二の一 冷淡歓迎香港
文字数 3,986文字
ずっしりした湿気が出迎えてくれた。
「香港の空港は分刻み。魔道団でもFBOのターミナルに割り込むのは難しい」
シノが教えてくれる。つまりプライベートジェットがしょっちゅう離着陸しているらしい。
ようやく人の作りし密閉から解放されたけど、麻卦執務室長のイミグレーションに付き合わないとならない。人のいない隅っこでじっと待つ。シンガポールのパスポートを持った老夫婦が荷物の整理に来たので、場所を譲る。
麻卦さんは問題なく通過。空港はデカすぎて閉ざされ感が少ない。俺のコンディションも悪化しなかった。
出口で魔道団団員の四十代ほどの男女二人が待っていた。
「日本 と同じ車に乗らない」
ケビンが立ち去る。シノも肩をすくめて去っていく。二人はタクシーにするらしい。
残りの四人は無言で駐車場を進む。黒色の日本製高級ミニバンに乗車する。
「ホテルの一室を取ってあります。そこで取引します」
助手席の女性が振り向かずに言う。黒髪のおかっぱで眼鏡。
「その後は?」執務室長が言う。
「部屋は翌日まで使えます。深圳に向かうまでは、どうぞご自由に」
ぎりっと執務室長が奥歯を噛んだ音がした。
「取引には誰が来る?」
「茶会のメンバーが二人来ます」
「梁勲は?」
「来ません。十四時茶会が本日開かれます。あなたには、そこで決まったことを後日お伝えします」
「話が伝わってないみたいだな」
なおも異形が現れる日本。その退治を大金で依頼する影添大社。そこのナンバー2の麻卦。上客のはずなのに敵意さえ感じる。この人たちの仲間を殺したのは台湾の異形なのに……。
峻計、土壁。奴らはどこにいる?
「ドロシーに会いたい」
ずっと黙っていた俺が口を開く。
「黐線 」
黒髪ツーブロックカットの運転手が、人の言葉を吐き捨てる。
ドロシーがサキトガを罵るのに聞いたから、俺はこの言葉を知っている。ニュアンスを知っている。
「下っ端どもが日本を舐めるな」
俺の怒りより早く執務室長が告げる。
「彼との契約のひとつだから、まずはドロシーって娘に会わせてやれ。嫌ならば交渉決裂だ。空港に戻れ」
魔道団の二人は言い返さない。黒いミニバンは高速道路をひた走る。海と緑に挟まれた道なのに都心ぐらい人工的に感じるのは何故だろう。
「さすが下っ端だな。心の声をちゃんとに聞き取れないらしい」
執務室長が言った後に、「ストップ、カー」と人の言葉を付け足す。交通量多いハイウェイで止まるはずない。
「さすが日本人だな。英語をまともに喋れないらしい」
運転手が笑う。
「あなたは私達が弱いと思っている。でも私は、あなたは日本の刺身についた線虫よりもカスだと思っている」
助手席の女も前を向いたまま言う。
「エヴリワン、レッツビーカーム」
みなさん冷静になりましょう。異形である俺が(意味なく)英語で告げて、日本語で付け足す。
「ドロシーに会わせてください。すべてが終わった後だと反故にされそうなので、最初に会わせてください」
魔道団の二人は返事しない。当たり前だ。下っ端が勝手に判断できるはずがない。でも俺たちを馬鹿にして黙っているのならば、昼間の車に閉ざされた異形だと俺もカスに思われているのならば……どうすればいい?
