まっしろな猫

エピソード文字数 593文字

 ぽかぽかと心地よい春のそよ風が頬をなでた。「今日もひとりぽっちか……」あおっぱなを垂らしたまんまのぼくは、ちいさなシャベルを持って、やわらかい花壇の土をほじくり返していた。すると、どこからか、「ミャー」と鳴き声がきこえた。しゃがんだ姿勢のまま、きょろきょろと辺りを見渡すと、うっそうと雑草が生い茂った電信柱の片隅に、ちんとすわったままのまっしろな猫を発見した。猫は不気味なほど微動だにせず、じっとぼくをみつめていた。「なんだ、にゃんこちゃんか……」思わずため息をもらしたぼくは、ふたたびシャベルで土をほじくり返しはじめた。するといつの間にか猫がやってきて、せっせっと前足で土を掘りはじめた。「おまえ、手伝ってくれてるのか?」ぼくは馬鹿みたいにぽかんと口をあけた。「かわいいやつだな」左手で猫の頭をなでようとしたら、猫はするりと身をかわし、ほじくり返した土の山のてっぺんに行儀よくすわりブリブリっと屁をたれ黄土色の糞をたれはじめた。「うわっ」ぼくは反射的に手をひっこめた。間一髪だった。あやうく右手は糞まみれになるところだった。「この野郎!」カッとなったぼくはシャベルをほうり投げ、拳をぎゅっと握りしめ猫の頭にいっぱつ拳骨を食らわせようとした、そのとき、ぽっと陽光にさらされた彼女は、極楽の境地で両眼をへの字に細め仏様のような顔になっていた。ぼくは拳骨をつくった愚かな自分自身を恥じた。
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