第1話

文字数 978文字

社長室に行くのって緊張するな。

コン!コン!

「はーーい!」

「し、失礼します!」

ドアを開けると、大きな肌色の桃が目に入ってきた。いや、違う、社長のケツだ。

「あ、君、すまんが、右のお尻を掻いてくれないか?」

「は?」

「手が届かないんだ、頼む」

「は、はい!」

なぜか、社長の右尻を掻かなくてはいけなくなった。
ボリボリ……

「あー気持ちいい。ありがとう!すまんね!」

「あ、いえ、社長、これを頼まれて届けに来ました」

深く腰掛けた社長の重みで、椅子がギシッと音をあげる。社長は僕のプリントをふむふむと眺めている。

「あー、君!専務を呼んで来てくれんか!」

「は、はい!」

僕は急いで専務を呼びに行き、社長室へと連れてきた。

「何だよ?」
専務が言う。

「お前、今月の売り上げどうなってる?低すぎるじゃないか?!」

社長は顔を赤くして茹でダコみたいに怒っている。

「あ?そんなの知らねーよ。うちの営業のやつらが仕事してねーんじゃね?」
専務が耳の穴に人差し指を入れながら言う。

「お前、何だその言い方は!!」


2人は兄弟だ。兄が社長で弟が専務。
僕は気まずくなり、会釈をして出て行こうとしていたが……

「君!そこの冷蔵庫を開けてくれ!」

「はい!」

「ヤクルトはあるか?!」

「あ、ありません!」

「お前、またわしのヤクルト飲んだだろ?」

「飲んだよ、わりーか?」
専務は社長の目を見ずに呟く。

「お前はいつもそうだな!昔からわしの物ばかり奪うよな!」


社長は禿げ頭から湯気が立ち上がり、今にも沸点まで達しそうだ。
僕は頼まれた冷えピタを社長の額、いや、額と頭の境い目あたりにピタッと貼った。


「わしは見たんだぞ!お前と妻の政子が一緒に並んで歩いている所を」

「は?見間違えだろ?」

「しらばっくれるな!探偵に頼んで撮ってもらった写真もあるんだ!」

社長は机へと写真をばら撒いた。それはホテルから出てくる2人の写真、数枚だった。

ヒェー!何かのドラマの修羅場か?今すぐ逃げ出したい。


「あー見つかっちまったか。政子さんはお前には勿体ない女だ」

「おま、認めるのか?!」

「政子さんもこの会社も奪ってやるつもりだったのにバレたか」

「お、お前という奴は……」

社長は拳を震わせながら、専務の胸ぐらを掴んで叫び散らかした。


「許さん!お前だけは許さんぞ!」


社長室にピーッ!と沸騰音が鳴り響いた。


その瞬間、爆発音と共に

僕は社長室ごとふっ飛ばされた。




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