誰がため

文字数 624文字

 見知らぬ大陸の地というのに、芸人達は地元の子供達とよく遊ぶ。客商売だからご機嫌取りもあるだろうが、興行の無い村にいっても変わらない。
「八、子供が好きなのか?」
 十一は単刀直入に尋ねた。
「別にそういうわけじゃない。でも、彼らは自分の感情を素直に顔に出してくる。だから、子供達が楽しんでるってことは自分のやってることもまんざらじゃないって思えるんだ。」
 武勲を挙げれば大人たちは喜んでくれた。でも十一の銃で子供達は喜ぶだろうか?自分は誰のためにその知識を、その技を使っているのだろう。主君に仕えているなら、主君のためでもいいだろう。しかし、傭兵の自分に決まった主君はいない。
「戦になれば敵になるかもしれない連中だぞ。」
「今は、敵じゃない。国の中だって敵も見方も入り乱れている。信じるものが違っても、今は仲良く暮らせている。それでいいんじゃないかい。」
 八は大人だ。どれほどの苦労をしてきたら、そのような境地になれるというのか。

「芸人なんて、そこらの雑草と同じだ。大半は見向きもされない。でも、美しい花をつける時期だけは誰もが心寄せる。その一時の輝きが欲しくて生きているようなもんさ。」
 十一にとって輝けるのは、やはり戦場しかない。そこでは並み居る武将達と肩を並べることができた。誰もが自分の指示を待っていた。
 彼の大輪の花は。戦いの中で開いた。確かに幾多もの人を苦しみから救ってきた。しかし、その花は人を笑顔にしていただろうか?
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登場人物紹介

猪熊 四五六(しごろく)

組討の使い手

十一の父

二三(ふみ)

剣術の使い手

十一の母

長い細身の背負い刀、長柄草刈刃を使う

十一(じゅういち)

鉄砲使い

オリジナル改造の種子島を二丁持つ

八(やつ)

見世物小屋の芸人

吹き矢芸

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