掘り続けたモグラ

文字数 652文字

 一匹のモグラが、今日も掘り続けている。両手を勢いよく動かしながら。
 岩や太い根にぶち当たれば、方向を変え、そして再びズンズン前に進んでいく。
――今日も調子がいい。
 モグラは満足げにほほ笑み、そして再び気を引き締めて掘り続ける。

 長い月日が経ち、体力が少しずつ衰えてきた。
――まだまだ元気だ。
 モグラは疲れた両手を少し休めてから、また掘り続ける。
 ある日、方向感覚が失われたことに、モグラは気づいた。
――上に向かっているのか、下に向かっているのか……。
 モグラは不安に襲われ、両手を休めた。
――掘り続けるしかない……掘り続けるのが仕事だ……生き甲斐だ……。
 そして、再び掘り始めた。

 どこに向かっているのか、もはやモグラには分からなくなっていた。
 それでも毎日掘り続けた。
 ある日、目の前が急に明るくなった。
――地上に出たのか……。
 モグラは新鮮な空気を吸おうと一歩踏み出した。
――あっ……。
 崖に開いた穴から身を乗り出したモグラは、そのまま宙に飛び出し落下した。
 崖下に転落していく間、モグラは力が抜け、リラックスしていた。
――なんて身軽なんだ……。
 モグラがそう思ってほほ笑んだ瞬間、強い衝撃が全身を襲い、モグラは気を失った。

 地面に叩きつけられたモグラを近くの木の上から見ていた鷹が、さっと舞い降り、鋭い爪でモグラをつかんで飛び立った。
 モグラは、夢を見ていた。
 見たことがない森の上空からの風景を。
――空って、こんなに気持ちいいのか……。
 モグラをしっかりとつかんだ鷹は、青空の中へ消えていった。
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