第17話 ただ正人にとって優和は特別な人ではなかったことが全てだった

文字数 1,307文字

明美は楽観的な性格だ。
その性格ゆえに、あまり思い悩むことはなかった。
そのため、明るく人当たりがいいと思われることが多かった。
そして普段は真面目な性格もあって、よく周りの人を心配し、助けた。
それは正義感がある行動であったが、偽善的な行動でもあった。

明美は、楽観が行き過ぎることも度々あった。
それは自分の都合よく解釈しているように見えた。
そしてそれは無神経すぎた行動にも見えたし、人に気を遣えない行動にも見えた。



明美は、正人とのことを、あまり気にしていなかった。
まさか正人が思い悩んでいるなんて想像もできなかった。
すでに明美にとって優和の存在はそこまで厄介ではなくなっていた。
だから明美は優和に連絡すらしようと思うくらいだった。
もう明美にとって、優和との関係は、都合が悪くなれば切れるくらいの関係になっていた。
むしろ明美は優和に連絡したかった。
優和との関係を確かめたいという好奇心があったのだ。
明美にとって、優和との関係はもう時効だった。

明美は自分がした行動が本当に正しかったのか確認したかった。
自分は間違っていなかった。
そう思いたかったのだ。

ある日突然、優和から絶交された。
でもその理由がなぜかわからなかった。
そしてクラスの雰囲気に流されるように、明美は優和を避けてしまった。
あれは本当に許される行動だったのか。
明美が優和を見捨てたわけではない。
優和が明美をいじめようとしたせいだ。
そう思いたい。

でも明美は優和の連絡先を知らなかった。
正人から聞けばいい。
正人はまだ電話をしていた。
電話の相手は仕事相手だ。
仕事の邪魔はしてはいけない。

正人が部屋に戻ってきた。
明美は正人に優和の連絡先を聞くつもりだった。
でも言葉に詰まってしまった。
正人が明美を懇願する様に見ていたからだ。
今にも泣き出してしまいそうな真剣な表情に明美はすぐに言葉が出なかった。
そして明美が聞く前に正人が尋ねた。



「どうしたの?」



明美は何のことを言っているか分からなかった。
正人は優和のラインを明美が消したことに気づいたのだった。
そして明美が優和に正人のラインを使って連絡をしたことも知っていた。
でも明美は正人が何を思って聞いているか全く見当がつかなかった。
明美にとって優和のラインを消したことは大したことではなかった。
ただ正人にとって優和は特別な人ではなかったことが全てだった。
たしかにたとえ誰であっても勝手に他人のラインを見たり消したりすることは許されることではない。
でもその時の明美は安心感が大きすぎて、そんな普通に考えられることすら考えられなくなっていた。
だから明美にとっては、それらはもう終わったことで過ぎたことだった。


明美は正人の真剣な質問にただ首を傾げて答えただけだった。
その答えはあまりにも簡単すぎた。
ある意味、それは正人が信じていた明美らしさでもあった。
そして明美は最悪なタイミングで質問をした。



「優和の連絡先、教えて」



その場の空気が凍り付いた。
でも明美にはそれがなぜだか分からなかった。
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