「松本君降りよう」
執務室長が答えを持っていた。その手に紺色の対の扇が現れる。
「夫婦鹿 !」
模範解答でないと思うけど、緑色の螺旋を浴びてドアが吹っ飛ぶ。
クラクション、急ブレーキの音。このミニバンも脇へと寄っていく。
異国のハイウェイ。クラクションの連鎖。振り向くのが怖い。
「この車は内側にも術をコーティングしてあるのに……」
助手席の女がおののいている。
「修理代は支払わないからな」
破壊したドアから執務室長が降りる。その横へとタクシーがとまる。シノとケビンが乗っていた。
「作法ヲ教エタダケダ。ソッチニ乗セロ」
執務室長が日本語で言う。
タクシーのドアが開く。乗り込む麻卦さんがアメリカ映画のヒーローに見えた。
「最初にドロシーと会いたい」
ドアを閉めかけられながら、続いて乗り込んだ俺が言う。
ケビンが運転手に広東語で命じてタクシーが動きだす。俺は見えないのだから、ケビンと執務室長は後部座席でくっついて座る男二人。運転手は詮索しない。
シノがスマホでの通話を終える。
「梁大人ガ会ウソウデス」
日本語で俺達に告げる。
つまりドロシーの祖父。十四時茶会の実質ナンバーワン。その人にお願いしろというのか。
「最初からそうしろよ」執務室長が嫌味に笑う。
***
「尖沙咀ではないのか」
後部座席の中央に座る執務室長がつぶやくけど、隣に座るケビンも助手席に座るシノも黙ったまま。俺は、執務室長の肘が当たるたびにふわりと滑って落ち着かない。
海底トンネルをくぐり、静かな車内のタクシーはユーラシア大陸に別れを告げる。どこもかしこもビルだらけ。この都市は絶滅危惧な異形にはきつい。それでいて路地の奥やふるびたビルに、異形が潜んでいそうな気配がする。
「中環 でもないのか。安ホテルじゃないだろうな」
執務室長だけが口を開く。
「麻卦さんは香港に何度も来ているのですか?」
俺は素朴な疑問を口にする。
「百回ぐらいというのはジョークで十回ぐらいかな。この町は下等な異形がひっきりなしに湧いてくる。食い扶持をなくさないために、どこぞの魔道士の一団が全滅させないからだ」
油を注がないでくれ。いつ喧嘩が始まってもおかしくない緊張感。
「魔道団は尖沙咀に本部がある。三回行ったことがある。香港島にも支部と教練場があったよな」
「そこに梁大人がいます。ドロシーも。ホテルはいつもの五つ星を取ってあります」
シノが異形の言葉で答える。
「思玲はどこにいます?」
「それは答えない」
俺の質問を即座にケビンが遮る。
*
北角と書いてノースポイントと読む、まさに香港チックな町名。右ハンドルのタクシーが車道右側に停まる。即座にクラクションが背後で騒ぐ。広東語の抑揚ある罵声。喧騒が渋谷や池袋どころでない。
「ここから十分ほど歩きますが、カモフラージュで二組に別れます。私は麻卦さんと行動します」
シノが偽装のために、早口の英語を喋りながら心の声を伝える。ヒアリングに難儀させられたけど器用だ。興奮するとごちゃ混ぜになるドロシーは見習ってほしい。
「用心ダケハ習慣ニシナイトナ」
執務室長が日本語でうなずく。「ダガ松本君ハ俺ノ用心棒ダ。彼ト離レタクナイ」
シノがケビンと広東語を交わしたのちに(黙って見つめ合っていると周囲の注意をひくからだ)、「ケビンがあなたと行動します。彼も強い」
「昼間なら彼のが強いな」
執務室長が同意して、俺とシノは二人と別れて歩きだす。
夕方前の時間。人通りは絶えない。座敷わらしであっても大人の体である俺は空へと浮かべない。シノの後ろにぴったり張りついて歩く。
「なにを警戒しているの?」彼女へと聞く。
「麻卦が言ったように習慣」
いなくなるなり呼び捨てたあとに「日本で血が流れ過ぎたし」
……シノの恋人のアンディも異国で死んだ。俺は生死への感覚が麻痺してきているかも。
「俺達の代わりにアンディが犠牲になった。みんなは彼に守られた。ありがとう」
アスファルトの道は坂道になっていく。
「その言葉だけで彼は報われる。――香港も緑が多いでしょう?」
