第61話  強烈な違和感

エピソード文字数 3,789文字


 ※


 その日の夕方。午後六時前。


 俺はアルバイトに向かうべく、楓蓮になり準備をしていると、華凛がまとわり付いて離れない。


絶対だからね。ペット欲しいよっ
分かってるって。ちゃんとその子に聞いてみるから

 今朝の話を華凛にしてからずっとこの調子だ。


 俺だってわんちゃんは欲しい。


 タダというのなら、後はペットを飼う為に色々準備するだけで、我が家にも新しい家族が……

早くしてって言ってよね! わんちゃん欲しいよぉ
わかったから離してくれ。こらっ。胸を触んな

 ご機嫌マックスな華凛に見送られ、玄関のドアを開けると溜息が漏れる。その後に「よし」と気合いを入れて階段を下っていくのだった。



 一応この話は親父にも伝えてある。


 俺の好きにしてもいいとは言われたが、間違っても正体のバレるようにはなるなと、口酸っぱく説教された。

 

 確かに。坂田さんや紫苑さんの家にお出迎えをするようになれば、それ相応のサイクルも作らねばならず、今の暮らしよりも計画的に入れ替わる必要があるからな。


 思わず諦めようとしたが、親父も「今の仕事が終われば面倒見てやる」と言ってくれた。


 そう聞いて、俺は飼ってみようと言う気になったのだ。



 さて、喫茶店が見えてくると、いつものようにキャラチェンジせねば。




 ※


 店内に入るといつものように笑顔で挨拶これ基本。


 白竹さんやママに挨拶すると、紫苑さんも手を上げてこちらに駆け寄ってくる。

ども~楓蓮さん。わんちゃんの件どやった?
うんうん。飼っても良いって言われたけども、先に色々と準備しないと
そっか。良かったぁ。これでウチのマジョリーナちゃんと親戚同士になれるやんか。さおりんにも言っておくわ

 喫茶店に来て早々この話になってしまう。まぁ今朝の話だからな。



 とはいえ、ここからは仕事である。

 メイド服に着替えてから、暇のある時にこの話をしようと思っていると、まさかの白竹さんもこの話に食いついた。

そなんですか? わんちゃんいいなぁ
そや! みゅうちゃんも飼ってみる? まだ買い手のつかへんわんちゃんがおるで。

 いつの間にか白竹さんを「みゅうちゃん」って言っててビックリした。


 白竹さんもこの話には興味津々であった。すぐに白竹ママも反応して、一度わんちゃんを見てみたいという流れになる。

良いわねっ! 私もペットは欲しいと思ってた所なのよっ

 本当かどうかは分からないが、白竹ママも目がキラキラしてやがる。


 いつもだけど。

ペット。なんていう素敵な響きなんでしょう。素敵すぎるわっ

とっても愛らしくて、愛くるしくて、素敵よっ!


私も従順なペットが欲しいわっ!

 いや、そこまで素敵な響きとは思えませんけど……


 

 その後は紫苑さんが坂田さんの話をしだすと、白竹さんもうんうんと頷き、ペットの話は順調に進んでいく。

あ、だからアルバイトを増やそうとしてるんですね?
そそ。もうね、ウチもマジョリーナちゃんにデレッデレでさ、何か玩具とか、ご飯を買いたい~思って
あぁ~~いいなぁ。そんな風に聞くと私も欲しくなっちゃう

 そっか。それで学校の時にバイトするって言ってましたもんね。理由はマジョリーナちゃんだったんですね。


 

 それにしても……今日の白竹さんはやたら機嫌が良いな。


 クールなのは間違い無いのだが、やたら笑顔を見せてくれる。これもわんちゃん効果なのか分からないが、いつものクールさが半減してやがる。

 ※


 今日の喫茶店はいつもより客が少なかった。

 平日というのもあるし、毎日毎日満員だったらそれでキツいものがある。



 だけど白竹ママもいるし、接客マスターな紫苑さんもいるので人数的には十分だ。


 と言う訳で八時を過ぎる頃には、楽勝なムードが漂ってくる。


へぇ~僕もわんちゃん欲しいなぁ。欲しいとは思ってたのですけど。

 ついに魔樹も厨房から出てくると、紫苑さんと仲良く喋っていた。

 こいつもわんちゃんには興味があるらしい。



 白竹さん達が紫苑さんと喋っている間は、俺が接客をしておこう。ついでに白竹ママも楽勝だと思ったのか、いつの間にか店内から消えてるし。


 などと俺なりに気を使っていると、紫苑さんが白竹さんに対しこんな質問をしていた。

なぁ。みゅうちゃん。ちょい気になるんやけどさ、学校の時とちょっと雰囲気ちゃうよな?


何か学校で喋った時は、くにゃくにゃってしてて女子力オーラ全開やけど、喫茶店やったら仕事が出来るみゅーちゃんになるし。

 彼女も学校での白竹さんを知ってる訳だし、やっぱ気になりますよね?


