第61話 鳥

文字数 376文字

 春になると、鳥がおしゃべりをはじめる。
 ピチュピチュ、ピチュピチュ、愛らしい声で、一生懸命、何かいっている。
 昨日、メガネ屋の奥さんが店先に立って、声の方向を見やっていた。
 町を歩いていて、ホッとするのが鳥の声。さえずり。
 電柱の上か、二、三階建ての上から聞こえてくる。

 地べたに這いつくばって、歩いている人間の頭上から聞こえるその声は、素敵な、最高の音楽に聞こえる。
 なぜか、微笑んでしまう。

 鳥は、ただその小さな身体に備わった声を出しているだけだ。
 人に癒しを与えようとか、愉しませようとか、そんなこと考えてもいない。
 何をいっているんだろう、と人(僕)は思う。
 鳥はかってにしゃべり、聞くものがかってに愉しんでいる。

 義務とか権利とか、関係とか、小難しいものは何もない。
 こんなふうに、人と人も、やっていけたら、と、人のハシクレとして、おもう。
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