多いというか、狭いスペースに人とコンクリートを押し込んだ街のイメージ。林のギリギリまで雑居ビルが立ち並ぶ。その林に木霊はいない。人の世界には漢字と数字の看板が目立つ。人間は少なくなっていく。
「梁大人は松本さんとは会うつもりでいたみたい。麻卦とは直接交渉したくなかったよう。……影添大社は魔道団を下請けみたいに扱う。私達のプライドに気づかない」
シノが早足で歩きながら伝える。「麻卦みたいのを日本では狸親父と呼ぶよね」
「体形が?」
「日本の置物のことね。あっちはかわいい」
俺のうまい切り返しにシノはふっと笑い、「陰陽士なんかに頼るなんてね」
「同じ日本人だから当然だよ」
俺は言い返すけど、みんなが本来の世界に戻るために、さらに影添大社の力を借りなければならない。
琥珀が探しだしたふたつの手法。ひとつは上海不夜会の宝らしいけど、詳細は不明と例によって片手落ち。どっちにしろそっちは無理だから、陰陽士のトップである宮司に頼らないとならない。
影添いの告刀 ――宮司だけが使える門外不出の秘術。その導きで人に戻してもらう。
ミカヅキというカラスから授かった導きも、おそらくそれだろう(猫であったフサフサが、ノリトウがあると流範を脅した覚えがある)。
その超強力版ならば俺達をたやすく人に戻せるかも。でも実務において宮司はお飾りらしい。ゆえに影添大社のナンバー2である麻卦執務室長の気持ち次第でそれを授けられる、かも。
不憫な俺達を見ても、大蔵司も麻卦さんも『告刀にすがれ』とアドバイスしてくれない。それが気がかりというかそもそも存在しないのではないか、なんて思わない。俺達は切れそうな綱だろうとすがるしかない。
*
絶対に築昭和なビルの前でバーコード頭の男性が椅子に腰かけていた。シノが広東語で話しかける。男性がスマホで電話する。ビルのドアが開いて男が一人出てくる。
「どうぞ」忌むべき声で広東語を伝えてくる。
シノを先頭に入場する。同時に暗闇。彼女は無言で階段を上がる。三階でドアを開ける。また道にでた。その先に六階立てほどのビルがあった。玄関から黒髪ショートヘアの女が一人出てくる。
「茶会が始まるまでの片手間に、梁先生はこの化け物と会われる。シノは応接でケビンと日本人を待て」
それから俺に目を向ける。
「ついてこい」
化け物な俺を魔道団支部へと誘 う。……嗅ぎ慣れてしまった匂いがする。このビルは、なぜだか死の匂いがする。
次回「死人の王だと?」
「香港の空港は分刻み。魔道団でもFBOのターミナルに割り込むのは難しい」
シノが教えてくれる。つまりプライベートジェットがしょっちゅう離着陸しているらしい。
ようやく人の作りし密閉から解放されたけど、麻卦執務室長のイミグレーションに付き合わないとならない。人のいない隅っこでじっと待つ。シンガポールのパスポートを持った老夫婦が荷物の整理に来たので、場所を譲る。
麻卦さんは問題なく通過。空港はデカすぎて閉ざされ感が少ない。俺のコンディションも悪化しなかった。
出口で魔道団団員の四十代ほどの男女二人が待っていた。
「
ケビンが立ち去る。シノも肩をすくめて去っていく。二人はタクシーにするらしい。
残りの四人は無言で駐車場を進む。黒色の日本製高級ミニバンに乗車する。
「ホテルの一室を取ってあります。そこで取引します」
助手席の女性が振り向かずに言う。黒髪のおかっぱで眼鏡。
「その後は?」執務室長が言う。
「部屋は翌日まで使えます。深圳に向かうまでは、どうぞご自由に」
ぎりっと執務室長が奥歯を噛んだ音がした。
「取引には誰が来る?」
「茶会のメンバーが二人来ます」
「梁勲は?」
「来ません。十四時茶会が本日開かれます。あなたには、そこで決まったことを後日お伝えします」
「話が伝わってないみたいだな」
なおも異形が現れる日本。その退治を大金で依頼する影添大社。そこのナンバー2の麻卦。上客のはずなのに敵意さえ感じる。この人たちの仲間を殺したのは台湾の異形なのに……。
峻計、土壁。奴らはどこにいる?
