文字数 975文字

「今すぐ外せ」
「えぇ〜嫌よ。気に入ってるのだもの」
「阿呆な事を言うな。幸いまだ校舎に入る前だろう。今外すなら、その校則違反に目を瞑ってやると言っている」

そう言われて心の中で地団駄を踏む。

(違うの。私は貴方にそんな風に擁護して欲しい訳じゃないのに)

彼女の脳内にある順路から道がそれてしまい、このままだと目的に辿り着けそうに無い。何の為に校則違反を犯すリスクを背負ってまで貴方の隣に居るのよ、と顔を顰めた。

「だけどまだ私に似合ってるか分からないわぁ。これだと教室の子に聞くまで外せないわね」
「はいはい。似合ってる似合ってる」
「棒読みじゃないの」

今回もまた適当にあしらわれてしまった。思惑通りに行かなくて少し不満げな顔の彼女は、もうこれ以上は望めないと判断した。内心諦めてはいないがあくまで気にしていないような態度でそこまで言うなら分かったわよ、と耳の後ろに利き手を回して、もう片方の手でパールを持つ。

クルクル、とイヤリングのネジバネ部分を器用にノールックで回し、あっという間に両耳の校則違反を辞めた。


『・・・・・・んもぅ。堂上くんったら面白くないの』


彼女の聞こえるか聞こえないかくらいの声色。思わず聞き返しそうになるそれも生徒会長の注意を集める術なのか。堂上は全てを見据えた上でそんな佳人の思わせぶりな態度を無視し、再度耳元を見て溜息を付いた。


「おい、お前」

『何よ。今虫の居所が悪いの』

「耳にイヤリングの跡が残っているぞ。教師にどう説明する気だ?」

『堂上くんのせいだわ。早く私を褒めないから』

「ったく。どれ程僕に手間を掛けさせる気なんだ」


堂上はそう言って二枚の絆創膏を取り出し、彼女に手渡した。こんなので私の機嫌が取れるとお思いになって?内心そう思ったつもりだったが、周りに花が舞ったかのように明らかに表情のトーンが良くなった。


『もう。貴方ってば、人の血が通っているのかそうじゃないのかどちらなの』

「少なくともお前は僕を玩具だと思っているだろうな」

『堂上くんって私に惚れてるんでしょう?』

「どう言う思考をしたらそうなる」

『だって私が普通科に行くのが嫌そうだもの。違うの?』

「はぁ」


堂上としてはただ特進科の中から普通科に行く者が現れるのを阻止したい一心なだけである。

あくまでも、こうして優しくするのは己の顔に泥を塗るような行為を避けて貰う為だけであった。



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