第7回:ひーちゃんは誘った

文字数 2,155文字

「あけま」(以下略)
 元日は、メッセージのやり取りだけして、自撮り写真が送られてきた。「コロナ」がもっとヤバかった頃は、ビデオ通話でしょっちゅうやり取りをしていたものだ。さすがの今は、テキスト中心。ましてや外出先からならば「ギガなくなる~」って泣き言をいうことになる(もちろん、アカネが)。
 しかしとにかく、自分大好きアカネ。特別なことがなくとも、なんか分からないタイミングで私に自撮りを送ってくる。そのたびに「アカネは可愛いなあ」と返すのが、しきたりである。メンドクサイが、それが楽しいから私もアホ……カノジョ馬鹿だ。

 * *

 いよいよ春が来る。今更いうのもなんだが、アカネの誕生日があるのもこの時期。ちなみに私の誕生日は秋だ(誰もきいてない)。
 とにかく当然のことながら、アカネの誕生日祝いを例年やる。それこそ、付き合い始める前から恒例行事。とはいえあの頃は私のほうが「お客さん」だったわけなのだが。もう、私が本当にもてなす側である。
 そして今回は大々的だ。なにせ昨年までとは世間の雰囲気がちがう。で、何をやったかというと、テーマパークでデート。この平日に、私は有給休暇を取っている
 ここぞとばかり大奮発。アトラクションも予約したり待ち時間の少ないやつにしたりした。いうまでもなく料金は私が払う。
 昼食も園内のレストランでゴージャスにいただく。おやつも食い放題。もちろん私が払う。
 アカネはおみやげにグッズを買い(あさ)る。人気のあるやつは事前予約まで入れてある。ありったけ持ちきれないくらいドッサリお買い求めた。私からアカネへの誕生日プレゼントだ。それを持ち帰るのではなく宅配で送る。

 夕食も園内で豪華なディナー。アカネも現役の頃には仕事の付き合いで高級店で食事をしたこともあっただろう。私も役員の(おご)りや会社の経費で高い店にいくことは(まれ)にある。だがしかし、庶民である。二人とも肩肘(かたひじ)が張った。ガクガク……ブルブル……。身の(たけ)に合わぬことはせぬものだ。
「キミの瞳に乾杯!」なんてカッコつけることはなく(そもそもアカネにはチンプンカンプンかもしれない)、あくまでも私ららしく。
「わぁー! 誕生日おめでとー! わぁー!」

 そして普段ならばアカネを家に送り届けるところだが、今夜はちがう。ホテルに一緒に宿泊だ。オカネはもちろん私が払う。あとでクレカの請求見てひっくり返って泣きそうになるだろう。まあ、そのためにも普段は節制(せっせい)して貯金をしてあるのだが。
 ベルボーイ(!)に案内された部屋に入って、少しばかりの荷物を置いて、
「アカネ、先に手ぇ洗っとき」
 そう促した。アカネが出てきたあと、私が手を洗っていると、やかましい気配がする。マスクを外して、戻ると。
 ボーンっ! ごろごろごろー……
 アカネがベッドの上ではしゃいでいる。
 それを見た私は――
「チッ、先を越されたかッ!」
 ベッドに飛び込んだ。
 いかがわしいことをするわけではない。大きくて高級なベッドを、しかも立派にベッドメイクしてある、それを前にすればやはり、やらないわけにはいくまい。ベッドで跳ねて転がり回るのである。
 我々はいい歳こいて、そんなアホ二人組。

 ボヨンッ! ボヨンッ!
 負けじとばかりに二人で駆け引きをする。そして、ごろごろごろー。その時々で顔を見合わせながら。
 もういくらなんでも充分だろ、という頃合いになってようやく、二人とも仰向けになって天井を見上げていた。
「アカネー、好きやー」
「ウチもひーちゃんが好きやー」
 今に始まったことではないやり取りを、改めてまた、やる。
「ねーねー、ウチのどんなとこが好きなん?」
「優しいとこと、可愛いとこと、面白いとこと……可愛いとこ」
「えぇーッ、カワイイがダブってるで」
「うんだからそんだけ可愛いいうことやん」
 デヘヘへー。アカネがにやける。エヘヘではなくデヘヘ。このアカネ特有の笑いは、アカネの声が低めなのも相まって、オンナくさくエロい。

「ところでアカネ。アカネがもしよかったら、やけど。うちに引っ越してきてええねんで。ワンルームの家賃高いやろ、損やん」
 アッと声を漏らしてから、アカネは悩んだ様子で、ウーン……。しばし考えて、
「それはええねんけど、ほんならその前にひーちゃんのこと、ウチのパパとママに言わなあかんなぁ」
「まだ()ってへんかったん?」
「いや、好きな人がおるゆうことは()うてはいるんやけど、同棲(どうせい)するゆうたらやっぱり特別やん?」
「せやなぁ。それはそうやなぁー。住所も変わるし、男の家に住む()わなあかんもんなぁ」アカネはしかも一人娘である。
「せやろ?」とアカネが返す。「うちにはママからいろいろ送られてくるし」
「いろいろ?」
「服とか食べもんとか」
「せやなぁー」まあ、それもそうだろう。
 少し沈黙。
 私は隣のアカネのほうに向き直って、その右手を両手で握った。
 アカネも私のほうに向き直って、見つめあった。
 胸が高鳴る。
「アカネ、いますぐていうわけやないけど……」
 うん、とアカネがうなずくと、私は、
「そのうち、結婚しょう」
 するとアカネは、私から視線をはずして、十数秒くらいだったろうか、黙っていた。そして私を上目(づか)いに見ながら、こう言った。
「条件、というか、お願いがあります」

〈大事なところなので つづく〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み