蝕まれたる月

文字数 726文字


 教えてくれ、誰か。
 何百回、何千回、何万回と繰り返した問い。
 俺は、勝ったのか。
 誰か教えてくれ、俺は負けたのだろうか。

 分からぬ。何故こんなことになってしまったのか。
 これが本当に、俺が望んだことだったのか。

 俺は、その真っ白な髑髏を胸に抱え込み、眼窩の縁へ指をすべらせる。
 全ての歯が欠けることなく揃っている。顎の付け根も擦り減ってはいない。ごくごく若い時に死んだ者の白骨。
 枕上の燈台に揺れる細い炎だけが、俺を照らしていた。
 もはや抗うこともなく、ただ俺の胸に抱かれたままの白い骨。
 そのなめらかな額に唇を押し当てる。

 どんなに悔いても、涙をこぼしても、もうお前は蘇りはしない。
 俺は――お前の死の上に、俺の治世を築かねばならぬ。
 
 お前を愛していたのか、憎んでいたのか、それすらももう俺には分からぬ。
 この世はもはや色を失い、ただ薄闇に煙るばかりだ。
 それでも俺は生き続けねばならぬ。

 お前は、今どこを駆けているのか。
 今もなお、明るく笑っているのだろうか。
 お前が夢見た、海の彼方の見知らぬ国へ、もう旅立ってしまったのか。
 魂さえ、俺の傍らにはとどまってはくれぬのか。

 教えてくれ、誰か。
 俺は、どうすればよかったのだ。
 どこからやり直せばよいのだ。
 誰か教えてくれ。償う術を。

 俺の涙が、白骨の額を濡らす。
 遠くお前の笑う声が聞こえる。

 俺は闇に沈みながら、お前の名を呼び続ける。
 笑っているか。今もお前は笑っているのか。
 あのよく通る声で、くったくもなく。

 教えてくれ、誰か。
 俺は、どうすればよかったのだ。
 誰か教えてくれ。あれの魂の行方を――――

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登場人物紹介

小鷹王子(おだかのみこ)

やまとの大王の末王子。17歳(数え年)。美貌で素直な性格で、誰からも愛されるが、政治には興味がなく、自分の気の向くままに暮らしている。

告茱姫(つぐみのひめ)

首都の南に小さな領地を持つ豪族の娘。17歳(数え年)。幼いころから巫女として育てられたので、世の中のことをなにもしらない。

雄隼王子(おばやのみこ)

大王の長子。小鷹とは同母兄弟。25歳(数え年)。誰からも尊重される立派な日継王子(皇太子)だったが、なぜか小鷹に異様な嫉妬心を燃やす。

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