第21話 結界の中での事

文字数 1,366文字

 どれだけの時間が経っただろう。
 3人を浄化し続けていたら、少しずつ顔色が良くなってきていた。

 騎士団()のお兄さんには見覚えがある。
 子どもが好きで、よく街中で遊んでやっているのを見かけた。
 騎士団も魔術師団も貴族の子弟が多く、下町までやって来ないので珍しいと思って覚えていた。

 ここまで浄化したら大丈夫だよね。
 思ったよりうまくいった気がする。
 これでケガの治療に専念できるわ。

 あれだけの瘴気を浴びながら生きていられたのは、大きな傷を負って無かったからだろうけど……。
 うん。大丈夫。3人とも、擦り傷程度だわ。

 
 だけど、どうしようか。
 まだ、結界を通り抜けれる気がしない。

 私は少しだけ結界から手を出し、アイストルスト王国に張られた結界に触れる。

「痛っ」
 案の定、バチッと弾かれた。
 なるほど。今の私は魔力を使い続けてるから、それに反応して入れなくなっているんだわ。

 ルイーナ王国から逃げてきた時は、森もこんな状態じゃ無かったし。
 借りてた家に、転移魔法で直接移動したもんなぁ。
 転移魔法は、一度内部に入って印を付けてしまえば結界なんて関係無くなるもの。
 あまり知られていない事だけど……。

 ギルドの私の部屋には印を付けているけど、この3人を連れて飛ぶのはねぇ。
 
 仕方が無い。
 騎士団のお兄さんを起こすか。

「うっ。ふっ」
 一瞬、顔をしかめ騎士団のお兄さんは目を開く。
 上半身を起こそうとして失敗し、また転がってしまった。
 手を顔に当て、少し苦しそうな表情をしている。

 …………寝かせていた方が良かったかな?

 気を取り直して、私はカバンの中からティーカップを出して、カモミールティーを生成した。
 糖分補給もした方が良いと思って、クッキーを取り出す。

 ケーキのほうが良いかなとも思ったけれど、流石に斜め掛けできる布の袋からそんな物が出てきたら警戒されるだろう。いや、紅茶が出てきた時点で……ごほんげほん。
 いや、中の時間が止まってるアイテムボックスだから、大丈夫だけど。
 どのお菓子も夜会で出ていたものだから、味も美味しいハズ。

「飲むと良い。少しは気分が良くなると思う」
「え? ああ」
 今度はちゃんと起きられたようだ。
 私の手からティーカップを受け取り、一気に飲み干している。
「お菓子もどうぞ」
 そう言ってクッキーを差し出した。
 手に直接乗せているのではなく。ちゃんとハンカチの上に乗せて差し出した。

 多分何も考えれていないのだろうな。
 素直にクッキーも食べている。
 だけど、今度は食べながら辺りを伺いみている感じだわね。

「お茶のお代わりは?」
「あっ……えっと。たしか君は……」
 騎士団のお兄さんは戸惑うように訊いた。
 まだ少し視線を彷徨わせている。

 だよね。うん、わかる。
 結界の外は、瘴気が渦巻いている。
 そして、目の前にはティーポットを持った私。
 
 一応、ティーポットも出したんだよね。
 何も無いところから、お茶がいきなり湧き出てきたら驚くだろうから。
 というか、ティーセットがカバンから出て来てる時点でおかしいけど。

「ああ。私はハーマン・ド・ブラドルと言う。見ての通り騎士職だ」
 騎士のお兄さんは、ハーマンって言うんだ。
「ナタリーです」
 向こうも私を知っていて、だけど名前は知らないと言った感じだったから、名前だけ言った。
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