第2話
文字数 775文字
面接をしたのは、イカれた口髭をはやした、バーテンのような格好のナイスミドルだった。
「本間モネ・・・印象派の画家みたいな名前だな」独り言のようにそう呟くマネージャーに対し、「あんたの口ひげはダリのマネだろ」と返してやりたくなったが、黙っていた。
「源氏名を決めようか?」
「モネのままで良いです」
「いやそういうわけにもいかないんだよ。色々と、トラブルの元だからね」
「じゃあ、ファッキングふたこぶラクダで」
そう言うとマネージャーのこめかみがピクピクッと動いて、怖い雰囲気がしばらく立ち込めた。
「『ダダ』ってのはどうかな?」
「駄々っ子のダダですか?」
「そう。それに君はダダイストみたいだからね」
いちいち文化人臭を漂わせてくる、風俗店『マーラ』のマネージャーであった。
「処女ではないよね、もちろん?」
「はい」
いつかこうなると思っていたから、一昨年の秋にバージンを捨てた。相手はタカミチという大学生だかセミプロのパチプロだか、良く分からないやつだった。タカミチは彼氏ではなかったが、今でも時々連絡が来る。
タカミチはアタシに良く、風俗嬢になれ、と言っていた。おまえは風俗嬢に向いている、いや、風俗嬢にしか向いていないんだ、と。
そんなことを言われてもアタシはタカミチの事が嫌いではなかった。タカミチは自分でも、おれは何者でもない、何者にもなれないんだ、と言っていた。
「社会で何者になったら良いかがわからない」そう言いながら大学をズルズル留年し、パチンコで儲けては風俗に足しげく通うような男だ。服装だけは、古着と革とシルバーでキメていた。
マネージャーは名刺をくれたけれど、アタシはそれを見もせずバッグにしまった。マネージャーはマネージャー、記号的存在に過ぎない。アタシはそう思っていた。風俗にまつわるすべてを、自分自身も含めて、記号に還元しようとしていたのかもしれない。
「本間モネ・・・印象派の画家みたいな名前だな」独り言のようにそう呟くマネージャーに対し、「あんたの口ひげはダリのマネだろ」と返してやりたくなったが、黙っていた。
「源氏名を決めようか?」
「モネのままで良いです」
「いやそういうわけにもいかないんだよ。色々と、トラブルの元だからね」
「じゃあ、ファッキングふたこぶラクダで」
そう言うとマネージャーのこめかみがピクピクッと動いて、怖い雰囲気がしばらく立ち込めた。
「『ダダ』ってのはどうかな?」
「駄々っ子のダダですか?」
「そう。それに君はダダイストみたいだからね」
いちいち文化人臭を漂わせてくる、風俗店『マーラ』のマネージャーであった。
「処女ではないよね、もちろん?」
「はい」
いつかこうなると思っていたから、一昨年の秋にバージンを捨てた。相手はタカミチという大学生だかセミプロのパチプロだか、良く分からないやつだった。タカミチは彼氏ではなかったが、今でも時々連絡が来る。
タカミチはアタシに良く、風俗嬢になれ、と言っていた。おまえは風俗嬢に向いている、いや、風俗嬢にしか向いていないんだ、と。
そんなことを言われてもアタシはタカミチの事が嫌いではなかった。タカミチは自分でも、おれは何者でもない、何者にもなれないんだ、と言っていた。
「社会で何者になったら良いかがわからない」そう言いながら大学をズルズル留年し、パチンコで儲けては風俗に足しげく通うような男だ。服装だけは、古着と革とシルバーでキメていた。
マネージャーは名刺をくれたけれど、アタシはそれを見もせずバッグにしまった。マネージャーはマネージャー、記号的存在に過ぎない。アタシはそう思っていた。風俗にまつわるすべてを、自分自身も含めて、記号に還元しようとしていたのかもしれない。