「ドロシーに会いたい」
ずっと黙っていた俺が口を開く。
「
黒髪ツーブロックカットの運転手が、人の言葉を吐き捨てる。
ドロシーがサキトガを罵るのに聞いたから、俺はこの言葉を知っている。ニュアンスを知っている。
「下っ端どもが日本を舐めるな」
俺の怒りより早く執務室長が告げる。
「彼との契約のひとつだから、まずはドロシーって娘に会わせてやれ。嫌ならば交渉決裂だ。空港に戻れ」
魔道団の二人は言い返さない。黒いミニバンは高速道路をひた走る。海と緑に挟まれた道なのに都心ぐらい人工的に感じるのは何故だろう。
「さすが下っ端だな。心の声をちゃんとに聞き取れないらしい」
執務室長が言った後に、「ストップ、カー」と人の言葉を付け足す。交通量多いハイウェイで止まるはずない。
「さすが日本人だな。英語をまともに喋れないらしい」
運転手が笑う。
「あなたは私達が弱いと思っている。でも私は、あなたは日本の刺身についた線虫よりもカスだと思っている」
助手席の女も前を向いたまま言う。
「エヴリワン、レッツビーカーム」
みなさん冷静になりましょう。異形である俺が(意味なく)英語で告げて、日本語で付け足す。
「ドロシーに会わせてください。すべてが終わった後だと反故にされそうなので、最初に会わせてください」
魔道団の二人は返事しない。当たり前だ。下っ端が勝手に判断できるはずがない。でも俺たちを馬鹿にして黙っているのならば、昼間の車に閉ざされた異形だと俺もカスに思われているのならば……どうすればいい?
「松本君降りよう」
執務室長が答えを持っていた。その手に紺色の対の扇が現れる。
「
模範解答でないと思うけど、緑色の螺旋を浴びてドアが吹っ飛ぶ。
クラクション、急ブレーキの音。このミニバンも脇へと寄っていく。
異国のハイウェイ。クラクションの連鎖。振り向くのが怖い。
「この車は内側にも術をコーティングしてあるのに……」
助手席の女がおののいている。
「修理代は支払わないからな」
破壊したドアから執務室長が降りる。その横へとタクシーがとまる。シノとケビンが乗っていた。
「作法ヲ教エタダケダ。ソッチニ乗セロ」
執務室長が日本語で言う。
タクシーのドアが開く。乗り込む麻卦さんがアメリカ映画のヒーローに見えた。
「最初にドロシーと会いたい」
ドアを閉めかけられながら、続いて乗り込んだ俺が言う。
ケビンが運転手に広東語で命じてタクシーが動きだす。俺は見えないのだから、ケビンと執務室長は後部座席でくっついて座る男二人。運転手は詮索しない。
シノがスマホでの通話を終える。
「梁大人ガ会ウソウデス」
日本語で俺達に告げる。
つまりドロシーの祖父。十四時茶会の実質ナンバーワン。その人にお願いしろというのか。
「最初からそうしろよ」執務室長が嫌味に笑う。
***
「尖沙咀ではないのか」
後部座席の中央に座る執務室長がつぶやくけど、隣に座るケビンも助手席に座るシノも黙ったまま。俺は、執務室長の肘が当たるたびにふわりと滑って落ち着かない。
海底トンネルをくぐり、静かな車内のタクシーはユーラシア大陸に別れを告げる。どこもかしこもビルだらけ。この都市は絶滅危惧な異形にはきつい。それでいて路地の奥やふるびたビルに、異形が潜んでいそうな気配がする。
「
執務室長だけが口を開く。
「麻卦さんは香港に何度も来ているのですか?」
俺は素朴な疑問を口にする。
「百回ぐらいというのはジョークで十回ぐらいかな。この町は下等な異形がひっきりなしに湧いてくる。食い扶持をなくさないために、どこぞの魔道士の一団が全滅させないからだ」
油を注がないでくれ。いつ喧嘩が始まってもおかしくない緊張感。
「魔道団は尖沙咀に本部がある。三回行ったことがある。香港島にも支部と教練場があったよな」
「そこに梁大人がいます。ドロシーも。ホテルはいつもの五つ星を取ってあります」
シノが異形の言葉で答える。
