プロット
文字数 3,356文字
起:
春日野るいは13歳。3年前に両親を亡くして以来、親戚の援助を受けながら、双子の妹のれいと二人で暮らしている。
頭脳明晰冷静沈着、恐怖の感情が薄いるいと、明るく天真爛漫で、とんでもない怖がりのれい。
妖怪や幽霊の目撃証言が絶えない不思議な街で、二人の生活は穏やかだった。
ある日、春日野姉妹は学校帰りのトンネルで妖怪の集団『百鬼夜行』と出会い、気絶したれいは百鬼夜行にさらわれてしまう。何も手がかりがない中、るいは一つのことを思い出す。
百鬼夜行の最後尾を歩いていたのは、確かに、同じクラスの山本君だった。
承:
山本緑朗 は、真面目で気弱で心優しく、周囲から舐められっぱなしのクラスメイトである。
嘘をつくのもへたくそで、百鬼夜行について質問攻めしたるいに著しく動揺。放課後、死に物狂いで追いかけてみれば、あっさりと口を割った。
山本くんは、代々妖怪の総大将を務める妖怪名家・山本家の次男であり、現在の百鬼夜行の総大将は山本君の双子の兄だというのだ。
妖怪や幽霊など、闇夜に生きる存在は、人々の悲鳴をエネルギーにしている。しかし、テレビやインターネットの恐怖映像で人間が『恐怖』に慣れた現在、妖怪たちは皆、恐怖の収集に苦労しているという。
とんでもなく怖がりで、それゆえに最高の悲鳴を生み出すれいは、妖怪にとって宝のような存在なのだ。
当の山本くんも、人を怖がらせるのが著しくへたくそであり、今は百鬼夜行のおこぼれで生き延びているものの、日々の活力はほとんどなく、このままだといつか燃料切れで『闇夜に溶けて』しまうという。
兄の行いの非道さに憤りはあれど、百鬼夜行を裏切ることになれば自分も危ないと躊躇う山本くん。
るいは、まっすぐに彼の目を見て言う。
『だったら、私のとびっきりの悲鳴、山本くんだけに聞かせてあげる』
転:
春日野れいは震えていた。恐怖ではなく、怒りのためだ。
れいを誘拐した謎のヨーカイ、山本護朗 は超絶イケメンだが、俺様なのがいけ好かない。双子の弟になにやらウックツ?した感情を抱いているようで、『妹』であるれいを羨んでるフシがあるとこなんかも気に食わない。
もちろんヨーカイは怖い、怖くてたまらないが、何かあるとすぐれいを驚かせてくるのもまたいけ好かない。
『アギャーッこわいこわいこわい!!!!!!!!!こわいけど負けない!!!!!!!あんたたちなんかね、うちのお姉ちゃんがすぐこてんぱんにしてくれるんだからアギャーーーーッ!!!!こわいーーーーーッ!!!!!!』
『総大将、コレが『最高』の悲鳴ですか……』
『ちげーよ多分………』
・・・・・・・
れいが恐怖に負けずに奮闘する一方、るいと山本くん(弟)は、れい奪還に向けて計画を進めていた。百鬼夜行日は月に一度。れいを攫った総大将の居場所は、弟の山本くん(弟)にすら分からない。そもそも山本くんは、妖怪としての特殊能力などほぼ生まれ持っておらず、幼いころから優秀な兄と比較すらされずに育った。誰もが見捨てた山本くんを、それでも信じていてくれたのが兄だが、最近はいよいよ話もしてもらえないという。
いよいよ手づまりな日々の中、白昼堂々、るいたちの学校に百鬼夜行が現れる。変わらず元気なれいと、なぜかげっそりした妖怪たち。れいに駆け寄ろうとするるいに、山本護朗 が立ちふさがる。
『あの日、トンネルの中で特別な『悲鳴』を聞いた気がしてこの女を攫ったが、どうやら見当違いだったみてえだ』
『………だったら、すぐにれいを帰して』
『いや、帰さん』
『ちょっと!!ゴローちゃんの極悪嘘つきバカ妖怪!!家に帰してくれるって言ったじゃない!!』
『妹さん、めちゃくちゃに口が悪いな……』
『あのな、どうやら春日野るい――俺が欲しいのはお前だ』
『聞いちゃダメだよお姉ちゃんこんな掌クルクル返し男の言葉!!』
『ちったあ黙れねえのか春日野れい!!!』
『キャーコワイー』
『バカにしてんのか春日野るい!!』
いよいよ業を煮やした護朗は、再びれいを抱き上げる。
