第71話  黒澤 凛  8

文字数 2,952文字

虎お兄ちゃん。起きて
うぅ……あっ。ここは……

 虎さんが目を開くと、僕を見るなり飛び起きた。

 僕は聖奈お姉ちゃんの作戦通り、すぐに虎さんに抱きついた。これは、虎さんが車の中で暴れないようにする為だ。

お前ら……くそっ!

 暴れる虎さんだったけど、僕が必死に「大丈夫」と声を掛ける。

 暫くして大人しくなってくれた。

大丈夫! 聖奈お姉ちゃんも、平八おじさんも絶対誰にも喋らないから!

信じて。あんたのことは絶対に口外しないと約束するわっ

まず、私達の話を聞いて

 聖奈お姉ちゃんが口を出すと物凄い形相になって、あまりにも凄い迫力に僕は怯んでしまい離れてしまった。

そんな事信じられるかっ! お前らは口封じの為にぶっ殺してやる! 

俺がやらなくても、俺達の兄貴が……お前らを絶対に許さねぇ。


山田組総動員でお前達を沈めてやる!

 すると聖奈お姉ちゃんは「しょうがないわね」と言ってから、喋り出した。
 それは……虎さんの兄弟の話だった。
華凛ちゃんから聞いたわ。あなた……龍一くんの弟さんだったのね?
華凛ちゃん? な、な、何でバラすんだよぉ!
大丈夫! 落ち着いてく、下さい! 僕達も喋るから!
虎さん。よく聞いて。僕のお兄ちゃん知ってるでしょ?

知ってるに決まってるだろ? お前のお兄ちゃんは……

黒澤兄貴……あっ……あぁっ!
 その時、虎ちゃんは急に見開くと、完全に固まってしまう。
 どうやらその答えが分かったみたいだった。
まさか! お前の兄貴が……
うん。楓蓮お姉ちゃん。だよ

 その一言で、虎兄ちゃんは暴れるのを止めると、ふらふらと後ろのソファーにもたれてしまった。

なんてこった! こんなことが……

 凄いショックを受けてるのが分かる。
 
 僕だって怖い。

 こんな簡単に、家族の秘密をバラすのはとても怖かった。

 言った後でも、唇が震えてて、とんでもない事をしたのが自分でも良く分かる。

洒落になんねぇ……龍兄ぃは……
そういう事よ。君のお兄さんは、楓蓮が好きなんでしょ?
なんでそこまで!

私は君のお兄さんに直接聞いたわよ。


それに龍一くんは、私の斜め前の席に座ってる友達なんだけど

 それは聞いてなかった。そんな近くの席だったの?
馬鹿な……ど、どうなってるんだ……

 頭を抱える虎さんは見ていられなかった。
 よほどショックなのか、自分で自分の頭を掻きむしり始めるんだ。


 僕はすぐに止めさそうと手を伸ばした。

虎さん。お願い……やめて!

 それでも止めない虎さんに身体を預けると、ようやく止まってくれた。


 虎さんは震えていた。とっても怯えているようにも見えたんだ。
 

とにかく。今日の話はここにいる五人だけの秘密よ。絶対に口外してはならない。

勿論家族にも言っちゃダメ! 私達だけの秘密にするのよっ!

 そのお話はさっき聖奈お姉ちゃんがしてくれたので、僕と坂田さんは納得してた。

華凛ちゃんも。お兄ちゃんには絶対に言わない事! いい?

綾ちゃん。あなたもよ。まだお姉ちゃんには言わないで。

うん! 絶対に喋らない。
わかりました……

虎ちゃん。だっけ? あなたもよ! 絶対にお兄ちゃんに喋らない事。わかった?

で。でも……そんな事しちまったら、龍兄ぃは! ずっと知らないまま……

 虎さんは納得できないみたいだったけど、聖奈お姉ちゃんは少し声を低くして続けた。

あんた。この件をお兄ちゃんに言えばどうなるのか分かってるの?
……え?

楓蓮の正体が分かったら、お兄ちゃんはどう出るのか。それを分かって言ってるの? 

今回華凛ちゃんが出た行動や、あんたが取った行動を考えても、穏便に事が進むと思ってるの?

