第26話 怪奇現象

文字数 752文字


「amazing!!」
 海渡は思わず立ちあがって叫んでいた。
 三塁側アルプススタンドがにわかに活気づく。
 桜台ベンチは優勝が決まったかのような大騒ぎだ。

「先制点は決まったな」
 記者席で梅宮がいった。
 緒方はその言葉に反応しない。
——あいつはまだ、本当の姿をみせてはいません。
 あのオンボロ旅館の宿舎で月岡が緒方にいったセリフが気になっている。
(本当の姿ってなんだ?)
 もしかしたら、絶体絶命のこの場面でみることができるかもしれない。

 左打席に立つ滝沢がバントの構えをみせている。
 頼我は投げた。
 ストレートが内角を襲う。ポップフライをあげさせ、まずはワンアウトをとる。
 しかし——
 滝沢はバットを引いた。
 はじめから狙っていたのだろう、ヒッティングに切り替え、ストレートを素直に
センター方向にはじき返す。
 頼我の体の左側をライナー性の打球が抜けてゆく……かに思われたのだが——

 バシン!!

 なんと、投球終わりに後ろ手に振った頼我のグラブに打球が吸い込まれるかのよう
に納まった。
 飛び出しかけた三塁ランナーの神楽坂が頭から飛び込んでもどる。
「アウツ!」
 一塁塁審が打者アウトのコール。頼我は三塁送球をあきらめたのでこれでワンアウト
三塁だ。 
 三塁側からは激しい落胆の声。
 そして一塁側からは盛大な歓声があがる。

「かーっ、なんという幸運! いや、これは強運か?!」
 梅宮は驚いてみせると緒方の感想を求めた。
「…………」
 だが、緒方は梅宮を相手にせず、ぽかんと口を開け、スコアボードをみている。
「ん? どうした?」
 緒方が黙って指をさす。
 それはスコアボードではなく、その上部フラグポールに掲げられた旗であった。
 信じられぬことにはためいている。
 凪浜の校旗だけがぱたぱたと……。


       第27話につづく
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