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エピソード文字数 600文字

 帰蝶は一瞬目を見開いたが、すぐに優しい眼差しとなりあたしを見つめた。

(わらわは美濃国の出ですが、それが何か……?)

「於濃の方様は声だけではなく、幼少のご記憶を無くされたのではございませぬか?」

(幼少とな?病にて声は無くしましたが、わらわは斎藤道三の娘、帰蝶です)

 記憶は無くしていない?

「於濃の方様は右肩に……」

 帰蝶は不思議そうに首を傾げた。
 帰蝶が嘘を吐いているようには思えなかった。

 これ以上詳細を話すと、あたしが女であると白状しなけれぱならない。

 それだけではない。

 帰蝶の黒子は信長しか知り得ない秘密。
 それを口にすることは、信長とあたしが通じていることを意味する。

(紅?どうかしましたか?)

「何でもござりませぬ。右肩に糸屑が……」

 あたしは右肩に手をやり、さも糸屑があったかのように取り去る。

(ありがとう)

「美濃国はとてもよいところだと聞きました」

(はい。美しい国でございます)

 庭を見つめ、優しく微笑む帰蝶が……
 姉の面影と重なったが、それ以上問いただすことは出来なかった。

 ――1568年(永禄11年)
 信長は天下統一に向け上洛し、木下藤吉郎秀吉(きのしたとうきちろうひでよし)丹波長秀(にわながひで)らとともに、ある人物に京都の政務を任せた。

 その人物とは……
 帰蝶と情を通じた明智光秀だった。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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