episode 5 私が書かなかった死 [終]
文字数 507文字
自作の小説を放送で初めて読まれた私は、たぶん校内で一番恥ずかしい思いをしながら會川さんのりんとした声を聴いていただろう。まず驚いたのが西条くんの名前で、「部長」という微妙な仮名が堂々と他の二人と同じ本名になっていた。ちなみに「アサヒ」は「鵜澤 浅緋 」といい、朝の陽射 しとは関係ない名前である。
でもまさか、彼が私が書かなかった彼女の死、最後の段落を書き加えるなんて。私は彼女との別れの日に起きた〝武勇伝の続き〟を書けなかったのに、彼によると「真実を書いたなら、うそはだめだろ?」だそうだ。私は死にふれなかっただけでうそは書いていないので、少し考えてこう言ってやった。
「もしかして、あの子が死んだことを思い出したくないから、これまで人が死ぬ話を放送しなかったの?」
本当は武勇伝を最後まで話したかったから書き加えたのか訊きたかった。西条くんの答えはこれ。
「ああ……、まあな。ただ今回はあえて放送することで乗り越えられるかもしれないって思った、浅緋の話だし。でも河坂だって、浅緋のことを忘れられずに人が死ぬ話ばかり書いてたんだろう?」
そうじゃないよ。
声にして否定しなかった私はうそつき。
Fin.
でもまさか、彼が私が書かなかった彼女の死、最後の段落を書き加えるなんて。私は彼女との別れの日に起きた〝武勇伝の続き〟を書けなかったのに、彼によると「真実を書いたなら、うそはだめだろ?」だそうだ。私は死にふれなかっただけでうそは書いていないので、少し考えてこう言ってやった。
「もしかして、あの子が死んだことを思い出したくないから、これまで人が死ぬ話を放送しなかったの?」
本当は武勇伝を最後まで話したかったから書き加えたのか訊きたかった。西条くんの答えはこれ。
「ああ……、まあな。ただ今回はあえて放送することで乗り越えられるかもしれないって思った、浅緋の話だし。でも河坂だって、浅緋のことを忘れられずに人が死ぬ話ばかり書いてたんだろう?」
そうじゃないよ。
声にして否定しなかった私はうそつき。
Fin.