『これは命令だ春日野るい、この女を救いに来い。心からの悲鳴をあげさせてやる。場所は満月台の妖怪屋敷――――分かるよな、緑朗?』
結:
瞬間、れいと百鬼夜行は姿を消し、真昼のはずの空は暗く染まり月が浮かぶ。
パニックになった学校から、るいと緑朗は二人抜け出し、自転車が焦げない緑朗を後ろに乗せ、真昼の暗闇を走り出す。満月台の妖怪屋敷―――街はずれの高台にある打ち捨てられたお屋敷は、護朗と緑朗がともに幼少期を過ごした場所だった。
思い出話を続ける緑朗の口調は明るいが、背中からはどんどん重みがなくなってゆく。緑朗が闇に溶けかけていることを察するるい。月明りが濃くなり、二人の影も色濃くなる。
『本当は、春日野さんのこと、ずっとすごいなって思ってたんだ……』
『何、ほんとうにやめて、このタイミングでそんな話しないで』
『ぼくは妖怪のくせして怖がりで、人を怖がらせられないダメ妖怪だったから、春日野さんがいつもかっこよく見えた―――この世に、こわいものなんか何もないみたいで』
『………そんなこと』
いよいよ満月台を上り詰めた瞬間、後ろを振り向いたるいは言葉を失う。
そこにあるのは、灯りを無くした町だけだった。
山本くんが消えてしまった。私が巻き込んだせいで。いつかの約束も、果たしてあげられないまま。
『こわい………』
るいの口から、小さなつぶやきが漏れた。やがて、濁流のように言葉があふれだす。
『本当は全部こわいよずっと、おかしいよみんなるいはしっかりしてるから大丈夫ねって、私がどれだけ、どれだけ夜不安で昼間眠いかもしれないで!!!!!ふたちぼっちで生きてゆくなんて――――』
虚空に向かって叫んだるいは、深呼吸すると涙をぬぐう。
『それでも、れいがいなくなるのが一番こわいよ……』
最後、ほとんど呻いたるいの影がゆらりとゆらめく。
覚悟を決めて、妖怪屋敷の門を開くゆい。
『ありがとう、春日野さん―――悲鳴を聞かせてくれて』
横から聞こえた声にるいが驚いた瞬間、爆音が生り響いた。
唖然とするるいを横目に、妖怪として完全覚醒した緑朗が屋敷の中へ駆け抜けて行く。
何か、モノが折れたり倒れたりギッタンバッタンになったりする音が響いた後、屋敷の中かられいが、続いて、傷だらけながらなぜか笑顔の護朗、同じく傷だらけながら何故か真っ赤に赤面した緑朗が出てくる。
『あーーお姉ちゃんこわかったよお♡♡』
『小芝居はよろしい、れい―――それよりも、山本護朗、説明して』
『何を?』
『闇夜に溶けたはずの山本くんが元気になった理由、あなたが今にやけてる理由、その他もろもろ、全部。』
『そりゃあ、あいつがお前に惚れてるからだよ!!!』
『兄さんッ!!!!!!!!!!!!』
いよいよ茹でタコのようになった緑朗は、顔を覆ってうずくまる。
『………だれが、だれに???』
『いやあな、オレは前々から思ってたんだよ、アイツこそが妖怪の総大将になるべきだって』
『めんどくさいからだろ兄さん………』
『だけどさ、どーもあいつは踏ん切りがつかねえで、秘めたる力はすげーのに『妖怪』に成りきれねえ。だから、とびきりの悲鳴を聞かせてやんねえと、と思って――に、しても、どうしてこうめんどくせえのに惚れるかね、そのせいで俺だってこんな計画打つハメに……』
『よく意味が分からないのだけど……』
『お前も勘の鈍いやつだなあ。妖怪にとって悲鳴がごちそうっていうのは聞いてただろう?その中でも特に―――惚れた相手の悲鳴が最高ってな!!』
『つまり……?』
『もうやめてくれ春日野さん………』
死にそうな声で呻く緑朗と、にやつきながら彼の背を叩く護朗。
二人の姿を横目に、自転車に二人乗りして春日野姉妹は、夕暮れの街を帰路に就く。
『お姉ちゃんさあー』
『……何?』
『本当は、もう、ぜんぶ、分かってるんじゃないの?』
何も返さず、ただ、自転車を漕ぐスピードを速めたるいに、れいはケタケタ笑う。
『妖怪に目ぇ付けられちゃったね、私たち』
