9. 癌(がん)について考える

文字数 1,321文字

(1.より要約文からの引用)
 そしてわき腹の痛みがますます強くなり恒常化した。味覚がますます変化し、口の中がなんだかいやなにおいを発しているような気がしはじめた。まわりの人間が自分をみる目が変わってきたことを自覚した。例えばカードゲーム中に「お疲れならばここで中止しよう」と誘われるようになった。また日中は我慢しているが、痛みの為に夜の大半を眠らずに過ごすような状態となった。

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 前回、少し先走ってしまいましたが、いよいよイリイチ氏、わき腹の痛みが恒常化してしまいました。そして気になる口の症状も悪化しています。味覚が変わり、嫌な臭いを発する。しばらく口の話から離れていたので、まずはこっちに触れておきましょう。でもやっぱり、口の痛みの有無は書かれておらず、できものがある訳でも無さそう。そうなると、口腔内の乾燥か、胃液の逆流か。これも書いてありません。尚、口渇がある四十五歳男性なら、糖尿病を合併していたと考えるのは現代では当然でしょう。舞台は十九世紀のロシアですが、イリイチ氏は法曹家ですし、ある程度裕福な生活をしていたでしょう。そうすると、元々糖尿病を患っていた説はアリでしょうね。

 そして常にわき腹が痛みます。これは今まで挙げた腹部の鑑別疾患では、進行していくとどれでもあり得ると思います。その中でもここで急浮上してくるのは、やはり(がん)です。医学っぽく言えば、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)。部位は、大腸でしょうか。現代の大腸癌検診、まずは血便をチェクしますが、何度も言うようにそれはイリイチ氏の訴えにはありません。でもこの苦しみ方はやはり癌を連想させやすい。
 夜も眠れないくらいの持続した痛み。この状態で仕事に行き、社交の場としてカードゲームに参加しているイリイチ氏は凄いです。でもまだ気力で痛みを抑えられている、という意味に捉えたいと思います。そうやって痛みと闘いながらも、周囲の人から見て明らかに変わってしまったイリイチ氏。

 さて、「(がん)」ですが、これは上皮(じょうひ)系の細胞が悪性化することを指しています。上皮細胞とは、体の表面を覆う細胞。実は消化管も体外と繋がっているので、その内側表面は上皮です。尚、骨や筋肉のような、上皮以外の細胞が悪性化したものは「肉腫(にくしゅ)」です。「悪性」というのは増殖が早く、もとの臓器(原発巣(げんぱつそう))以外に転移しうるものを指します。そうでないものは良性腫瘍(りょうせいしゅよう)でこれは「癌」ではありません。そして「腫瘍」ですが、ある臓器(と言っておきます)の細胞が過剰に増殖したものを指します。白血病などは、血液細胞(のうちの白血球のうちのいずれか)の腫瘍ですので、塊でなくとも腫瘍と表現します。ちなみに、脳にできるものは脳癌(×)でも脳肉腫(×)でもなく、「脳腫瘍」です。腫瘍は、「新生物」と表現されるときもあります。細胞が異常に増殖し、数が増えているので、細胞一つ一つが大きくなるものとは違います。尚、「がんもどき」に関しては、コメントできません。

 「癌」の基礎知識で字数が埋まってしまいました。ちょっとお腹いっぱいで、わき腹が痛くなってきましたか? では、今週はこのくらいにしておきましょう。次回はさらに、見かけの変化を切り口にしていこうと思います。
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