ジオラモ編(4)

エピソード文字数 2,521文字

白い砂を、花咲くサンゴを、無残に突き破って打ち立てられた鉄柵。リンを先頭に、ナギが、ルナが、近づいて行く。

ピリリリリ!
警笛が鳴らされた。

「そこの三人! 用のない者は入っちゃいかん!」

バラバラと、体格のいい警護員が集まって来る。ご丁寧に手には銃まで構えられている。

「バカね。用があるから来たんじゃない。それにまだ入ってないわ」

「いいから止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

「あら、この国じゃ旅人にそんな扱いをするのかしら?」

「黙れ! 民間人だろうと容赦しない! テロリストとみなして発砲する!」

カシャ。銃口が三人に向けられる。リンは右手の平にマウスを呼び出す。

「か弱いレディー達に銃を向けるなんて最低ね。お仕置きが必要だわ」

リンが一人にマウスを向けた時。

「リン!」

あまりに突然だったので、ナギはリンがやったのだと思った。しかし、もちろんそれは違った。

警護員達の顔が一斉に発火したのだ。燃えた、というより、まさに発火だった。

驚く間もなく、その火はすぐに全身を包んだ。焼け死ぬ?
しかし、誰一人として苦しまない。もがかない。それどころか、平然としてリン達に近づいて来る。

「この人達、フレイムシードを植え付けられたんだわ! モンスターよ!」

飛び退くリン。ナギは慌ててビューラを構える。

「リンさん! ナギさん! バフ(能力上昇魔法)かけます!」

ルナはそう言うと二人に手をかざした。淡い光が二人を包み、力がみなぎるのをリンとナギは感じた。

「ありがと、ルナ。ナギ、この人達はもうニンゲンじゃないわ。行くわよ」

リンは炎を揺らすモンスターにマウスを向けた。

身体中から燃えさかる炎を揺らして迫り来るモンスターども。瞬く間に周囲は陽炎に包まれ、モンスターの群れが幻覚のように大きく揺れる。

うおおおん! モンスターが叫びながら体を振る。炎が飛び散る。散った炎は火種となり、燃え上がってモンスターの姿になる。

「ナギ! こいつら増えるわ! 早いとこ片付けないと!」

「うん!」

モンスターはリンに向けてナギに向けて一斉に火玉を噴射する。飛び退くリン。避けるナギ。
マウスで閉じ込め、クリックして消し去る。ナギの魔法弾が命中する。ルナのバフ効果でナギの魔法力は高められているため、撃たれたモンスターは一瞬青く氷結し、キラキラと消滅する。

しかしモンスターも数を増やしながら攻撃して来る。何より、熱い。汗が目に入る。リンも汗でマウスが滑る。灼熱の中での戦いだ。噴き出される火玉。迎え撃つナギの魔法弾。増える敵を消して行くリン。

「無理しないでください! ヒール(回復)します!」

疲れて来るリンをナギを、後方でルナが回復させる。ヒールに続けてバフを。だがルナ自身もMPを消耗している。

モンスターどもの後ろで、複数のモンスターが合体を始めた。いくつかの炎が絡み合い、さらに凶暴な火炎となる。その中から。

獅子のようなひときわでかいモンスターが現れた。

「ボスのお出ましね。でも残念ね、すぐに消してあげるわ!」

リンが火炎の獅子にマウスを向ける。その時。

ルナの背後に、突然モンスターが出現した。火の気がなかったから油断した。

「わあ! ナギさん!!」 ルナが叫ぶ。

すぐにナギが気づいた。だがビューラは間に合わない。ルナがやられる。ナギはルナに飛びついた。炎のモンスターが襲いかかる。刹那。

リンが間一髪、マウスを向けた。ナギの背中にかぶさる寸前、モンスターは消滅した。しかし、

「ああああああっ!!」

炎の獅子のモンスターが腕を伸ばして隙の出来たリンを捕らえた。炎に鷲掴みにされるリン。じゅうう。リンの体が焦げる。

「リン!」

ナギは急いでビューラを構える。だが、

モンスターは捕らえたリンを目の前に持って来ると、リンめがけて炎を噴き出した。

リンが、

一瞬にして火だるまに。

「いやああああ!!」 ナギが叫ぶ。

ぼとり。

黒い塊がモンスターの手から落ちる。

「うわああああ!!」

ナギは狂ったようにモンスターに向けてビューラを乱射した。

炎の獅子の顔面に魔法弾が当たる。もがく獅子。戦意を喪失したか、獅子は炎の渦を描いて、消えた。同時に炎のモンスターどもも姿を消した。

立ち昇る煙。くすぶる残骸。

その中に、リンもあった。

体のあちこちから立ち昇る白い煙、それはまるで消え行くリンの命のようだった。体じゅうが黒く焼けただれて溶け、ピクリとも動かなかった。

「リン! リン! リン!!」

ナギが駆け寄り転び這い寄る。助けて、ルナ。震えながらルナにすがるが、

「……だめです。ボクの魔法力がたりません……」



そんな……

ナギはなんとかしてリンを抱き起こそうとする。ぬるりと、皮膚が剥がれる。人の形をした赤黒いリンの、やっと、眼が、開いた。

「リン、嫌だ、嫌だ、リン、リン」

リンの眼が、ナギを見た。
笑った気がした。

杖を掴んだ手が、微かに動いた気がした。

さらさら

さらさらさら

ナギは、リンの体がつま先から砂になって、いや、砂より細かい霧になって崩れ始めたことに気づいた。全身の毛が逆立ち、ナギの思考は壊れた。焦ったナギはリンの体にしがみついて放すまいとしたが、その衝撃で両腕が落ち、霧になって消えた。

からん。

リンがいつだって大切に持っていた杖が、落ちる。

「いや、いやだいやだリンいやだよリン、リン、いやだいやだ」

震えながら、涙を噴き出しながら、せめてリンの顔だけは胸に抱いておこうとする。だがその時ひときわ強い風が吹いて、

リンの胴体も頭もさらさら崩れて、

消えた。

ナギはたったひとつ遺された杖を拾おうとしたが、その杖さえ、かすれて、消えた。

ナギの小さな手のひらに、わずかばかりの黒いすす。

リンは、それしか、遺さなかった。

「わああああ!!」

ナギは空を仰ぎ、泣き狂った。


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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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