 白竹さんの変貌ぶり。

 それは喫茶店と学校の彼女を知ってる人間なら、絶対に疑問に思うだろう。

そうですか? 私はあんまり変わらないような気がしますけど

 ああ……急にクールになっちまった白竹さんだった。

 いや、そのクールさが学校には無いんですよ。

いや、なんていうかさ。学校の時はもっと……可愛い妹的ポジションな気がしたんやけど
 どんどん食い込んでいく紫苑さんを応援してしまうのは仕方がない。
まぁちょっと学校とは違うかもですね。ほら、どっちかというと喫茶店は身内ばっかりだし……多少違って見えるかも

そっか……それ普通は逆っぽくない?


ごめんごめん。変な事聞いて

 ああっ。そこで終わりですか紫苑さん。

 もっと突っ込んでもいいんですよ。というかむしろ俺が聞きたいくらいなんですけど。

ぼ、僕も。学校とは違うかも。で、でもぉ~その。ひ、人見知りだから

 一番分からないのは間違いなくこいつだ。

 

 人見知りって属性は一体どこから出てきたんだよ。


 二重人格だろお前は。

何か魔樹ちゃんはいつも可愛いよな。学校でもそんな感じなん?
いや。全然違いますから。と突っ込みたい!
学校ではクールなんですよっ。ふふっ

 魔樹よ。何でその顔でクール語ってんだよ。可愛すぎるだろ。

 なんだかコイツがクネクネしてると妙に笑えてくるし。どーでもよくなっちまうんだよな。


 

 まぁいいか。紫苑さんもここの喫茶店でバイトしてれば、二人の人格にもっと疑問を抱くはずだから、その内どうなっていくか楽しみな楓蓮なのであった。

そーいえば。今日は染谷くん来ないね

 さらっと話題を変えてこちらを向いた白竹さん。


 ううっ。その話はあまりして欲しくないです!

そうでし。いつも楓蓮さんのいる日に来るんだけど。今日は来ないですねぇ。

そうなん? 楓蓮さんのファンかいな。
そうかもしれないですね。ちなみに私のクラスのお友達でして。

 あまりその話は聞きたくない俺は店内をウロウロしていると、カランコロンというドアの音が鳴る。


 あまりにも良いタイミングなので、もしかして。そう思ったが……

あ、こんばんは~~白竹さん

 喫茶店に来店したのは……竜王さんであった。

 あ。ちなみに女の方だぞ。 



 ※

ども~竜王さん。いらっしゃいませ。ゆっくりしてくださいね
わっ。本当にメイドさんなんですね。しかも可愛い~

 竜王さんも白竹さんも笑顔でのご挨拶。そして紫苑さんも竜王さんを見た事があるらしく、レジ前で喋ってやがる。


 魔樹はクネクネしながら厨房に戻ると、白竹さんが早速竜王さんをテーブル席に案内していた。




え?

 俺も何気に挨拶しようと彼女達の傍に行くと、竜王さんは俺を見るなり、目開いていた。


 

 え? なに?

 

 その様子を見て白竹さんが俺の自己紹介をしてくれる。

彼女もここで働いてもらってる楓蓮さんです
 そう言われてしまえば俺も名乗り出るしかないが、竜王さんは俺の姿を上から下まで覗き込むと、ようやく名乗り出た。
そ、そうなんですね。めちゃ綺麗な人でビックリしました
…………

 最近はやたら「綺麗」と言われて困惑する楓蓮であった。

 昔はそんな頻繁に言われた記憶は無いんだが……


 メイド服着てるから? そうかもしれん。

へぇ~~ここのアルバイトさん。みんな綺麗で……

 うっとり顔を見せる竜王さん。初めて見るその顔にも驚いたが……


 そういえば、一人で来たのだろうか?

 王二朗くんは不在っぽいな。


 まぁ、四六時中彼女を付け回してるとなれば、王二朗くんの方がヤバイ人間にも思えるしな。


 白竹さんがオーダーを通すと、暇な俺はレジ前で待機していた。



 暫くして白竹さんが横に付いてくる。

 そして俺の耳元でこんな事を言いやがった。

楓蓮さん。あの子なんですけど。噂によると少々危険な女の子らしいんです
 おっと。それは俺が言ったんですけどね。
そうなんですか? あまりそうは見えないですけど
 知らぬ存ぜぬ。初めて出会った感を貫いていると、白竹さんは少し低い声で俺に説明してくれる。

もしかして、楓蓮さんも狙われるかも。気をつけてくださいね。


何だか可愛い子を見ると、襲っちゃうらしいので

 やたらマジ顔で言ってくる白竹さんにこちらも頷いた。


 きっと白竹さんは俺にも危害が及ぶかもしれないと、心配してくれているのだろう。

 

 大丈夫ですよ。もし俺を狙おうとするのならば、返り討ちにしてあげますから。


 


あの子の接客は私がやります。


楓蓮さんは彼女の相手はしなくていいから。あまり近寄らないで

白竹さん……


 突如感じた強烈な違和感だった。



 白竹さん……あなたは本当にあの白竹さんなのか?


 あの同人絵師で、クネクネしてて、とんでもなく内気な彼女と同一人物とは……思えない。


危ないと疑われてる人間を楓蓮さんに近寄らせるわけには行かない。

喫茶店の女の子は、私が守らないと。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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