第1話
文字数 452文字
「やまない雨はない。だけど――やむまでが問題なんだ」
その一言で私は歩みを止めた。
「冷たい雨にさらされ続け、それがやむまで耐えることのできる人間もいれば、できない人間もいる。今の君のようにね」
冷え切った体は少しも動かず、視線すら下に広がる暗闇の中から移せない。
「『ベートーヴェン』に聞こえるそうだよ」
男の声が耳に届くたび、遠くで聞こえていた雨の音が大きくなる。
「絶望していると『運命』、希望に満ちあふれていると『歓喜の歌』に……雨音がそんな風に聞こえるらしい」
男は少し笑い「知り合いのベートーヴェン好きの戯れ言だけど」と、私の背中に向かって言った。
雨が降っている。
滝が流れ落ちるような雨が降っていた。
私はその場で崩れ落ちるように座り込み、目の前に広がる崖の下から視線をそらすため目を閉じた。体は冷え切り、痛みすら感じる。
雨はまだやまない。
やみそうにない。
「いったい君には、どんな曲に聞こえているんだろうね」
私は「ベートーヴェン」を、よく知らない。
ただ――絶望的な雨音が大きく聞こえた。
その一言で私は歩みを止めた。
「冷たい雨にさらされ続け、それがやむまで耐えることのできる人間もいれば、できない人間もいる。今の君のようにね」
冷え切った体は少しも動かず、視線すら下に広がる暗闇の中から移せない。
「『ベートーヴェン』に聞こえるそうだよ」
男の声が耳に届くたび、遠くで聞こえていた雨の音が大きくなる。
「絶望していると『運命』、希望に満ちあふれていると『歓喜の歌』に……雨音がそんな風に聞こえるらしい」
男は少し笑い「知り合いのベートーヴェン好きの戯れ言だけど」と、私の背中に向かって言った。
雨が降っている。
滝が流れ落ちるような雨が降っていた。
私はその場で崩れ落ちるように座り込み、目の前に広がる崖の下から視線をそらすため目を閉じた。体は冷え切り、痛みすら感じる。
雨はまだやまない。
やみそうにない。
「いったい君には、どんな曲に聞こえているんだろうね」
私は「ベートーヴェン」を、よく知らない。
ただ――絶望的な雨音が大きく聞こえた。
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