「思玲はどこにいます?」
「それは答えない」
俺の質問を即座にケビンが遮る。
*
北角と書いてノースポイントと読む、まさに香港チックな町名。右ハンドルのタクシーが車道右側に停まる。即座にクラクションが背後で騒ぐ。広東語の抑揚ある罵声。喧騒が渋谷や池袋どころでない。
「ここから十分ほど歩きますが、カモフラージュで二組に別れます。私は麻卦さんと行動します」
シノが偽装のために、早口の英語を喋りながら心の声を伝える。ヒアリングに難儀させられたけど器用だ。興奮するとごちゃ混ぜになるドロシーは見習ってほしい。
「用心ダケハ習慣ニシナイトナ」
執務室長が日本語でうなずく。「ダガ松本君ハ俺ノ用心棒ダ。彼ト離レタクナイ」
シノがケビンと広東語を交わしたのちに(黙って見つめ合っていると周囲の注意をひくからだ)、「ケビンがあなたと行動します。彼も強い」
「昼間なら彼のが強いな」
執務室長が同意して、俺とシノは二人と別れて歩きだす。
夕方前の時間。人通りは絶えない。座敷わらしであっても大人の体である俺は空へと浮かべない。シノの後ろにぴったり張りついて歩く。
「なにを警戒しているの?」彼女へと聞く。
「麻卦が言ったように習慣」
いなくなるなり呼び捨てたあとに「日本で血が流れ過ぎたし」
……シノの恋人のアンディも異国で死んだ。俺は生死への感覚が麻痺してきているかも。
「俺達の代わりにアンディが犠牲になった。みんなは彼に守られた。ありがとう」
アスファルトの道は坂道になっていく。
「その言葉だけで彼は報われる。――香港も緑が多いでしょう?」
多いというか、狭いスペースに人とコンクリートを押し込んだ街のイメージ。林のギリギリまで雑居ビルが立ち並ぶ。その林に木霊はいない。人の世界には漢字と数字の看板が目立つ。人間は少なくなっていく。
「梁大人は松本さんとは会うつもりでいたみたい。麻卦とは直接交渉したくなかったよう。……影添大社は魔道団を下請けみたいに扱う。私達のプライドに気づかない」
シノが早足で歩きながら伝える。「麻卦みたいのを日本では狸親父と呼ぶよね」
「体形が?」
「日本の置物のことね。あっちはかわいい」
俺のうまい切り返しにシノはふっと笑い、「陰陽士なんかに頼るなんてね」
「同じ日本人だから当然だよ」
俺は言い返すけど、みんなが本来の世界に戻るために、さらに影添大社の力を借りなければならない。
琥珀が探しだしたふたつの手法。ひとつは上海不夜会の宝らしいけど、詳細は不明と例によって片手落ち。どっちにしろそっちは無理だから、陰陽士のトップである宮司に頼らないとならない。
影添いの
ミカヅキというカラスから授かった導きも、おそらくそれだろう(猫であったフサフサが、ノリトウがあると流範を脅した覚えがある)。
その超強力版ならば俺達をたやすく人に戻せるかも。でも実務において宮司はお飾りらしい。ゆえに影添大社のナンバー2である麻卦執務室長の気持ち次第でそれを授けられる、かも。
不憫な俺達を見ても、大蔵司も麻卦さんも『告刀にすがれ』とアドバイスしてくれない。それが気がかりというかそもそも存在しないのではないか、なんて思わない。俺達は切れそうな綱だろうとすがるしかない。
*
絶対に築昭和なビルの前でバーコード頭の男性が椅子に腰かけていた。シノが広東語で話しかける。男性がスマホで電話する。ビルのドアが開いて男が一人出てくる。
「どうぞ」忌むべき声で広東語を伝えてくる。
シノを先頭に入場する。同時に暗闇。彼女は無言で階段を上がる。三階でドアを開ける。また道にでた。その先に六階立てほどのビルがあった。玄関から黒髪ショートヘアの女が一人出てくる。
「茶会が始まるまでの片手間に、梁先生はこの化け物と会われる。シノは応接でケビンと日本人を待て」
それから俺に目を向ける。
「ついてこい」
化け物な俺を魔道団支部へと
次回「死人の王だと?」