第1話 フレンチトースト、目玉焼き、サラダ、珈琲
文字数 1,326文字
「メダカちゃん、いい加減に、起きるのだー!」
ベッドの掛け布団を引っ張る朽葉コノコと、掛け布団を掴んで離さない佐原メダカ。
「コノコ姉さん、今何時だと思ってるんですか……。窓から指す光は月の光ですよ。外は真っ暗。まだ起きる時間じゃありません」
掛け布団の攻防は続く。
「今日は卒業式なのだー!」
「わたし、卒業じゃありませんから。それにコノコ姉さんだって、卒業じゃないですよぉ。眠らせてください!」
「卒業式にでないと、ダメなのだー」
置時計をチラ見するメダカ。
「いや、今、まだ四時ですよ。午前四時」
「今日はミッションがあるのだー」
「なんです、ミッションって」
力を入れたコノコによって、掛け布団はメダカの手から離れ、引きはがされた。
「ひきこもり少女、金糸雀ラピスちゃんを学校に連れていく日なのだ」
「か……金糸雀ラピス? 金糸雀ラズリの間違いじゃないですか、コノコ姉さん。あの風紀委員のラズリでしょ?」
「その、お姉ちゃんがラピスちゃんなのだー」
「うぅ……、寒い。毛布も一緒に吹き飛ばされた……。コノコ姉さん、酷い」
「酷くて結構なのだ。学校の行事には、ラピスちゃんも参加しなきゃダメなのだ。今日は卒業式という学園の大切な行事なので、ラピスちゃんを学園に連れていくミッションがスタートするのだ」
「えー?」
「冷蔵庫の抹茶アイス食べていいから」
「いりません」
「食べるのだー! 抹茶アイスは待っちゃくれないのだ」
「待ってなくていいです!」
「さ、制服に着替えるのだ、メダカちゃん」
「寒いよー。お布団が恋しいよー」
ベッドの上でうずくまるメダカ。
おもむろにスマートフォンを取り出したコノコは、カメラ機能でうずくまる佐原メダカの写真を撮った。
「うぎゃー! なにするんですか、コノコ姉さんッ?」
「涙子ちゃんにこのぐーたらなメダカちゃんの写真を送信するだけなのだ」
「いやぁぁあああぁぁあ! やめてぇぇぇぇ!」
「なら、着替えるのだ!」
「いぇす、まいろーど……」
「素直になればいいのだ」
「ごめんね、素直じゃなくって……。ちっくしょう」
「朝ご飯は用意してあるのだ」
「そういうことだけ、準備がいいんだから、コノコ姉さんは」
「なにか言った?」
「いえ、なにも」
私立空美野学園高等部一年生の佐原メダカは、朽葉コノコの住む朽葉珈琲店の二階を間借りして、絶賛居候中の身である。
二階にはコノコの部屋もあるので、行き来は頻繁にあるし、メダカは、自室にカギをかけない。
不用心にもほどがある、と言われそうだけれども、居候の身で、部屋の中でなにをやっているか不明であるのはフェアじゃない、というメダカの考えによる。
まあ、そんなわけで、今日のように朽葉珈琲店の一人娘であるコノコに叩き起こされる事態となったのだが。
フレンチトースト、目玉焼き、サラダ、珈琲が、一階の珈琲店内のカウンターに置かれている。
コノコがつくったものだ。
「さあ、食べるのだ」
「いただきます」
そして、ちょっと早い朝食から、今日は一日が始まる。
三月。私立空美野学園高等部の、卒業式の日だった。
ベッドの掛け布団を引っ張る朽葉コノコと、掛け布団を掴んで離さない佐原メダカ。
「コノコ姉さん、今何時だと思ってるんですか……。窓から指す光は月の光ですよ。外は真っ暗。まだ起きる時間じゃありません」
掛け布団の攻防は続く。
「今日は卒業式なのだー!」
「わたし、卒業じゃありませんから。それにコノコ姉さんだって、卒業じゃないですよぉ。眠らせてください!」
「卒業式にでないと、ダメなのだー」
置時計をチラ見するメダカ。
「いや、今、まだ四時ですよ。午前四時」
「今日はミッションがあるのだー」
「なんです、ミッションって」
力を入れたコノコによって、掛け布団はメダカの手から離れ、引きはがされた。
「ひきこもり少女、金糸雀ラピスちゃんを学校に連れていく日なのだ」
「か……金糸雀ラピス? 金糸雀ラズリの間違いじゃないですか、コノコ姉さん。あの風紀委員のラズリでしょ?」
「その、お姉ちゃんがラピスちゃんなのだー」
「うぅ……、寒い。毛布も一緒に吹き飛ばされた……。コノコ姉さん、酷い」
「酷くて結構なのだ。学校の行事には、ラピスちゃんも参加しなきゃダメなのだ。今日は卒業式という学園の大切な行事なので、ラピスちゃんを学園に連れていくミッションがスタートするのだ」
「えー?」
「冷蔵庫の抹茶アイス食べていいから」
「いりません」
「食べるのだー! 抹茶アイスは待っちゃくれないのだ」
「待ってなくていいです!」
「さ、制服に着替えるのだ、メダカちゃん」
「寒いよー。お布団が恋しいよー」
ベッドの上でうずくまるメダカ。
おもむろにスマートフォンを取り出したコノコは、カメラ機能でうずくまる佐原メダカの写真を撮った。
「うぎゃー! なにするんですか、コノコ姉さんッ?」
「涙子ちゃんにこのぐーたらなメダカちゃんの写真を送信するだけなのだ」
「いやぁぁあああぁぁあ! やめてぇぇぇぇ!」
「なら、着替えるのだ!」
「いぇす、まいろーど……」
「素直になればいいのだ」
「ごめんね、素直じゃなくって……。ちっくしょう」
「朝ご飯は用意してあるのだ」
「そういうことだけ、準備がいいんだから、コノコ姉さんは」
「なにか言った?」
「いえ、なにも」
私立空美野学園高等部一年生の佐原メダカは、朽葉コノコの住む朽葉珈琲店の二階を間借りして、絶賛居候中の身である。
二階にはコノコの部屋もあるので、行き来は頻繁にあるし、メダカは、自室にカギをかけない。
不用心にもほどがある、と言われそうだけれども、居候の身で、部屋の中でなにをやっているか不明であるのはフェアじゃない、というメダカの考えによる。
まあ、そんなわけで、今日のように朽葉珈琲店の一人娘であるコノコに叩き起こされる事態となったのだが。
フレンチトースト、目玉焼き、サラダ、珈琲が、一階の珈琲店内のカウンターに置かれている。
コノコがつくったものだ。
「さあ、食べるのだ」
「いただきます」
そして、ちょっと早い朝食から、今日は一日が始まる。
三月。私立空美野学園高等部の、卒業式の日だった。