第3話 緑の瞳 3

文字数 1,003文字

 施設での生活は単調すぎて退屈。
 することもないから、なんとなくカナタについて回って一日が終わる。
「ねえ、カナタ。わたしが喋るとみんなスゴく驚いたあと、どうして決まって笑うのかしら?」
 昼食を運ぶカナタの足元を器用に避けて、掃除ロボットが走っていく。
 ここに来てから、会う人みんながそんな反応をする。ヤな感じ。
「ペットタイプのロボットは多いけど、人語を喋るのは珍しいから」
 そうかしら? なんか腑に落ちない……。
 カナタは三つの施設のうち、ソフィア博士のいる災害救助ロボット開発研究室に詰めていることが多い。
 今も忙しい研究室の人たちのために食事のお世話だ。
「いまの救助ロボットって人型じゃないのね。平べったい型とか蛇みたいな紐状とか」
「人命救助には瓦礫の下なんかの狭い場所に潜り込む場合が多いから、それに適した形状になったんだ」
「救助には人型である必要はあまりないのね。サービス業とか介護にはたくさんいるけど」
 カナタはきっと前時代の遺物なのだろう。
「そういえばここの案内図にシェルターってあったけど」
「あるよ」
 当然のようにカナタは答えた。
「そんなのいつ使うの? 世界政府になってから国際紛争はないし、むやみに攻撃を受けるケースは皆無じゃない?」
 まあそうだけど、とカナタはいったあと続けた。
「自然災害とか……いざというときに使うんだ」
「地震? 百五十年前みたいな」
 うん、とうなずいたきりカナタは口を閉ざした。
 百五十年前……正確には百四十八年前の地震で事故が起きて、カナタの仲間は救助中に二次災害に巻き込まれてしまったらしい。
 事故や仲間の話をカナタはしたがらない。わたしもカナタも自律システムが入っているから、感情に近いものがあって、ズケズケ聞くのもためらわれる。
「ソフィア博士は今日も泊まり込みかしら」
「この間、きみを迎えに行くのに休暇を取ったから、そのぶん頑張ってるんだ」
「ふーん」
 休暇ね……生きているうちに来てほしかったけど。
「でも、ここの人たちって休んでるの? 施設はいつも稼働しているし、外に出かける姿もみたことない」
 それについてはカナタからの返答はなかった。
 回廊の中は晩夏の日差しがきつく感じられる。見上げるカナタは髪の毛と瞳が日に透けてキレイ。
「今夜もあなたの部屋で休んでもいい?」
「かまわないよ」
 カナタはまっすぐ前を見たままで答えた。
 キレイな人間みたい。美しくて冷たい。
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