1回50円:狸とほっこり1500字
文字数 1,511文字
僕はたぬきです。
妖怪のたぬきです。
でも赤いきつねも好きです。
特に緑ではありません。
そんなことを思いながら、今日も僕は辻に立っていた。
修行の成果がどうも芳しくないのだ。
化け狸の兄さんたちはドロンと唱えると、その時眺めていた人そっくりに化けることができる。そっくりに化けてお金をちょろまかしたり、騙して悪いことをしたり、そんな暮らしをしている。
けれども僕はドロンと唱えても、睨んだ相手だけではなくて、相手の周り一体も含めて化けてしまうのだ。
どういうことかというと、つまり、よし、今あの女の人を見てドロンと言ってみるぞ!
『ドロン』
……ほら、なにかおかしいでしょう?
膝から下はアスファルトの色になっているし、首から上がちぎれている。ちょっと下にずれている。兄さんたちは対象の人間の超ど真ん中をちゃんと見ていないからだという。
僕は多分今、あの女の人の真ん中より少し下を見てしまったんだ。でも僕にはどこが真ん中かよくわからない。兄さんたちはどうしてわかるんだろう?
でもまあ練習あるのみっていわれたから、そんなこんなで今日も辻に立っていた。
僕があんまり毎日立っているものだから、そのうち人間の友達ができた。虎徹 ちゃんという男の子で、だいたい白いシャツに青いズボンを履いている。ちょうど仲良くなったので、虎徹ちゃんで練習をさせてもらっていた。
けれどもやっぱり、どちらかの方向にずれてしまうのだ。
こまったな。
けれども虎徹っちゃんは面白いことを考えたという。
どういうことだと思って連れられて行くと、ある一件の家にたどり着いた。そこはなんだか乱痴気騒ぎで誰もからもが浮かれている。お酒を召されている様子。
「虎徹ちゃん、ここはどんなところなの」
「宴会中さ。俺たちはちんどんやだ。芸を見せてみるがいい」
「芸?」
「いいから、とにかく化けて化けて」
『ドロン』
あわてて化けるとなんだかいつもより変な姿になった。目の前のお兄さんとお姉さんが半分こずつ。
「さぁてこちらの芸、あなたのお顔をお借りして、色々混ぜてしんぜます。お気に召されましたら一回五十円」
「おお? なんだか面白えな。こっちもやれ!」
遠くの男がそう言って、五十円を投げてくる。僕はその男の人を見て『ドロン』と唱える瞬間、虎徹ちゃんに肘打ちされたからさらに視点が隣に寄った。
「ぎゃはははなんだそれ。俺の顔がてめぇの右肩にくっついてるよ」
「あわわ、ごめんなさい」
そうすると頭がこづかれてあやまんなくていいんだよ、と虎徹ちゃんの声がする。
「お客さん、もう1回やり直してみるかい? 2回目だから30円でいい」
「おお、やってみようとも」
30円が投げられた。
「ほら、もう1回やってみな」
『ドロン』
今度は肘鉄はなかったけど、ほんの少しだけブレている。
「むむ、今度はなかなかいいじゃねえか、ふむふむ?」
「おおい、次はこっちでやってくれよ!」
「ありがとうござい!」
僕は虎徹ちゃんにつれられて他の人の前で同じ用に『ドロン』と唱えた。
術は全然うまくいっていないのに、やいのやいのと喜ばれた。
「結構儲かったじゃん。手間賃で半分よこせよ」
「え、僕このお金もらっていいの?」
「お前が稼いだんだろ? いいに決まってる」
虎徹ちゃんはにこっと笑ってだいたい半分を持って家に帰った。
僕も家に帰って数えてみたら、なんと830円もあった。兄さんたちに褒められた。
「お前もとうとう術が使えるようになったのか」
「えっとまだうまくできないけど」
「うむうむ、精進すればもっとうまくなる」
それから僕が虎徹ちゃんをマネージャーにして芸人として有名になるにはもう少し時間がかかったのである。
了
妖怪のたぬきです。
でも赤いきつねも好きです。
特に緑ではありません。
そんなことを思いながら、今日も僕は辻に立っていた。
修行の成果がどうも芳しくないのだ。
化け狸の兄さんたちはドロンと唱えると、その時眺めていた人そっくりに化けることができる。そっくりに化けてお金をちょろまかしたり、騙して悪いことをしたり、そんな暮らしをしている。
けれども僕はドロンと唱えても、睨んだ相手だけではなくて、相手の周り一体も含めて化けてしまうのだ。
どういうことかというと、つまり、よし、今あの女の人を見てドロンと言ってみるぞ!
『ドロン』
……ほら、なにかおかしいでしょう?
膝から下はアスファルトの色になっているし、首から上がちぎれている。ちょっと下にずれている。兄さんたちは対象の人間の超ど真ん中をちゃんと見ていないからだという。
僕は多分今、あの女の人の真ん中より少し下を見てしまったんだ。でも僕にはどこが真ん中かよくわからない。兄さんたちはどうしてわかるんだろう?
でもまあ練習あるのみっていわれたから、そんなこんなで今日も辻に立っていた。
僕があんまり毎日立っているものだから、そのうち人間の友達ができた。
けれどもやっぱり、どちらかの方向にずれてしまうのだ。
こまったな。
けれども虎徹っちゃんは面白いことを考えたという。
どういうことだと思って連れられて行くと、ある一件の家にたどり着いた。そこはなんだか乱痴気騒ぎで誰もからもが浮かれている。お酒を召されている様子。
「虎徹ちゃん、ここはどんなところなの」
「宴会中さ。俺たちはちんどんやだ。芸を見せてみるがいい」
「芸?」
「いいから、とにかく化けて化けて」
『ドロン』
あわてて化けるとなんだかいつもより変な姿になった。目の前のお兄さんとお姉さんが半分こずつ。
「さぁてこちらの芸、あなたのお顔をお借りして、色々混ぜてしんぜます。お気に召されましたら一回五十円」
「おお? なんだか面白えな。こっちもやれ!」
遠くの男がそう言って、五十円を投げてくる。僕はその男の人を見て『ドロン』と唱える瞬間、虎徹ちゃんに肘打ちされたからさらに視点が隣に寄った。
「ぎゃはははなんだそれ。俺の顔がてめぇの右肩にくっついてるよ」
「あわわ、ごめんなさい」
そうすると頭がこづかれてあやまんなくていいんだよ、と虎徹ちゃんの声がする。
「お客さん、もう1回やり直してみるかい? 2回目だから30円でいい」
「おお、やってみようとも」
30円が投げられた。
「ほら、もう1回やってみな」
『ドロン』
今度は肘鉄はなかったけど、ほんの少しだけブレている。
「むむ、今度はなかなかいいじゃねえか、ふむふむ?」
「おおい、次はこっちでやってくれよ!」
「ありがとうござい!」
僕は虎徹ちゃんにつれられて他の人の前で同じ用に『ドロン』と唱えた。
術は全然うまくいっていないのに、やいのやいのと喜ばれた。
「結構儲かったじゃん。手間賃で半分よこせよ」
「え、僕このお金もらっていいの?」
「お前が稼いだんだろ? いいに決まってる」
虎徹ちゃんはにこっと笑ってだいたい半分を持って家に帰った。
僕も家に帰って数えてみたら、なんと830円もあった。兄さんたちに褒められた。
「お前もとうとう術が使えるようになったのか」
「えっとまだうまくできないけど」
「うむうむ、精進すればもっとうまくなる」
それから僕が虎徹ちゃんをマネージャーにして芸人として有名になるにはもう少し時間がかかったのである。
了