入れ替わり体質の人間が、外部の人間に秘密を暴露するという事にどれだけ警戒してるのかは私も良く知ってるわ。

あんたはそれをお兄ちゃんに喋って……穏便に済ませられる自信はあるの? 


お兄ちゃん説得する事ができるの?

ここにいる人間関係を丸く納める自信はあるのかって聞いてんのよ!

 急に怒鳴った聖奈お姉ちゃんに、虎さんはもちろん、僕や坂田さんまでビビってしまう。
うっ、あっ……

出来ないのなら、絶対に喋ってはダメよ。

もし迂闊に喋ったりしたら、これからどうなるのかなんて、私にも予想できない。

 震える虎さんに、僕まで震えてしまう。
 
 僕だって、お兄ちゃんの友達が入れ替わり体質だって喋ったとしたら、そこからお兄ちゃんがどんな事をするかも分からない。


 だって……お兄ちゃんも……

 白竹さんのお姉ちゃん達にやった事を思い出すだけで震えてしまう。

 入れ替わり体質の人がどれだけ秘密を守ろうとしてるのか、僕だって十分分かってる。

最悪。染谷君と蓮が仲たがい起こす可能性もある。

そうなれば、あんたたちもこれ以上一緒にいられない可能性もある。

蓮の家族が引っ越すかもしれないし……


あんたの一言で、今の関係が一瞬で壊れるかもしれないのよっ!

あっうっ……そ、そんな……

今、私達のやるべきことは……

今日の出来事は、ここにいる人間達だけの秘密よ。


誰にも言わず一切を封印するの。分かった?

 虎さんは両手で頭を抱える。そして小さな声を出していた。 
絶対……言わないって約束してくれるのか

いい? 虎ちゃん。あなたはもう約束するしかない。選択肢はそれしか残っていないの。

あなただけじゃない。他のみんなだってそうよ。


現状を壊さないようにする為には、みんなに黙ってもらうしか無いのよ!

でも黙ったまんまで、これからどうするんだよ!

ずっと言わないままなんて、できっこねーだろ!

そんなの分かってるわよっ! 私だって楓蓮に内緒にしたままに出来るわけないでしょ!


みんなにベストな方法を考えたいのよ。

これにはみんなの家庭事情もあるだろうし、時間が欲しい。


私が必ず一番良い方法を見つけ出すから、任せなさい。


 この時ばかりは聖奈お姉ちゃんの迫力に僕まで怖くなってしまった。
だけどね……そのかわり……
 聖奈お姉ちゃんの口調が変わる。
 それはいつもの優しい声だった。

今日の出来事は秘密にする代わりに……あなた達3人は仲良く付き合いなさい。


 それを聞いた虎さんは急に顔を上げると、聖奈お姉ちゃんの顔に近づいて、小さな声で「いいの?」と言った。

当たり前じゃない。同じ境遇同士、きっと兄弟みたいになれるでしょ。


兄弟。だと? 華凛ちゃんと俺が?
そうよ。兄弟でもいいし姉妹でもいいし、どっちの呼び名でもいいでしょ。
それってつまり義兄弟?
そうとも言うわね。家族みたいな関係になれるでしょう

 虎さんは僕に向き直ると、口をポカーンと開けたまま、そのまま顔だけ近寄ってきた。

弟と……妹……

俺に弟と妹が……

 何か変な虎さんだった。
 嬉しいのか悲しいのか、全然わかんない顔になっちゃって、聖奈お姉ちゃんや平八おじさんも、変な目で見ちゃってる。

いくら仲良くしてもいいわよ。好きなだけ仲良くやればいいわ。

……わかった。なる! 

俺……華凛ちゃんや綾ちゃんの兄貴になってやる!

