詩小説『砂糖を溶かした甘い海』3分間であの夏へ。全ての大人へ。

エピソード文字数 799文字

国道沿いに消えた夏。
曇ガラスを降ろし呼び込んだ風。
夕暮れ時は枯れた色。
オレンジのミラー、曲がり道。ハンドル切れば、そこは海。
砂糖を溶かした甘い海。

想い出の入り口のへ、そこはトンネルの中。カーラジオは歌うことをやめた。電波を失くして砂嵐の音。トンネルを出ればどんな景色が広がるか。検討もつかないままに。
匿名希望のリクエスト。なるたけ哀しい歌ではないように。
匿名希望のリクエスト。なるたけ眩しい歌ではないように。
匿名希望のリクエスト。真夏の夜の波音みたく、静かにふところへ舞い込むような。
匿名希望のリクエスト。

戻ることなど出来ない夏を、こうして独り車走らせ逢いに行くの。
薄い空も、透明の海も、最後は優しい音で私に流れ込む。
砂糖を溶かした甘い海。

トンネルの向こうに海岸線。色褪せした水平線。夏の星座を呼び込むために、薄暗くなりはじめた世界で。ガラス越し潮風、砂糖の香り後ろ髪。カーラジオが拾った知らない洋楽。
匿名希望のリクエスト。あの頃の僕が聴いていた曲ではないように。
匿名希望のリクエスト。あの日々がどうか蘇らないように。
匿名希望のリクエスト。真夏の夜に吹き抜けた、潔く涼しい風のような。
匿名希望のリクエスト。

子供すぎる私と、大人すぎる君。言葉足らずの私と、無干渉すぎるあなた。
ちぐはぐの袖をとおし、羽織ったシャツはボタンを掛け違えてる。そんな恋。
砂糖を溶かした甘い海。

海沿いの道路に停めた車。エンジンを切ればやけに静かに。防波堤の最後まで歩いたサンダル、揺れるTシャツ。
匿名希望のリクエスト。夏の終わりを代弁したようなメロディを。
匿名希望のリクエスト。

色を失くしたあの海が、あの日を呼び戻すの。想い出と私は良い友達になれた。
思い出ほど甘く香る。寄り添うだけでそこには、幸せが溢れ出した。
砂糖を溶かした甘い海。

砂糖を溶かした甘い海。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック