第45話 コテージにて③

文字数 987文字

 (俺だって、やればできるじゃないか)

 感慨に浸りながら、正語(しょうご)は天井を見上げた。

 正語がゲイだと知った後、正語の父親はこっそり家族会議を開いた。

 ——今後、正語くんをどう扱うか。

 余計なお世話だがその結果、長男の正聞(まさき)

に罹った弟を優しく気遣うようになり、次男の正見(まさみ)は正語に女をあてがおうとした。
 『おまえまだヤッたことないんだろ。いいから一回経験してみろ、そしたらもう女の穴のことしか考えられなくなるぞ』

 正語は家族から愛されている。
 それも、うっとうしいほどに。
 


 複雑な思いで天井を見ていたら、隣で横たわっていた真理子が顔を上げてきた。

「……あのぅ」

 正語は真理子に顔を向ける。

「……嘘、ついてしまって……ごめんなさい……」

 と、真理子はおずおずと小さく言った。

 今から懺悔が始まるのかと、正語は笑い出しそうになった。

 (面白いじゃないか!)

 この女は俺をハニートラップにでもかけたつもりかと、起き上がって真理子に覆いかぶさった。
 めいっぱい甘い声で、耳元に囁く。

「どんな嘘をついたの? 教えて」

 真理子は手を伸ばして、ベッドの下から何やら取り出した。

「……だますつもりはなかったんだけど……」と、それを正語に手渡す。

 それは紫がかったブルーの地に黒の刺繍がほどこされたブラジャーだった。

 正語は渡されたブラを仔細に点検した。

「……パット……厚いから……期待したよね……」

「パット?」

 確かにそのブラは、四枚切り食パン一枚分ぐらいの厚みがある。

「……胸、小さいの……ごめんね……」

「他は?」

「なに?」

「なんか、嘘ついてることないの?」

 真理子は眉を寄せて、考え始めた。

 ——まあいい。

「……シャワー、浴びよう」

 本家に行って、コータの部屋を見せてもらおう。
 持ち物を見て、どんな人物なのか片鱗だけでも掴みたい。

 正語は起き上がった。

「……あのぅ……」

 と、真理子がそっと正語の手に触れてきた。

 まだ何かあるのかと真理子を見下ろす。

「なに?」

 今度こそまともな事を言えよと、次の言葉を待った。

 真理子は顔を真っ赤にしたが、言われた通りに正語をまっすぐ見ている。

 そして、やっと聞き取れるようなか細い声を出した。
 もう一度して、と。

 正語は短いため息をついた。
 真理子の頬に手を添えた。

「もう目を閉じていていいよ」

 再び覆いかぶさると、閉じた左瞼の上にくちづけた。



 
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登場人物紹介

鷲宮秀一、主人公の高校生

九我正語(くがしょうご)、秀一の従兄弟、警察官

九我正思(くがしょうじ)正語の父親。人の恋愛感情を瞬時に見抜く特殊能力を持つ。

九我光子、正語の母親。秀一の伯母。

雅、介護士。雅は熟女スナックにいた時の源氏名。本名は不明

夏穂、秀一の幼馴染。秀一に片思い。

涼音(すずね)、秀一の幼馴染

武尊(たける)、秀一の幼馴染

賢人、秀一の甥っ子

真理子、みずほ中学の教師

コータ、真理子の弟、秀一の幼馴染

野々花、パンケーキ店の女主人

岩田、秀一のテニスの師匠

鷲宮一輝(故人)秀一の兄

鷲宮輝子(故人)秀一の母親。正語の母親、九我光子の妹

水谷凛、夏穂の従姉妹

鷲宮智和、秀一と一輝の父親

鷲宮高太郎、智和の兄

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