 すごい声だった。
 その後も「なる」ばっかり、叫んでて、ついに雄たけびを上げ出したのには、みんな驚いていた。

――――――――――


今日の出来事は、ここにいる人間だけの秘密。

そしてその秘密を守るには、ここにいる人間関係をも隠す必要もある。


この日、何も無かった。

外部にはそう思わせなければならない。


次回 黒澤 凛  9 終


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登場人物紹介


 ★登場人物でも若干のネタバレを含みます。第一部からお読みいただきますようよろしくです。

 ★逆に第二部の登場人物を先に読んでから、第一部をお読み頂きますと、別の意味で楽しめます。

 

 ★読者視点は神視点。登場人物の心の声も聞こえます。(フキダシの色がこの色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年

 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 自分自身の事よりも、仲間の為ならば凄まじく有能になる。

 ★ 白峰楓蓮 しらみね かれん


 蓮の女性の姿。類稀なる美少女だが本人にはあまり自覚がない。


 外部には黒澤家の親戚(蓮の姉)となっている。

 楓蓮では世間との関わりあいを最小限にしてきたが、徐々に一人の女性として目覚め始める。

 

 自分を理解してくれる人間が増えるたびに楓蓮は飛躍的に成長してゆく。  

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生

 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。

 

 二部中盤で凛オンリーの章があります

★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは黒澤家の秘密を知るものだけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。

★ 黒澤 玲斗 くろさわ れいと

★ 白峰 麗華 しらみね れいか


蓮や凛のお父さん。ただいま遠方で仕事中。

麻莉奈や平八。ティナとは大親友。


後半から再び登場します

★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。

 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。


 高校当初から蓮と関わりを持ち、お互いに影響されてゆく。無二の親友?

 記憶喪失だったが、徐々に昔の事を思い出してゆく。


 二人目の主人公。

★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲

 おっぱい職人。ツイッタのフォロワーは10万以上の有名人。

 作中でも最強だと言われるが……

★ 白竹 美優 しらたけ みゆう

 

 男女入れ替わり体質

 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。とても内気で、語尾が変になる。

 自分の家の喫茶店で働いている事になっているが、実は魔優と入れ替わっている

 歌が上手く、全国でも有名な絵師でもある。(エロ同人が本業)

 

 三人目の主人公。 

★白竹 美樹 しらたけ みき


 白竹美優の男性の姿。

 外部では白竹魔樹と名乗っているので、彼を知るのは家族と秘密を共有する人のみ。

 主に喫茶店で厨房担当したり、サイクルの都合上、学校でも魔樹として振舞う。

 男の子の身体で遊ぶのが大好き

★白竹 魔優 しらたけ まゆう


 男女入れ替わり体質。

 外部では白竹美優と名乗っているので、彼女を知るのは家族と秘密を共有する人のみ。

 主に喫茶店で接客担当。サイクルの都合上、学校でも美優として振舞う。

 心の中は女の子なので、こちらが真の姿となる。

 四人目の主人公

★白竹 魔樹 しらたけ まき


 魔優の男の姿。外部に知られているのは魔樹である。

 蓮の隣のクラスで、常にクール。成績も良く、空手や合気道を習得。

 学校内では魔樹王子と呼ばれるほどモテる。


 自分の家の喫茶店で働いている事になっているが、実は美優と入れ替わっている

 乙女ゲー大好きのツンデレ。

★白竹 麻莉奈 しらたけ まりな


美優。魔優の母。入れ替わり体質。


とてもピアノが上手く、蓮はプロの犯行だと断定。

双子の母だけあり、とても美人だが色々とヤバい人。

男の姿は、でかい上にマッチョらしい。


★ じいじ


 白竹家のおじいさん。喫茶店のオーナー。

 小太りでツルっぱげ。チョビ髭が可愛い。

 厨房担当で楽しい事があると、その場でクルクル回りだす。

★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 男女入れ替わり体質。

 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的で、クラスでも人気がある。

 楓蓮に一目惚れし、ずっと彼女を追い求める。

 オムライサーでありポニテマニア。

 

 五人目の主人公

★山田 龍子 やまだ りゅうこ


 龍一の女性の姿。

 楓蓮を追って同じ喫茶店で働く事になる。全国でも有名な山田組の人間。

 ケンカが強く、蓮も認めるほど。

 楓蓮に近づく男を排除しようとする俺っ子。

★山田 虎子 やまだ とらこ


男女入れ替わり体質。龍一の弟(妹)

全国統一を夢見る女の子。既にチームを結成しており、チームヴァルハラと名づける。

口調はキツいが、兄弟には頭が上がらない。

デコトラならぬデコチャリで街中を暴走する。

★染谷 翔一 そめや しょういち 


男女入れ替わり体質。龍一の兄(姉)

龍一が恐れる唯一の兄貴。百人でかかっても勝てないらしい。

ただいま、新婚生活真っ最中。

★染谷 桜 (そめや さくら)