『ほんとうに、面倒くさい……』
『でも、こわくないでしょ?お姉ちゃんなら』
いたずらっぽく笑うれいに、微笑み返するい。
明日からも、愛する妹のためならば、春日野るいは怖くない。
春日野るいは13歳。3年前に両親を亡くして以来、親戚の援助を受けながら、双子の妹のれいと二人で暮らしている。
頭脳明晰冷静沈着、恐怖の感情が薄いるいと、明るく天真爛漫で、とんでもない怖がりのれい。
妖怪や幽霊の目撃証言が絶えない不思議な街で、二人の生活は穏やかだった。
ある日、春日野姉妹は学校帰りのトンネルで妖怪の集団『百鬼夜行』と出会い、気絶したれいは百鬼夜行にさらわれてしまう。何も手がかりがない中、るいは一つのことを思い出す。
百鬼夜行の最後尾を歩いていたのは、確かに、同じクラスの山本君だった。
承:
嘘をつくのもへたくそで、百鬼夜行について質問攻めしたるいに著しく動揺。放課後、死に物狂いで追いかけてみれば、あっさりと口を割った。
山本くんは、代々妖怪の総大将を務める妖怪名家・山本家の次男であり、現在の百鬼夜行の総大将は山本君の双子の兄だというのだ。
妖怪や幽霊など、闇夜に生きる存在は、人々の悲鳴をエネルギーにしている。しかし、テレビやインターネットの恐怖映像で人間が『恐怖』に慣れた現在、妖怪たちは皆、恐怖の収集に苦労しているという。
とんでもなく怖がりで、それゆえに最高の悲鳴を生み出すれいは、妖怪にとって宝のような存在なのだ。
当の山本くんも、人を怖がらせるのが著しくへたくそであり、今は百鬼夜行のおこぼれで生き延びているものの、日々の活力はほとんどなく、このままだといつか燃料切れで『闇夜に溶けて』しまうという。
兄の行いの非道さに憤りはあれど、百鬼夜行を裏切ることになれば自分も危ないと躊躇う山本くん。
るいは、まっすぐに彼の目を見て言う。
『だったら、私のとびっきりの悲鳴、山本くんだけに聞かせてあげる』
転:
春日野れいは震えていた。恐怖ではなく、怒りのためだ。
れいを誘拐した謎のヨーカイ、
もちろんヨーカイは怖い、怖くてたまらないが、何かあるとすぐれいを驚かせてくるのもまたいけ好かない。
『アギャーッこわいこわいこわい!!!!!!!!!こわいけど負けない!!!!!!!あんたたちなんかね、うちのお姉ちゃんがすぐこてんぱんにしてくれるんだからアギャーーーーッ!!!!こわいーーーーーッ!!!!!!』
『総大将、コレが『最高』の悲鳴ですか……』
『ちげーよ多分………』
・・・・・・・
れいが恐怖に負けずに奮闘する一方、るいと山本くん(弟)は、れい奪還に向けて計画を進めていた。百鬼夜行日は月に一度。れいを攫った総大将の居場所は、弟の山本くん(弟)にすら分からない。そもそも山本くんは、妖怪としての特殊能力などほぼ生まれ持っておらず、幼いころから優秀な兄と比較すらされずに育った。誰もが見捨てた山本くんを、それでも信じていてくれたのが兄だが、最近はいよいよ話もしてもらえないという。
いよいよ手づまりな日々の中、白昼堂々、るいたちの学校に百鬼夜行が現れる。変わらず元気なれいと、なぜかげっそりした妖怪たち。れいに駆け寄ろうとするるいに、
『あの日、トンネルの中で特別な『悲鳴』を聞いた気がしてこの女を攫ったが、どうやら見当違いだったみてえだ』
『………だったら、すぐにれいを帰して』
『いや、帰さん』
『ちょっと!!ゴローちゃんの極悪嘘つきバカ妖怪!!家に帰してくれるって言ったじゃない!!』
『妹さん、めちゃくちゃに口が悪いな……』
『あのな、どうやら春日野るい――俺が欲しいのはお前だ』
『聞いちゃダメだよお姉ちゃんこんな掌クルクル返し男の言葉!!』
『ちったあ黙れねえのか春日野れい!!!』
『キャーコワイー』
『バカにしてんのか春日野るい!!』
いよいよ業を煮やした護朗は、再びれいを抱き上げる。
『これは命令だ春日野るい、この女を救いに来い。心からの悲鳴をあげさせてやる。場所は満月台の妖怪屋敷――――分かるよな、緑朗?』
結:
