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エピソード文字数 749文字

 あたしはバイクを走らせ、信也のアパートに向かった。修理工場の前にバイクを停めると、社長があたしに駆け寄る。

「社長さん、信也戻ってますか?」

「お嬢さん、大変じゃ!信也が埠頭で倒れ、救急車で搬送されたそうじゃ」

「……信也が……倒れた?」

「陥没事故の復旧工事をしている作業員の目を盗み、穴に飛び込んだそうじゃ」

「……そんな」

「信也がそれほどまでに錯乱しておるとは……。そんなことをしても、戻ることも死ぬことも出来ぬのに……」

 戻ることも……?
 死ぬことも……?

 ――『ここはあの世とこの世を繋ぐ入口。この陥没した穴に飛び込めば、本能寺に戻れるやもしれぬな』

 別れ際に、信也が言った言葉を思い出す。

「社長さん、搬送されたのは、どこの病院ですか?」

「入院しとった病院じゃよ」

「あたし……今から病院に行きます」

「信也のこと、宜しく頼みます。小判(こばん)なら幾らでもある。十分休ませてやるがいい。信也はこの世とあの世に引っ張られておるのだろう。可哀相に……」
 
 ――小判……。
 この世とあの世に引っ張られている……。

 社長の言葉が、あたしをさらに混乱させた。

 ◇

 ―西都大学附属病院―

「すみません。救急車で搬送された織田信也さんは!?」

 受付の女性が、カルテを見ながら応えてくれた。

「織田信也さんのご家族の方ですか?面会はご家族しか出来ません」

「……私は、恋人です」

「織田信也さんはICU(集中治療室)ですよ」

 あたしは直ぐさまエレベーターに乗り込み、ICUに向かう。

 ――もしかしたら……
 信也は……。

 エレベーターが静かに上昇する。
 最悪の事態が脳裏を過ぎり、涙が溢れ体の震えが止まらなかった。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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