百戦練磨の男

文字数 1,440文字

その夜。すなわち、ファミレスを出てすぐに直行することになったのは、「リトル・ソルジャー」の飲み会だった。
「リトル・ソルジャー」とは、ウチの大学の非公認サークルで、男女の会員たちの自由かつ奔放な交際を目的とする。佳純がそう教えてくれた。
早い話がヤリサーだ。
そんなサークルがあるなんて全然知らなかった。
会長は俺たちの一コ上の赤坂ナントカとかゆー先輩。
それでは、紳士淑女の出会いを祝して、カンパーイ♪
↑この人だ。
家が金持ちらしく、豪華なマンションに一人住まい。そして、そこで定期的にムフフな会合を開いているのだそうだ。

赤坂城戸っていったらウチのガッコの二大ヤリチン君だからねえ……
というのはファミレスで語られた佳純情報。
(ふーん、知らなかった……)

(……っていうか、ファミレスみたいな公共の場でヤリチンとか口にするのってどーかと思う。俺だって、クリちゃん我慢してんのに)
(そもそも片方は俺の名前なんだぞ。気を遣えよ)
それはさておき、俺は一匹オオカミというか……
あ、これカッコイイな。
一匹狼の俺はあまりそういうヤリ的なサークルのことなど詳しくなかった。
俺が普段付き合ってきた女の子って、あんまりそういう子いないんだよね。赤坂先輩なんぞ、名前すら知らなかったし。
その赤坂先輩は、先ほどの挨拶のときにパッと見た感じ、そんなにオンナにモテそうとも思えなかった。フツーの大学生の兄ちゃんて感じで、とてもヤリサーを主催してるなんて雰囲気じゃない。
まあ、それは別にどうでもいいか。
俺の任務はこのサークルへの潜入捜査だった。
クリスちゃんの好きな人がね……リトル・ソルジャーに勧誘されちゃったみたいなんだって。
あ、好きな人いるんだ……。
はい。勇気がなくて告白はしていないのですけども。
それでね、その人がもし入会してたら、連れ戻して欲しいの、ミチルに。
……いいけど。いなかったら?
それならそれでそれはいい。
名前は?
名前は……
えと、何君だったけ?
佳純がクリちゃんに尋ねる。あ、これはファミレスでの会話ね。
あ……田所君です
何年?
あーっと……
何年なの?
再びクリちゃんに尋ねる佳純。
(なんだよ、全然リサーチしてないな)
同じ学年です。
そっか……知らない奴だな。
そーゆーわけで潜入捜査を頼む。
俺一人で?
私は行かない。だが、クリスちゃんをつける。
ええっ!? 大丈夫なの?
だからミチルをつけるんだよ!
???
最初はクリスちゃんが自分で行くって聞かなかったんだよね。
で、私は危ないからそんなのやめときなって意見なんだけど、どうしてもって……このままにしたら一人で行っちゃいそうで……
ありがとうね、カスミン。
そこでキミに白羽の矢が立ったというわけなのだよ、ミチル君!
(よーするに、田所君がいないかどうかクリちゃんが確認して、もし居たらサークルを抜けるよう説得する、その間、俺がついてボディーガードをしてろってことか……)
俺でいいのかなー。
なーに言ってんの、百戦錬磨でしょ?
ん? や、ま、まあ……
プレイボーイだしな。そう言われれば悪い気もしない。
百戦練磨のお話……伺ってます。
(百戦練磨のお話?)
……。
(……何を話した)
(クリちゃんに何を話した───────っ!!!!!)
俺と佳純の間で視線がスーパーボールのようにバウンドしたが、お互いその話題をこの場でこれ以上広げないほうがいいという判断に落ち着いた。
まっ! とにかくちゃんとエスコートするんだよ、ミチル! 奴らの会合は今夜これからだからね!
佳純はどーすんの?
私は帰って寝る。
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登場人物紹介

石神佳純(いしがみ・かすみ)
通称:ジュン

大学三年生。
彼氏ナシ。しかし……?

城戸充(きど・みちる)
通称:ミチル

佳純と同じゼミに在籍するイケメンプレイボーイ。
彼女ナシ。しかし……?

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