瞬間、れいと百鬼夜行は姿を消し、真昼のはずの空は暗く染まり月が浮かぶ。
パニックになった学校から、るいと緑朗は二人抜け出し、自転車が焦げない緑朗を後ろに乗せ、真昼の暗闇を走り出す。満月台の妖怪屋敷―――街はずれの高台にある打ち捨てられたお屋敷は、護朗と緑朗がともに幼少期を過ごした場所だった。
思い出話を続ける緑朗の口調は明るいが、背中からはどんどん重みがなくなってゆく。緑朗が闇に溶けかけていることを察するるい。月明りが濃くなり、二人の影も色濃くなる。
『本当は、春日野さんのこと、ずっとすごいなって思ってたんだ……』
『何、ほんとうにやめて、このタイミングでそんな話しないで』
『ぼくは妖怪のくせして怖がりで、人を怖がらせられないダメ妖怪だったから、春日野さんがいつもかっこよく見えた―――この世に、こわいものなんか何もないみたいで』
『………そんなこと』
いよいよ満月台を上り詰めた瞬間、後ろを振り向いたるいは言葉を失う。
そこにあるのは、灯りを無くした町だけだった。
山本くんが消えてしまった。私が巻き込んだせいで。いつかの約束も、果たしてあげられないまま。
『こわい………』
るいの口から、小さなつぶやきが漏れた。やがて、濁流のように言葉があふれだす。
『本当は全部こわいよずっと、おかしいよみんなるいはしっかりしてるから大丈夫ねって、私がどれだけ、どれだけ夜不安で昼間眠いかもしれないで!!!!!ふたちぼっちで生きてゆくなんて――――』
虚空に向かって叫んだるいは、深呼吸すると涙をぬぐう。
『それでも、れいがいなくなるのが一番こわいよ……』
最後、ほとんど呻いたるいの影がゆらりとゆらめく。
覚悟を決めて、妖怪屋敷の門を開くゆい。
『ありがとう、春日野さん―――悲鳴を聞かせてくれて』
横から聞こえた声にるいが驚いた瞬間、爆音が生り響いた。
唖然とするるいを横目に、妖怪として完全覚醒した緑朗が屋敷の中へ駆け抜けて行く。
何か、モノが折れたり倒れたりギッタンバッタンになったりする音が響いた後、屋敷の中かられいが、続いて、傷だらけながらなぜか笑顔の護朗、同じく傷だらけながら何故か真っ赤に赤面した緑朗が出てくる。
『あーーお姉ちゃんこわかったよお♡♡』
『小芝居はよろしい、れい―――それよりも、山本護朗、説明して』
『何を?』
『闇夜に溶けたはずの山本くんが元気になった理由、あなたが今にやけてる理由、その他もろもろ、全部。』
『そりゃあ、あいつがお前に惚れてるからだよ!!!』
『兄さんッ!!!!!!!!!!!!』
いよいよ茹でタコのようになった緑朗は、顔を覆ってうずくまる。
『………だれが、だれに???』
『いやあな、オレは前々から思ってたんだよ、アイツこそが妖怪の総大将になるべきだって』
『めんどくさいからだろ兄さん………』
『だけどさ、どーもあいつは踏ん切りがつかねえで、秘めたる力はすげーのに『妖怪』に成りきれねえ。だから、とびきりの悲鳴を聞かせてやんねえと、と思って――に、しても、どうしてこうめんどくせえのに惚れるかね、そのせいで俺だってこんな計画打つハメに……』
『よく意味が分からないのだけど……』
『お前も勘の鈍いやつだなあ。妖怪にとって悲鳴がごちそうっていうのは聞いてただろう?その中でも特に―――惚れた相手の悲鳴が最高ってな!!』
『つまり……?』
『もうやめてくれ春日野さん………』
死にそうな声で呻く緑朗と、にやつきながら彼の背を叩く護朗。
二人の姿を横目に、自転車に二人乗りして春日野姉妹は、夕暮れの街を帰路に就く。
『お姉ちゃんさあー』
『……何?』
『本当は、もう、ぜんぶ、分かってるんじゃないの?』
何も返さず、ただ、自転車を漕ぐスピードを速めたるいに、れいはケタケタ笑う。
『妖怪に目ぇ付けられちゃったね、私たち』
『ほんとうに、面倒くさい……』
『でも、こわくないでしょ?お姉ちゃんなら』
いたずらっぽく笑うれいに、微笑み返するい。
明日からも、愛する妹のためならば、春日野るいは怖くない。