 翔一の奥さん。普通の人間。

 とても清楚で大人しそうな美人だが染谷三兄弟は彼女に対し頭が上がらない。

 翔一を女らしくする為、日々調教中。

★百済 紫苑 くだら しおん


 高校二年。軽音部。実家はソッチ系統の百済組。

 楓蓮達と一緒に喫茶店でバイトを始める。関西弁ちっくな喋り方だが、とても優しく後輩想い。

 蓮の同じクラスである、米山まゆこと、坂田沙織は小学校からの付き合い。

 マイブームはマジョリーナちゃん(ミニチュアダックス)を可愛がる事。

★坂田 沙織  さかた さおり


 高校一年。蓮と同じクラス。

 いつもニコニコ。おっとりとした口調でマイペース。

 紫苑と同じ軽音部。ベース担当。

 親が犬のブリーダーで楓蓮に二匹のダックスを譲る。

★ 西部

 蓮と同じクラス。

 事あるごとに蓮に絡んでくるが、その目的は聖奈や美優と接点が持ちたいが為である。

 ツイッター名では「モントゴメリー」。おっぱい職人を神と崇める。

★真鍋

 蓮と同じクラス。西部の友達。

 頭は良く、テストでも上位だが、彼もおっぱい職人を神と崇める。

 ツイッター名は「穴バースト」

★米山 まゆこ (だんじりバージョン)


 蓮と同じクラス。坂田とは昔からの親友で、紫苑は先輩に当たる。

 魔樹王子にベタ惚れてしまい、蓮に紹介してもらえるよう頼んだ。

 バスケ部所属。一年なのに相当の実力を持っている。

★ 三輪 加奈子 みわ かなこ

 

 蓮と同じクラス。坂田沙織の友達で幼稚園からの付き合い。

 男の子同士がホニャララするのが好き。

★ 清原 愛美 きよはら まなみ


 魔樹と同じクラス。米山まゆこと中学時代からの付き合い。

 ちなみに魔樹王子と呼び出したのはこの子。

★ 梶谷


 蓮と同じクラス。西部の友達で小学生からの付き合い。

 バスケ部所属。一年でレギュラー筆頭。

★高坂


蓮と同じクラス。梶谷の友達。

ギャルゲーのアイドルプリンセスをこよなく愛する男の子。

★ 鼻


楓蓮が命名。

その昔、蓮にケンカ売ってきたり、美優をナンパしたり、ろくでなし男であったが楓蓮や龍子にボコられる。だが楓蓮に鼻を治してもらったと勘違いしている。

楓蓮に殴られてから、とんでもなく優秀な男へ変貌する(だがケンカは弱い)

★ヴァルハラメンバー 


 只今メンバーは八人。

 虎子率いるチームヴァルハラメンバー。俗に言う不良だが、楓蓮。龍子。虎子には従順。

 実は全員イケメンレベルだが、とにかく頭も弱く、ケンカも弱い。

 NO表示されており、変なヤツが混じってます。 

 竜王 冴子 りゅうおう さえこ


 高校一年。西部曰く、彼女と美神聖奈。白竹美優を三大美女認定している。

 いつも笑顔。とても愛想が良い彼女だが……

 王二朗曰く、超危険人物。鞄にスタンガンを隠し持ち、女の子を襲うらしい

★ 播磨 王二朗 (はりま おうじろう)


 高校一年。竜王冴子と共に登場。190センチの巨漢であり極道顔。

 とてもじゃないが高校生には見えない容姿に、シルエット姿となっている。

 警官とエンカウントすると、ほぼ職務質問されてしまう。

 ゴリラのモノマネが神がかっている。

★竜王 将哉 りゅうおう しょうや


 萌ゴリと共に現れた男性。とてもイケメンだが萌にナンパーマンであると暴露されてしまう。萌は恋人だと告げるが……楓蓮は最初から将哉を警戒する。 

★稲坂 萌 いなさか もえ


 楓蓮が早朝マラソンに出かけた際に知り合った女性。

 巨漢で筋肉質なので、楓蓮は男だと勘違いするほど。

 とても気さくでしゃべりやすい印象を受けた萌ゴリ。ちなみにラッキースケベ体質。

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