、コンビニでの払込み票での支払にしておくと自分が貧乏なことを訴え易いからである。
 銀座に行く為の取材費を一万円だけ別にしておいたのだが、電気・ガス代の9000円を支払うと1000円しか残らない。
 やはり私は抜けている。
 いつもの月より何故か一万だけ多く残っていたので、それを銀座の取材資金に残しておいたのだが、電気・ガス代が未納なのである。
 余計に金が浮く筈だ。
 仕方ないので電気・ガス代を支払った。
 言わずもがなそれでは銀座には行けない。
 しかしそれとは別に銀座に行った時の記念に、と、銀座のチャンスセンターでスクラッチくじを買おうと思い、2000円だけ別に残しておいたのである。
 そこで買う場所を銀座から新宿に変更してスクラッチくじを買って、その後西早稲田に行けば銀座に行く程の予算も必要ない。
 何故なら西早稲田には銀座のように高級レストランもないだろうからだ。
 また何故今日西早稲田なのかと言うと、一方のラブコメ小説のモデルにしたお嬢様の卒業した名門女子大がそこにあるからだ。
 彼女は幼稚園から大学院までその名門女子校に通っていたみたいで、今後の展開に役立つかと思い新宿からそう遠くない西早稲田へと取材先を変更したのだ。
 しかし行った価値は充分にあった。
 正門を外から観ただけなのだが、赤と黒を基調にした重厚且つ美しい、それはそれは素晴らしいものであった。
 私はその生まれて始めて眼にする正門を観ながら考えた。
 一体このような名門校の出身者が何故就職なんかしたのだろう、と。
 しかもモデルにしたそのお嬢は真面目で、他の娘よりも一生懸命に働くし、凄い美人だしスタイルも抜群。
 その上性格も良いし引く手あまただろうに。
 と、そこ迄考えた末に、モデルにしたもう一人の清楚系ではない派手系のお嬢が言っていた言葉を思い出した。
「結婚するか就職するかどっちかにしなさいってママに言われたの。親の薦める相手がどうしても気に入らなくて、就職先は何処でも良かったの」
 二人共に美人だが性格は真逆。
 しかし多かれ少なかれ、彼女達の置かれた状況は同じような気がした。
 要するに吊り合う相手で、自分の愛せる相手がいないのである。
 また知り合う機会も少ない。
 私は職場でのお嬢様と年下の後輩との恋愛をラブコメにしたのだか、現実はそんなに簡単に相手は見付からない。
 お嬢様の人生も幸せなようで辛いこともあるものだ、と、感慨深い一日であった。
 そうするとやはり今日の競馬やパチンコでの無事は、そのお嬢出身の名門女子校に感謝と言うことになる。
 しかし明日こそ銀座に行くことで競馬やパチンコでの無事は確実、と、言いたいところだ。
 が、しかし、明後日以降になると思う。
 何故なら新宿で買ったスクラッチくじで1600円当たったのだが、予算の一万円は当たらなかったからだ。
 明日もう一度スクラッチくじを買って、当たったら銀座に急行する。
 しかし依存症治療の為スクラッチくじは、当日に削らないことにしている。
 たから明後日以後になることは確実なのだ。
 嗚呼、スクラッチくじなんかに頼らず銀座に行ける身分になりたいものだ。
 よし、こうしよう。
 もし宝くじに当たったらいっそのこと銀座に住もう。
 そうしたら銀座に行く必要などない。
 何しろ銀座にずっと居るんだから。
 今思ったのだが銀座に行くことを考えるより、私の場合頭が大丈夫か病院に行くことを考えた方が良いような気がする。
 とは言え明日は銀座に住むなどと阿保なことは考えず、スクラッチくじを買ったら小説を書いて部屋の掃除をしよう。
 そんな風に私は明日まともなことを考えて、まともな生活を送るのだ。
 何故なら病院へは行きたくないからである。



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